敵前逃亡はダメですか
啓示派の拠点付近についた、律と兵士3000名は目の前の光景に思わず喉を鳴らしていた。最初はいつも通り防御力が強いだけの拠点だと思っていたからなのだが、現場につくとそれは一変する。
「少将ありゃないですぜ......奴ら大規模殲滅魔道砲持ってますよ。しかも正面サイドにどでかく。」
「そうだな。あれどうするか......。射程圏内なら普通の兵士でも蒸発するぞ。」
大規模殲滅魔道砲、帝国が過去に作り上げた対管理者用試作機。範囲内に入ったら最後、防御魔法をも貫通し、人の身ではその場で蒸発する範囲型の兵器だ。
「一応聞くがルージュ殿あれ知ってたか?」
「悪いあれは普通に想定外だ。恐らく何かしらの魔法で認識をかく乱してたんだろ」
「あぁ、それなら遠距離からの観測結果と合わないわけだ」
まるで銃口を喉元に突きつけるように配置されている二門の大砲。このままでは下手に進めず、かと言って攻めなければこれ以上の増築も啓示派はするだろう。現時点でも本格的に拠点ではなく要塞規模、もしやここから帝都を狙う気ではないだろうかとも思えてしまう。
「一応聞いておくが、撤退はしてもいいのか?」
「敵前逃亡扱いになってもいいならいいんじゃないか?律少将」
「だよなぁ......」
つまり逃げ道など無く、我々は新兵3000を引き連れてこの要塞を攻略しなければならないということだ。無理ではないだろうか。
「律少将、第一班と第二班配置についたようです。あとは合図をお願いします」
「分かった。なぁルージュ殿、新兵はここで見ていても問題なさそうか?」
「ちと遠いんじゃないか?合図が終わった後に少し前進させれば問題ないとは思うが......」
「分かった、ロドリゲス中佐任せた」
「承知しました。では私はあちらの本陣に戻ります」
一礼をしてその場を去るロドリゲス中佐を背後に律は砲台を見つめる。
「二門か、今ここにいる小隊員はフリンズだけだよなぁ......」
「どうした?お前がやればいいだろ」
「あそこまで行くのはめんどくさいから嫌だな。あ、伝令員いるか」
「はい、なんでしょう少将」
「あのバカでかい鉄くずが攻撃したら作戦開始だ。そう第一班と第二班に伝えてくれ」
「分かりました」
そう言いその場でトランシーバーを片手に持ち指令を伝える伝令員。聞き覚えのある声が了解と言ったのを確認して律は剣を持つ。
「よし、全て準備は整ったみたいだな。始めるとしよう。ところでルージュお前腕は鈍ってないな?」
「何を言ってるんだ?俺はいかんぞ?」
「少将命令だ、ついてこい。破ったら軍法会議行きだ」
「お前、職権乱用って言葉知ってるか?」
呆れながらも剣を持つルージュ。どうやら最初から分かっていたらしい。にやりとルージュを見ると半目で返されてしまったが、まぁ彼も喜んでいるのだろう。
「まぁまぁ、そんなつれないこというなよ。うれしいんだろ?」
「うれしくねぇよ。俺情報部なんだぞ!」
「よしフリンズとルージュついてこい。俺があのスクラップから放たれる魔法を同時に切るから二人は大砲を破壊しろ、いいな」
「おい話を聞け」
「ルージュさん貴方なら分かっていると思いますが、こうなった小隊長には何言っても無駄ですよ。諦めてください」
ペレスのすべてを諦めたような視線を目視したのか、ルージュはため息をついて剣を持った。
「律少将。しばらくぶりだからあまり手荒なことは出来ないぞ。分かってるよな」
「分かってるともルージュ殿。だがお前ならあれくらい壊せるだろ?」
「なめるなよ」
「それでいい、じゃあ行くか」
律を先頭に一歩下がった左右後ろにルージュとフリンズが剣を持ち大砲の射程圏内に入る。
学生の帰り道のようにさらりと入る律、重々しく覚悟を決めて入る二人。そしてその光景を唖然として見守る新兵達。感情はそれぞれだろう。
「なんというか久しぶりだな。こうして肩を並べて戦うのは」
「あぁ、そうだな。俺は二度とごめんだったんだがな」
「お二人とも軽口はそこそこで撃ってきますよ」
「え?早くないか」
そんなに早く撃てるものでは無いはずなんだが、おかしい。
だが目の前の光景は、二門の魔道砲が魔力の圧縮と魔法式の展開準備が終わっていた。
「魔力量が多い人材が啓示派にもいるんだな。驚きだ」
「いや、感心している場合じゃないだろ。準備しろ律少将」
「そうですよ。いくら小隊長を信用しているからって今回は本当に頼みますよ」
「分かってる分かってる。安心しろ」
あの程度の魔道砲、この二人なら恐れる必要があるのかと思ってしまうがまぁいい。
二門の魔道砲が律達を狙う、どうやら二門で同時に打つらしい。なかなか容赦のないことをする。
「来るぞ、準備はいいか」
「問題なし」
「こちらも大丈夫です」
律が剣を持ち構え終わった瞬間。魔道砲から放たれた極太のレーザービームが、律達に向かってくる。弾丸よりも早く、魔力で出来ているため質量もない。恐らく大抵の人物には視認もできないだろう。
しかし律やルージュ、フリンズは違う。
律はレーザービームを真正面に笑みを向け、魔道砲の攻撃を丸ごと。音や色すらもすべてまとめて横に切り、魔力を霧散させる。攻撃力を失い、ただのインテリアと化した2本の砲身をそれぞれ二人は律が切り開いて霧散させたレーザーの中央を進みながら真正面で破壊する。
砲身を破壊された魔道砲は二度と攻撃を放つことは出来ない。制御部分が失われているのだから当然だ。
「おー、魔法の腕は鈍ってないようだなルージュ殿」
「うるせぇお前がバカみたいに強いから勝てないだけで、軍学校での成績は良かったんだよ」
「律少将、軽口言ってないで早く来てください。拠点の制圧が目標なんですから」
フリンズの言葉を受け律は二人の元に移動する。
壁の上、なかなかいい見晴らしだ。しばらくここで他の班の行動を見ていたいものだが、そうもいかないだろう。
「さて正面から攻める戦力は三名、ノルマは一人当たり50人だな」
「あのー、ルージュ少佐は情報官なのでノルマを課すのはどうかと......」
「いいやフリンズ殿、口を挟まないでくれ。俺はこの馬鹿少将を黙らせたいからノルマはそのままで大丈夫」
「今誰を黙らせるって?ルージュ殿。寝言は寝て言う物だぞ?」
「なにをいってる?律少将。お前の背中を守ってたやつが誰だったか忘れてないよな?」
「そうだな、では行くぞ。二人とも」
「あぁ......。僕の出番なさそうですね......」




