どうやら仲は良いようです
「この箸はどうやって使うのですか?」
食事中、セリフィアは箸を見ながら固まっていた。
先ほどまで一度も見たことがなかったため、仕方ないと言えば仕方ないのだが、それでもキョトンと箸を見つめ、律の真似をし、箸を持とうとする彼女が大変面白く、つい笑ってしまう。
「これをこうして、こんな感じだ」
「なるほど......。こうです?」
「そうそう。それで試しに、そのニンジンをつかんでみてくれ」
「分かりました」
セリフィアは非常に真剣な表情をし、ニンジンと向き合う。しかし、表情とは裏腹に箸はまるで生まれたての小鹿のようにぶるぶると震え、見ているだけで少し不安になった。
「器と箸は壊さないでくれよ」
「心配しなくても力は人類レベルに制約しているので安心してください」
「それならよかった」
......いや、はたしていいのだろうか。彼女の言う人類レベルが、人類という名を冠しているだけの人外の可能性はないだろうか。律は少しの不安に駆られる。
(まぁ最悪壊しても、セリフィアなら完璧に修復できるからいいのか?)
そう思いセリフィアに視線を送る。しかし彼女は、現在ニンジンと格闘している。箸先でニンジンを捕らえようと、必死に手を制御するも、震えておりうまく捕まえられていない。どうやら力の入れ方と、箸の長さと幅によるギャップがセリフィアを苦しめさせているようだ。
(いったい何を見せられているのだろうか......)
律は視線を自身の器に落としジャガイモを口に入れてから、真剣にニンジンをつかもうとする、セリフィアの箸先を再度見る。すると不格好ではあるものの、ニンジンに触れていた。彼女はそのままつかもうと箸を飛び込ませ、より真剣な表情になる。するとあたりの空間も彼女の表情に呼応するように、何故か揺れ始め、引き伸ばされていく。
(たかがニンジン相手に、なんで空間ごと影響させているのだこの化け物は!?)
普通の人類である律は身の危険を感じたが、今更逃げることなど不可能だろう。そう覚悟を決め、その場に防御姿勢を取りつつ、その結末を見守ることにした。
そしてついに持ち上げるその時、ニンジンは箸の間で無情にも崩れて落ちてしまった。
「あっ......」
箸を持った状態で動きが止まるセリフィア。彼女の集中力も切れたのか空間への影響も消え、暖炉の薪が燃える音だけが響く、落ち着く部屋に戻っていた。
「ふっ......」
思わず律は顔を伏せ、口元を隠す。こみ上げてくる笑いは我慢するが、それでも限界に近い。
「今、笑いましたね」
少しすねたような表情でセリフィアは見てきたが、ニンジン相手に苦戦する姿を見てしまっては、仕方のない物である。
「いやっ......ふっ」
「笑ってますよね?」
「気のせいだ......多分な」
「いいえ、笑ってました。そんなに笑うなら一発殴りますよ」
「それは勘弁してくれ」
セリフィアの一撃を受け止めるなんて不可能に決まっている。いくら律が肉体的に頑丈でも相手が他種族というだけで死んでしまう可能性があるのだから。
「安心してください手加減は出来ます。多分」
「その多分は信用できないのですが?お嬢さん」
「あら、口が達者ですね。私は貴方にお嬢さんと言われるような歳ではないのですよ?」
「え?じゃあ何歳なんだ。」
「え?」
「あっ......」
しまった。ルージュと同じような空気でつい気が緩んで、ブレーキをかけるのを忘れていた。
律は自分の口を少し恨みながら、セリフィアの様子を恐る恐る見ると、すでにものすごく良い笑顔をして拳を握りながらじりじりと迫って来ていた。
「いや、まて、悪かった。許してくれ」
「問答無用ですね」
セリフィアの拳が、律の眼前に迫ってくる。
(あぁ、これはまずい。)
やけにスローモーションに見える世界。セリフィアの顔はいまだに笑顔だが、目は全く笑っていない。むしろ確実に仕留めるという、狩人の目に見えた。
(すまない、ルージュ。俺の死にざまは後ろから刺されるでもなく、管理者に打ち取られるでもなく、たった一つの失言だったよ)
律はここにはいない友の事を思いながら目を閉じ、自らの死を受け入れ、セリフィアの拳が顔に到着するのを待った。
しかし拳はいつまでたっても来ることはなかった。
「いつまでそこで倒れているつもりですか?」
セリフィアの言葉に、律は重い瞼を開ける。すると先ほどまで拳を構えていたセリフィアは、椅子に座っており肉じゃがを食べていた。
単純に驚かせたかっただけか......それとも忠告か。どちらにせよ一度は助かったようだ。ともあれ、まずは謝罪だろう。
「悪かったな歳なんて聞いて」
「いえ、別にいいのですけど、デリカシーがないって女性から言われません?」
「言われたことはないのですが、以後気を付けます」
「よろしい」
セリフィアは肉じゃがを口に頬張りながら律を見て、ほんの少しの笑みを見せる。
言っていることはまともではあるのだが、それにしたって脅す方法が命の危機というのはいかがなものだろうか......。律は、椅子に座りなおしセリフィアの方に視線を向ける。すると彼女は箸ではなくフォークを使っていた。
「ところでセリフィアさんよ、箸は?」
律は空気を少し変えるため、セリフィアに問いかけた。
「どうやら、まだ使えそうにないのでお預けですね」
「そうか。まぁいつか使えるようになるだろ」
「そうだといいのですが、力加減が少し難しいのですよね......」
確かに、初めて使うにしては上出来だったが、ニンジンが崩れている時点で力加減はつかめていない証拠だと言える。
「その箸持って行っていいから、それで練習でもしてくれ」
「いいのですか?大切なものだと思うのですが......」
あぁ、大切なものだとも......。
しかし、もう使わないと分かっているのに、ひたすら持っておくというのも妙である。
「あぁ、使ってやってくれ」
道具は使うためにあるのだ。少しでも役に立つなら、使ってあげて欲しいと思う。
「分かりました。使わさせていただきますね」
種族名を訂正しました。
精霊種 リュクミナ
神霊種 エネフェン




