敵は多すぎても困りもの
律達三人は他の班とは別行動で正面から拠点攻略に乗り出していた。道中の啓示派や、待ち構えていた戦闘員をそれぞれ互いに取り合い、ルージュと律は競い合っていた。
その光景は相手から見れば悪夢そのものの様相を呈していたが、正面だけあって啓示派の戦闘員はとても多く、ただ倒して進むだけでは気が滅入ると二人は判断し、少しした頃には自然と雑談をしながら三人はそれぞれの敵を効率的に対応し倒していた。
「そこスナイパー居る」
「あいよ、意外と遠いな」
ルージュは魔法を使いスナイパーからの脅威を未然に排除する。その姿を見て律は心の中で冷や汗をかく。
「ルージュお前やっぱり腕上げたか?」
「そうか?昔と変わらんとは思うが......」
「昔より剣の動きもそうだが、さっきの魔法も読みずらいぞ?」
剣を持ち魔法でも攻撃をすると言う、お手本のような戦い方ではあるが、癖が全くないほどにそぎ落とされている。下手な覚悟で前に立てば律ですら足元をすくわれかねないだろう。
「そんなこと言って、しばらく見てないから上達したように見えてるだけなんじゃないのか?」
「まぁ、それはあるかもしれないが......」
確かに昔のルージュが戦っている姿を、まじまじと見たことは確かにない。だが模擬戦は何回もやっている。その時と比べていたのだが、どうやら本人は自覚がないようだ。
「あ、敵だ。ちょっと掃討してくるわ」
「おう、とり逃すなよ」
虫を捕まえる感覚で掃討に行くルージュを二人は見守り、他に敵がいないか周囲を警戒しつつ二人は先へ進む。
内部は無駄に広く、火薬や鉄の匂いが僅かだが残っている。兵器工場と言われても違和感はない。おそらく魔道砲もこの場所で作ってそのまま設置したのだろう。
「あのー、律少将」
「なんだ?フリンズ少尉」
「ルージュ少佐って情報部の人ですよね」
「そうだが?それがどうした」
何故当たり前のことを聞くのだ?という目でフリンズを見ると、彼は疑惑の目を向けてくる。
「なんであんなに強いんですか?下手したら小隊員の中でも上位に行きますよね」
「まぁ行くだろうな」
「では何故小隊員じゃないのですか?」
「まぁ、小隊新設の時に誘ったは誘ったさ。断られたけどな」
いまだに当時の事は覚えている。
待遇面や給与、そのほか様々なことを説明した後に副長になってくれないかとルージュに相談したのは律自身なのだから。普通なら二つ返事で了承を取れる内容だっただろう。実際断られるなんて微塵も考えていなかった。しかし彼はしばらく考えた後、笑顔を律に向けその場で「悪いが断る」と言ったのだ。
「なぜです?うちの小隊、他の部隊よりも待遇面良いですよね」
「まぁ確かに待遇面は格段に良いな。比べるまでもないほどだ、しかしあいつは断った。何が理由でとか、何が納得いかないとかは一言も言わず。次の月で情報部に転属していった奴なんだ」
「本当にそれ以上は何も言わなかったのですか?」
「え?あー、そういや後日最終確認を取りに行ったら、お前なら大丈夫だろ?って言われて突き返されたな」
今まで意識したことは無かったがルージュが要求を突き返したのは、あれが初めてだった。当時は断られたことで少し落ち込んでそれ以上考えなかったが、今思えば彼らしくない妙な行動だ。
「まぁ、話はそれたがあいつはそれだけ強い。心配は不要だろ」
「そうですか......。そうですね。失礼しました」
「いやいや、もっと話しかけてくれてもいいんだぞ?暇だからな」
「それはそれでどうかと思いますけど」
律の笑みにフリンズは引きつった顔を見せる。
「何を話してたんだ?」
「おっ、そっちは終わったのか?」
「あぁ、終わったは終わったんだが全く歯ごたえがないぞ」
「そんなもんだろ、啓示派なんて司祭でも強い奴ほとんどいないんだから」
「それもそうか、だが近接戦がお前が基準だからちょっとなぁ......」
剣を見ながらため息をこぼすルージュ。確かに彼にとっては永遠と雑務を押し付けられるような苦しさがあるのだろう。
「まぁ、ひとまず先に進もう。一班と二班は予定通りならそろそろ拠点右側を殲滅し終わってるころだろうしな」
「それもそうか、さっさと帰って寝たいし日が沈む前には終わらすぞ」
「別にいいが、ここ日が見えなくないか?」
律達が今いる場所は拠点の内部。外の様子が見れる窓などは一切なく、さらに戦闘をしているため体感時間もおそらく大幅にずれている。正確な計測は不可能な状況だ。
「できるだけ早く終わらすってことでいいんだよ。少将は気にし過ぎだ」
「そうかい。じゃ急ぐとしますか、フリンズ警戒は怠るなよ」
「分かっています。隊長は僕を何だと思っているのですか」
フリンズは不満だと言わんばかりにジト目を向けてくる。先ほどの会話の後だ、自身の実力に少し不安を感じたのだろう。なかなか可愛い奴だ。
律はそんなフリンズに向けて笑みを見せ「分かっているならいい」と、言葉とは裏腹に上官としてエールを送ることにした。




