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数億年後の君へ  作者: 櫛名
第二章
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かつての友は


「ん?」


セリフィアとの約束日。片手にケーキを持ちながら家に帰ろうとしていたところ、洋服屋の前で思わぬ人物とばったり出会う。


「おや、奇遇ですね律様」

「フォルテまさかここで合うとはな」


良い食材が売っているのはこの辺の街しかないため、会う可能性は確かにあるのだが......。こうして実際に会うと何とも気恥ずかしい物だ。


フォルテの姿を見た時点で思ったことなのだが、軍内では確実に見ることはない私服に、片手に買い物袋を持ち落ち着きを持ちつつもしっかりとした立ち姿をした彼は、どこからどう見ても仕事が確実に出来るとても家庭的な男性のそれである。


ぜひとも自堕落なルージュに爪の垢を煎じて飲ませたい。


「律様、掃討作戦の準備は大丈夫なのですか?」

「あぁ、俺が決めるべきものはすでに終わっているし、それに今日は私用が入っていたのでな」

「なるほど、お忙しいのですね」

「いや忙しいってほどでもないさ、約束していた買い物だしな」

「ええっと、その箱ですか?」


フォルテは興味深そうに、箱を覗いている。


「つかぬことを伺いますが中には何が入っているのですか?」

「別に構わないが......ケーキが入ってるだけだぞ?」


一応それなりの有名店ではあるので一目見てわかると思ったのだが、どうやらフォルテは分からなかったらしい。


「あーいいですねケーキ。と言いましても私食べたことないのですけどね......」


なるほど、食べたことないならパッケージを見ても分からないのは納得できる。しかし、一度も食べたことない人類が目の前に居るとは驚きである。


「今度奢ろうか?」

「いいのですか?あ、いやでも、なかなかお高いものなので大丈夫です」


目を一瞬光らせてはいたが、フォルテはすぐにひっこめる。


「そんな高い物ではないし、別にいいぞ。ルージュだってあればそのまま食い尽くすしな」

「ルージュさんらしいですね......」

「だろ?」


どうやら解釈は一致しているようだ。あんにいつもあの調子でいろんな人に触れ回っているという事かもしれないが、まぁ彼らしくていいのだろう。


目の前に居るわけでもないのに想像に容易いルージュの様子にクスクスと二人は笑う


「ではルージュさんにこぎつけでいただきます。」

「おう、ちなみに何味が好きとかあるか?」

「よく分からないのでまずは一般的と言われているショートケーキのをお願いします」


予想はしていたが王道を行くようだ、何とも分かりやすくかつシンプル。彼らしい選択だろう、ここでいきなり期間限定と言われたらそれはそれで驚いたが、期待を裏切らないあたりはさすがである。


「分かった、ルージュの分も含めて後ほど買ってルージュが届ける」

「届けるのルージュさん確定なんですね......」

「そりゃそうだろあいついつもこっちに来るんだから、ついでだついで」


素直に、配達をしてくれるかは若干微妙なところはあるが、まぁルージュのことだ。筋を通さないような行動は確実にしないだろう。


律がすくすくと笑っていれば、フォルテ少し口元を緩ませながら急に空に視線を向ける。


「律様、色々とありがとうございます」

「何のことだ?」

「ルージュさんから多分聞いているのでしょう?」


フォルテは、とても冷たく乾いたような瞳を緑の髪越しに落とす。


急にどうしたのだろうか、律はまったく心当たりがなく、思わず首をかしげてしまう。


「あれ......聞いてないのですか?」

「残念ながら何も知らない」

「えぇ......?」


口元をぴくぴくと動かし、フォルテは困惑と動揺が混じったような目を律に飛ばす。


「フォルテ、お前が何を言いたいかは正直知らない」


律はフォルテではなく、ましては心を読めるわけでもないのだから。


「しかし言わんとすることは分かる。ルージュが何かしら話していたと思ったのだろう?」

「えぇ......」

「安心しろあいつはそんな軽い奴ではない」


未だに律の秘密を一切口外も、口を滑らすことさえなく守り抜いているのだから。


「あいつは行動こそチャラいし、ふざけているし、不真面目だが、友を裏切ったり後輩の知られたくない情報を言うような奴では決してない」


態度さえ、どうにかなれば理想の上司そのものなのだから。態度が問題なだけで。


そう、小さく苦笑しながら「そんなやつなんだよ」と呟けば、フォルテは目を丸くして顔を伏せる。


「まぁ、そう言うことだ安心しろ。それに例えどんな過去があったとしても俺の態度はどうせ変わらない」

「そうなのですか?」

「あぁ、態度変えるのが少しめんどくさいからな」


もちろん変えるべきところでは変えるが、それも少ないだろう


律が笑顔でそういえばフォルテもつられて表情が戻る。


「まぁルージュを上司に持ったのは幸運だと俺は思うぞ?本人の前ではとても言えんがな」

「そう言われると、勤務態度さえ何とかなれば理想の上司ですね。ルージュさんは」


フォルテの調子も戻り、どうやら湿っぽい空気はどこかに飛んで行ったようだ。


「あ、雪」

「え?」


フォルテの言葉に辺りを見回すとぽつぽつと雪が降り始めていた。


ここ数日は降っていなかったのにまた降り始めてきたようだ。


「なかなか終わりませんね冬」

「そうだな。昨年ほどではないが、雪の降る回数も多くないか?」

「そうですね。ですが今年は一回一回の降る量が非常に多いですよ」

「そう考えると頻度が減って、量が増えている感じか」

「そうですね。できれば翌日までに溶けるくらいが理想なのですが......なかなか」


手のひらを広げれば落ちてくる雪。おそらく今夜も大雪になるだろう。


「そろそろ帰るか。フォルテお前は?」

「私も帰るところでしたので途中まで一緒に行きましょう」

「分かった」


律とフォルテは鮮やかな街を見ながら歩く。ルージュほどの距離ではないが、それでも前より近い事は確かなのかもしれない。


「こんな平和な世界がいつまでも続けばいいのにな」



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