小隊
「じゃまするぜ。うお......さすがに人数多いな」
小隊長室、啓示派掃討作戦の立案中に入ってくる一人の男、少し文句を言っていた気もするが、普段二人だけの部屋を見慣れている影響だろうか。
「遅かったじゃないか、ルージュ殿」
「お前に殿呼びされるのは慣れないな......」
「仕方ないだろ、規則なんだから」
「まぁそれもそうだな」
微妙に納得いかない表情を見せてはいるが、今は公式の場であり律の階級は掃討作戦の最高指揮官として一時的に少将に格上げされている。そのため、たとえ友であろうが殿付けが一般的だろう。
「それで持ってきたんだろ?」
「あぁもちろん、これが作戦行動範囲の地図だ」
ルージュは嫌そうな表情と共に、右手に持っていた地図を長机に広げ、駒を置く。
「その駒の位置が啓示派の拠点だ」
どうやら啓示派の拠点の位置が正確に分かっているらしい。これだけでも正直頭が上がらない。しかし、なぜルージュはそこまで嫌な顔をしているのだろうか。
律はルージュの表情に疑念を抱くが、広げられている地図と駒の位置を見た瞬間にルージュの表情に納得する。場所を確認しに地図を見た部下たちの表情もあまり良くない。
「なるほど......」
「言いたいこと分かるか?律少将」
「あぁ、お前がさっき嫌な顔で広げてた理由がよくわかる」
なんてやっかいな位置に拠点を構えているのか......。山のふもととは聞いていたが、三方面を山に囲まれた天然の要塞とは聞いていない。
律は何とか攻めやすそうな場所はないかと口元に手を当て地図を凝視するが、その途中。ふと一つの疑問が浮かびルージュを横目で見る。
「ひょっとして、お前らこれ分かってて投げたな?」
「気のせいじゃないですかねぇ律少将。少なくとも俺は知ってたぞ」
「知ってるじゃないか」
どや顔で衝撃の事実を告白するルージュ。その非常にいい顔面を一度思いっきり殴りたい衝動にかられたが、そんなことをしても状況は変わらない。律はそれをぐっとこらえ、ため息をつく。
(まぁ......俺らに投げるのはいつも一筋縄ではいかない作戦だし今更か)
だが、いつも苦戦する内容ばかりをうちの小隊に投げる上層部には、何かしらの改善要求をするべきだろう。ここは防衛大臣を見習って、皇帝に直訴という名目で殴り込みにいっても許されるのではないだろうか。少なくとも防衛大臣は許しそうである。
律は思わず口元が緩み目を細める。そうすると急にバチンと音が響き思わず目の前の光景に引き戻される。なんだ?と音のした方向を見るとルージュが笑いながらこちらを見ていた。
どうやらルージュが手を叩いたらしい。相変わらず呆れるほどに鋭い奴だ。
「ともかく、お前のところに来るレベルだ。想像はついてただろ?」
「まぁな。だがここまでとは思ってなかったぞ......」
「それはそうかもな、啓示派から見れば圧倒的に守りやすく、相手は攻めづらい。何ともいい一等地なわけだ」
「そうだな。これでは拠点ではなく要塞、それも圧倒的に守りやすい理想的な」
律は頭を抱え、啓示派の拠点の位置に素直に感心する。
「少将、発言よろしいでしょうか」
律は頭を上げ、手をあげている人物の方を見る。どうやら発言の許可を求めたのは、ロドリゲス中佐のようだ。
彼は武だけではなく戦略もそこいらの将官よりキレがいい。それゆえ、勝手に発言しても一向にかまわないと思ってはいるのだが、変に真面目なせいでなかなか自分から発言しようとしない。それでも、重要な懸念がある場合は構わず言ってくるため今回もそのたぐいなのだろう。
「構わない。自由に発言してくれ」
「では恐れながら、この状態で新兵3000名を指揮することは困難です」
「そうだな......甘く見ていた。すまない」
こればかりは敵地を甘く見ていた自分のミスだ。包囲用と言っても部下を何人か置いておかなければ指揮も出来ず。その場に置いてある練習用の的と同じになってしまう。それだけは事前に阻止しなければならない。
「少将、まずは指揮ができる者を10名程度防衛大臣に要請しましょう」
「そうだな、そうしよう。それで新兵はどうにかするとして、もし足りなかったらうちから数名出せばいい。何人くらいが適切だと思う?俺は5人だと思うんだが」
「その意見に私も賛成です。30人いる小隊の中から5人抜けてもおそらく戦力的には十分掃討可能かと」
推定800名の掃討にこちらのメイン戦力25名をぶつける。一人頭ノルマ30人といったところだろうか。割といけそうではある。これで確定でいいだろう。
「そもそもそんな少人数で行くこと自体、お前の小隊にしか出来ないよな」
「そのための部隊だからな。甘く見られては困るのだよルージュ殿」
「そりゃそうだけど......なんというか化け物だよな、お前も、お前の部下も」
何故か妙な視線を向けられるが、律にはその視線が何に向けられているか分からなかった。
「なにかおかしいのか?」
律の言葉に「マジか」とルージュは言葉を漏らしたが、周りを見て何か納得したらしく少し引いた顔で肩をすくめる。
「いや、何でもない忘れてくれ」
ルージュは手を振りそっぽを向く。どうやら先ほどの視線を答える気はないのだろう。
「小隊各員、他に意見はあるか?」
律がそう言うと一人手をあげる者がいた。
「どうぞ。自由に言ってくれ」
「では失礼して、律少将。新兵の指揮を担当する人選はいかがなさいます?」
「そうだな、今すぐ決めたいところではあるが、現場で決めようと思う。」
「それはどうして」
「いや、お前たち絶対当日にこっちに行きたいとか言い始めるじゃないか。もう目に見えてるんだけど?」
普通の兵士だったならばここで決めるべきなのだろう。しかしこの小隊は実力主義で這い上がって来た猛者ばかり、一癖も二癖もある。律の命令には素直に従うが、それ以外は個性のぶつかり合いみたいなもの。当日になって変更を律に進言するものも少なくないだろう。
「あぁ......確かにそうですね失礼しました」
律の言葉に納得がいったのか、手を挙げた兵士は頷きながら手を下げる。その途中「お前のことだぞ」「いいやお前だろ」という小言が多く聞こえた気がするが、気のせいだろう。
「とりあえず、話はまとまったかな律少将」
「あぁ、まとまったぞルージュ殿。何か質問でも?」
「いや、質問ってほどではないんだが他に何か作戦ないのか?」
「え?最低限は決めたじゃないか」
「それはそうだが......」
律の言葉に嫌な予感を感じたのか、顔を引きつらせながらルージュは律を見つめる。
「他に何かないのか?」
「え?新兵の指揮については決めたじゃないか」
「いいやそういう問題じゃないと思うのだが......」
「他に何が必要なんだ?」
「いや侵入経路どこから入るかとか、いろいろ」
「あぁ、なんだそんなことか」
どうやら作戦会議にしては大雑把に見えたのだろう。心配そうなルージュの視線がそれを証明している。
「まぁ安心しろ、ロドリゲス中佐あと適当に数名前に出ろ」
律の号令にロドリゲス中佐と少佐3名、大尉2名が前に出る。一列に並ばせ、駒を手渡し律はその対面に移動する。
「さて前に出てきた諸君。侵入経路は当然分かっているよな」
「当然でしょう少将」
「なめてもらっては困りますよ」
少佐と大尉の言葉に前に出てきた隊員は無言で頷く。
「結構。では一斉に駒を置くぞ、間違えたものは......まぁ間違えないだろうからいいか」
「いいやあいつミスるんじゃないですかね」
「そうなのか?じゃあ間違えた奴の処罰は後で決めるか」
「なかなかきつい事言いますね少将。前に出なければよかったです」
「自信がないのか?大尉」
「いいえありますとも」
隊員の中で笑いが生まれる。「間違えたらきついぞー」とヤジも飛んでいるがそこまでキツイ物をやる気はないので安心してもらいたい。
「では一斉に刺してくれ」
律の号令で全員はある一点に駒を置いた。
「な?大丈夫だろルージュ殿」
ルージュは息を飲み、感心したようなはたまた呆れたような視線を律に向け、ただ一言「あぁ、俺が悪かった」と言った。




