取引とは同価値だと思うものを出すのです
セリフィアから言われたことは大きく分けて3つだった。
1つ 少なくとも現時点では一生魔法を使うことは出来ないが、何かのふいに使えるようになる可能性はある。
2つ 律が魔法を切れることと、魔法を使えない理由は直結している。
3つ 無理やりではあるがセリフィアとの間にハブをつなげば使用可能になる。
最初に魔法を使うことが出来ないと言われた時には、正直かなり堪えたが魔法を切れることが関係しているというのを聞かされて、恨むに恨めなかった。
実際、過去にこの能力に助けられた場面も多く、軍人でなくても無ければすでに死んでいた可能性もあるだろう。
ともあれ、早くも通常の手段は長々と偶然を待つか、あきらめるかの二択なのだが、それでもあきらめられないのが憧れである。長々待つのはいいが、いつ起きるか分からない偶然を待つのはとても現実的とは言えない。そうすると消去法でハブをつなげるという方法になるのだが......。
「ちなみにハブをつなげることは、セリフィアに相当負荷あったりするのか?」
「いえ、ありませんけど」
かなりさらりと言うセリフィア。おそらく彼女にとってその程度は気にもならない程度なのだろう。
「ではつなげていただいてもよろしいでしょうか」
「そうですね......。ハブをつなげると魔力は大本が肩代わりするのですよ」
「なるほど......」
つまり言っていた追加の報酬がお望みなのだろう。彼女の取引がここまで上手いとは予想外である。
「何を所望ですか。お嬢様?」
「話が早くて助かります。」
本を閉じ、少し不敵な笑みを浮かべたセリフィアの瞳は律を刺す。その視線に何を要求されるかは分からないが、とても不穏な気配を感じた。
「ご飯です」
「はい。はい?」
あまりにも拍子抜け、先ほどの視線と表情は何だったのかと思うほどに。しかし彼女の表情を見るといまだに真面目な顔をしており、セリフィアは本気だということが分かる。
「どのくらいの頻度ですか?」
「そうですね......。毎日お邪魔するのは悪いですし、三日に一回程度でどうでしょう?」
なるほど、デメリットは特にない。セリフィアが居れば分からないことも聞け、なおかつ食卓も一人の時間が減り愉快な時間となるだろう。何かの拍子でうっかり死にかける可能性もあるが、そんなことを気にするようでは軍人になどなっていない。
律はわざと少し考えるふりをし、セリフィアを見つめた。
「どうでしょう?」
「そうだな......。分かった了承しよう。ケーキは次来る時までに仕入れておこう」
「ではハブをつなげるのもその時で」
「おう」
律の言葉を最後まで聞いたセリフィアは口元に手を置き再び本に目線を落とす。その姿を見て律も天井に視線を移した。
思ったよりも安上がりに済んでよかったとは思ったが......。何かだましているような気がして、少し気が引ける。しかし取引とは互いに同価値と思うものを出すものだ。彼女にとって作る料理がそこまで高評価だったと素直に喜んでおこう。
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外の吹雪が少し弱まった頃、セリフィアが席を立ち、律の方に振り向く。
「ではそろそろお暇しますね。外の音は明日には普通に聞こえてるようになってますので、安心してください」
「悪いな。何から何まで」
「いいえ、おいしいご飯を作ってご馳走してもらっているのです。多少のことは融通しますよ。気にしないでください」
目を閉じ、胸に手を当ながら言葉を紡ぐセリフィア。そのあまりに美しい所作に律は思わず口元が緩みかけるが、それを直前で我慢する。
「今日みたいな日があるかもしれないから、今後は家の中に直接現れてもいいぞ。一声はかけてほしいが」
神霊種でもこの天気は外に居たくないに決まっている。そのうえ家の中に出現できるものとなればなおさら。
「分かりました、そうします。では三日後に」
「あぁ、ケーキを忘れずに買っておく」
「えぇ。お願いしますね」
セリフィアは、その場から一歩も動かずに消えて行く。そして落ちてくる、一枚の赤みかかったケヤキの葉。
(これもおそらく魔法で飛ばしてるんだよな。もしくは魔法で作られているか......)
律が魔法を使えるようになったとて彼女の使う洗練された魔法には遠く及ばないだろう。しかし、憧れの魔法を使えるようになるだけでもとてもありがたい。
「俺も出来ればあれくらい、使えるようになりたいな」




