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数億年後の君へ  作者: 櫛名
第二章
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魔法とは?


夕飯を食べ終わり、いつもと同じ食後のゆっくりとした時間がセリフィアと律の間に流れようとしていた。


しかし、律が食後に使っていた暖炉前の椅子は、洗い物をしていた内にセリフィアに占拠されており、そのため仕方なく食事で使っていた椅子に座ってたのだが、何とも解せない。しかし座るなとも言えず、客人のためむやみに強制することも趣味ではない。


「もしかして、ここ使いたいのですか?」


律のそんな気配に気づいたのか、セリフィアは本の隙間から覗いてくる。


「いいや別にいいんだが、なんというかこう?な」


まじまじとリラックスしている姿を見せつけられるのは、別に苦ではない。むしろ快適な空間と言われているようで、ありがたいのだが何とも複雑な気分である。


確かに座っていいと言ったのは事実なのだが、ここまで長く座られるとは考えていなかった。まして彼女がここまであの場所を気に入るとも思っていなかった。今後は発言には気を付けよう。


「何を考えているかは分かりませんが。まぁいいでしょう」


セリフィアが本を仕舞い、しっかりとこちらに視線を向けてくる。


「どうした?」

「いえ、ただ約束を守ろうかと思いまして」


セリフィアは椅子に座りながら律に向けて左手を差し出し、パチンと指を鳴らす。


次の瞬間、律の腕の周りから空間に亀裂が一瞬入り溶けて消えて行く。


「セリフィア、今何した?」

「貴方の望み通り、魔法を使えるようにしただけですよ?」

「なるほど、で今の演出は?」

「何もないと分かりづらいかと思ってそれっぽく作ってみました」


首を少し傾け、作ってみたというセリフィア。


なるほど、確かに分かりやすい。しかし、もう少し規模を落としてもらいたいものだ。


「まぁ、いいか。ひとまず使ってみたいんだがどう使えばいい?」

「思ったよりせっかちですね」

「そりゃ憧れの魔法だからな」


憧れの前では些細なことは全て霞んでしまうのだ。それはどのような人物でも関係ない。しかもそれが今までいくら努力をしても使えなかったものとなればなおさらである。


「まぁ初魔法ですし先ほどから恨めしそうに見ていた椅子を作ってみてはどうです?」

「え、そんな目をしてたのか......。すまんな」


意識はしてなかったが、どうやらかなり失礼な目を向けていたらしい。本当に申し訳ないと思えばセリフィアは何故か少し微笑んでくる。


「いえ、私がわざと占領していたので問題ないです」


セリフィアの言葉に、わざとだったのかよと思わず突っ込みそうになったが、その言葉を必死に飲み込む。


今下手につっこんで彼女の指導が受けられないとなると、魔法を使うことも正直ままならないのだ。生まれてこの方、魔法式の一つすら発動できたことは無く、現在の魔法に関する知識は紙一枚程度の厚さのしかないのだから。


「ではさっそく始めましょうか。まず発動の仕方ですがなんだと思います?」

「そりゃ、魔法式だろ?人類の魔法体系の基礎だ。それくらいは知っている」


律でも知っている当たり前の知識を話されても困る。人類は魔法式を使わないと魔法を行使できないのだから。


「残念ながら違います。答えは気合です」


............?


真顔でさも当たり前のようにそう言い放った彼女。どうやら魔法の師の選定を誤ったらしい。律は額に手を当て目をつぶらざるを得なかった。


「そこ、信じてないですね」

「当たり前だ、魔法って言ったら魔法式だろ。なんで気合になるんだよ」

「過去の神霊種が人類に広めた魔法体系ですね」

「あぁ、人類にとってはそれが限界なはずだろ?」

「まぁ普通だったらそうですね。ですが私が貴方に与えた魔法は別物です」

「はい?」

「ではこちらをご覧ください」


そう言い、見覚えのある椅子が描かれた紙をどこからか出すセリフィア。椅子はとても立体に書かれており、写真で撮った椅子と言われても違和感がないほどの出来栄えである。


「それ、うちの椅子だよな」

「そうです、私が今座っている椅子です」

「それをどうするんだ?」

「これを私の隣に置いてあると思い込んでじっと見つめてください」

「なるほど?」


意図はまったく分からないが、彼女の言うとおりにした方がいいのだろう。何故かそれが最短の道と、確信を持って思えるのだから。


「ここらへんでいいですかね」

「おう」


律はセリフィアの言う通り、彼女の魔法で近くの場所まで飛んできた椅子のイラストをじっと見る。近くで見ても本物と見分けがつかない、何とも不思議な......。


「あ、ちゃんとできましたね。やはりこう教えるのが一番早いです」


何を言っているのだろうか、律はセリフィアの言葉に思わず眉をひそめる。


「あれ、気づきませんか?まぁ、ひとまず時を止めますね」


セリフィアは右手で指を鳴らす。その音にあたりの空間がそれに呼応するように、一瞬膨らむような動作を見せ、もとに戻る。


「動いて大丈夫ですよ、貴方は対象外にしましたので」


対象外?彼女は一体何を言っているのだろうか、先ほどと何ら変わりない部屋のはず......。


(なんか暖炉の火止まってないですか)


なんとも不思議な光景だろうか、外の雪は空中にとまり、照明の炎も動いていない。なんと幻想的な光景だろう。


「いやいや、だめだ。思わず素で受け入れるところだった」

「何をしているのですか、ほら角度を変えてみてください」

「あ、あぁ分かった」


椅子から立ち上がり、角度を変えてセリフィアの椅子ともう一つの椅子を見る。


(あれ、なんで同じ椅子が二つあるんだ?さっきの紙は何処に?)


暖炉前にセリフィアが座っていた椅子と、全く同じ椅子がもう一つあることと空中に浮いていた紙がなくなっている事実に余計に思考は混乱する。


「これが魔法です。分かりやすいでしょう?」

「なんというか......なんだこれ」


セリフィアの言葉的に魔法を使ったのは確実だ。しかし魔法式を使っていない。やったことはイラストを凝視しただけだ。それなのに椅子がいつの間にか現れている。


「魔法とは本来こういうものです。魔法式なんていらないのですよ」


なるほど、さっぱりわからないが、彼女の言い分だとどうやら魔法は使えたらしい。恐らく今のと同じ手順をしたら同じ事が再現できるのだろう。しかしセリフィアの説明で腑に落ちない問題が一つだけ出来てしまった。


「一つ聞いてもいいか?」

「なんでしょう?」

「なぜ、魔法式を必要とするなんて手間を昔の神霊種は人類の魔法に課したんだ?」

「さぁ?分かりません。本人に聞かない事には確かめようがないですからね」


セリフィアは椅子から降り右手でもう一度指を鳴らす。その音を起点に暖炉の火は再び動き始め、外の雪も落ち始める。


「正直もう確かめようがない事です。気にするだけ無駄というものですよ」


少しため息をつきつつ、セリフィアはそう答える。


確かに無駄かもしれない。しかし何かしら意味があるのは確実だ。これを機に少し昔の魔法を調べてみるのもありかもしれない。


そう、口元に手を当てて考えていた律にセリフィアの視線が刺さる。


「それよりどうですか?初めて魔法を使った気分は」

「なんというか、改めて思うが無法だよなこれ」


元々魔法を使う人々には、とても便利でいいなという感情以上に、それを別のことに使えばいろいろ楽になるのになと感想を抱いていた。今はそれが自分の手で出来てしまう。その事実にひたすら感動に近い感情を抱いた。


「嬉しそうで何よりです。では私も約束を守ったので、ここらへんでお暇しますね」

「あ、あぁ今日はいろいろありがとな。あ、少し待った」

「はい?」


律は急いで保存室にしまってあったケーキを取り出し、机の上に置く。


「これ忘れ物」

「あぁ、ありがとうございます」


にこやかな笑みを浮かべ机の上のケーキに手を伸ばすセリフィア。その姿は見た目通りの少女にしか見えず、思わず微笑んでしまう。


「メインを忘れるなんて、少し気を抜きすぎなんじゃないか?」

「おや、メインを忘れたなんて心外ですね。私のメインは夕ご飯ですよ?」


セリフィアの笑顔と共に放たれた言葉に、少しの静寂が訪れる。


(......その言葉は非常に良くない気がする)


夕ご飯がメイン、恐らく彼女は無意識で放った言葉なのだろう。笑顔を見ればわかる。


「そうか。それは料理人冥利に尽きる」


少し矢継ぎ早な言葉になってしまったが、彼女が悪いのだ。そう思い視線を少し逸らす。


「何かあったのですか?」

「何でもないさ」


視線を逸らしたのが悪かったのだろう。彼女の不思議そうに覗いてくる。しかし何故だか今はその視線がとても痛かった。


「何か聞いておきたいことでもあるのですか?」

「いや、大丈夫だ。もし何か出来たら今度聞くことにする」

「そうですか。魔法のことであれは何でも聞いてみてください」

「分かった」


魔法が使えるようになったと言え、謎がとにかく多い。発動方法は教えてもらったが、具体的な問題点は使ってみないと何とも言えない。多く頼ることになるのは確実だろう。


「まぁ、その代わりにおいしい物は要求しますけどね」

「それは任せろ、どんなものでも作ってやる」


流石に、材料の無い物は作れはしないが彼女に至ってそれは要求しないだろう。安心してそう返事ができる。


セリフィアは律の返事に満足したのか、少し笑みを浮かべて一歩後ろに下がる。


「では私はこれで。ケーキありがとうございます、また三日後に」

「あぁ、また三日後に。待っている」


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