称号とは実に使い勝手が良い物
ざわめく兵士たちの声が聞こえる。当然だ。この場に居るほとんどの人は集められている本当の理由を知らない。不安を多く持つだろう。しかしそれでも作戦というものは出来るだけ隠すに限るのだ。
律を先頭に小隊員がゆっくりと新兵でできた、列の前を進む。一歩また一歩と進むたび、列の前に居た兵士達は律達の不気味な無言の圧力に押し黙り視線が吸い込まれていく。一人、また一人とそれは徐々に伝播し、やがて律が中央に立つ頃にはすっかり静かになり、新兵全員の視線は小隊に降り注ぐ。
「やすめ」
一斉に新兵たちは姿勢を変え、中央にいる律を見る。
(毎回思うが自分がこの小隊で一番身長が小さいってのはいかがなものだろうか)
一人そう葛藤するが、そんなことはお構いなしにことは先に進んでしまう。
「これより少将から訓示をいただく。一言一句聞き逃さないように、以上」
「少将どうぞ」
「あぁ、わるいな」
いくつかの兵士たちが息を飲んでいる。少将と聞いて緊張しているのだろうか。
「新兵諸君おはよう。今回の総指揮官、名を玖重 律と言う。今回ここに居る3000名は俺の指揮下に入ることになっている。新兵しかいない非正規編成ではあるが、安心して任せてほしい」
律が名乗ると新兵たちはまたざわめき始める。
「今、玖重律って言ったか?」
「言ったよな」
「本物初めてみた」
などなど様々な声が聞こえる。ここまで名前が認知されているのは、広報部が異常なまでに律の名前で宣伝を繰り返した影響だろう。
おかげで空気は和らいだが、感謝はしたくないものだなと律は苦笑する。
「さて今回の訓練だが簡単に言うと、ちょっと隣の町へ行って君たちはバラードを聞きに、我々小隊は弾きに行くという簡単な任務だ。」
「目標は啓示派の拠点、現場までのエスコートは情報部がしてくれるため問題はない。安心して会場に行けると保証しよう」
各所で笑いが起きる。小隊員はもちろんの事一部の新兵も笑っているようだ。なかなか有望な人物もいるらしい。
「しかし、一つ問題がある。君たちは基本その音色を聞くだけだが、我々が少しだけ音程を外してしまうかもしれない」
「そのためこの場で新兵諸君に命令する。啓示派拠点周辺の包囲と、我々が打ち漏らした啓示派の掃討を実行せよ。各新兵は指揮官の指揮に従って行動し、もし相手が啓示派の場合は上長に発砲の許可を取らなくていい。その場で撃て、いいな」
遠回しに反撃してくると言われ、新兵たちの表情が一気に強張る。今までそんな危険性がなかった訓練が実戦形式になるのだ無理はない。
「だがまぁ、我々の小隊にネズミを捕り逃す間抜けはいない。そうだろ?小隊員諸君」
律の言葉に周りに居た小隊員が苦笑する。その様子を見て新兵はつられて苦笑する者、顔を引きつる者など様々な表情を見せてくれる。
「まぁ、そう言うことだ。一応の警戒をしつつ、安心して学んでくれ」
「では新兵諸君、行くとしようか。そして帝国の立派な兵士に駆け上がってこい、いいな?」
律の言葉に新兵は高揚感をはらんだ瞳を映す。どうやら、少しはまともには出来たようだ。これでルージュに文句は言われないだろう。
軽くなった空気を確認してその場を立ち去り、少将用の帽子をかぶりルージュに視線を向ける。
「なんというか独特な檄だよな、お前」
「何をいまさら、俺に古代の将軍の様な檄を期待されてもそれは無理な話だ」
「そりゃそうだが......。お前が英雄じゃなければ成立しない物だぞさっきのは」
「まぁそうだろうな。そもそも俺はそっち向きではない、ならば立場を使うのが手っ取り早いだろ?」
英雄という地位は大抵の兵士には憧れの物なのだ。戦争中それを持った人物の話を聞ける、正直それだけでも思い出フィルターと補正がかかり、それほど優れたものでなくても問題は起こらなくなる。
「第一、めんどくさいし」
「本音が出てるぞ、シャキッとしろシャキッと」
「お前にそれだけは言われたくない。いつも自堕落なルージュ殿」
何故こういう時に限って、こいつはこんなにも真面目でいられるのか不思議でならない。
不満だという視線をルージュに向けると、ため息をつきつつ生暖かい視線を返されてしまう。
「それは今、関係ない。作戦行動中だぞ総指揮官」
「わぁ、真面目モードだ......」
「お前が指揮をとらなければならんからな。んでひとまず啓示派の拠点へ侵攻でいいんだよな」
「あぁ、それで問題ない」
啓示派の正門が確認できるあたりで新兵は待機する。その先は律達小隊の出番だ。
「お話し中失礼します」
「なんだ?」
「小隊から指揮官にする人選を伺いに来ました」
あぁ、そういえば現地で決めるのだった。
「小隊員、注目」
号令で小隊員は律の方に振り向く
「さて本日、指揮に回りたいものはいるか?」
「俺、回りたいです」
「私も」
「俺もお願いします」
どうやら三人は確定の様だ。
「あと二人、回ってくれないか?できれば少佐以上があと一人」
「では俺が行きましょう」
「助かる、さてあと一人誰でもいいが......」
辺りを見回すが手をあげるものは誰一人としていない。どうやら他の者は掃討戦に行きたいようだ。
「仕方ないロドリゲス中佐、行ってくれるか?」
「承知しました」
「悪いなついでにそっちの副将に任じる」
「拝命しました」
「お前の腕だ、万が一の時は俺の命令なしで動いても構わん」
作戦立案能力も、将としての資質も申し分ない。任せても何も問題だろう。
ロドリゲス中佐は律の言葉に頷き、律もそれを確認して小隊員を見る。
「では各員配置についてくれ。啓示派掃討作戦実行だ」




