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数億年後の君へ  作者: 櫛名
第二章
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吹雪は静まる


暖かい部屋の中、いつもなら暖炉の心地よい音と、鍋の音で満たされるとても落ち着く空間なのだが、今はそうではなかった。外の吹雪、しかも時が経つほど激しさを増し、セリフィアを家に入れた時ですら相当酷かったのだが、今はその時の比ではなく、もはや人間が外を歩くのは不可能と感じさせる風の音だった。


「かなり酷くなってきたな......。ルージュは大丈夫だろうか」


いよいよもって他人の心配をしてしまうくらいなのだが、今いない人物を心配しても仕方がない。せっかくの客人なのだ、そちらをおろそかにすることはあってはならない。律は目の前のことに集中することにした。律は料理の仕上げをする。見た目を色鮮やかに、そして歓迎しているという意図を込めて丁寧に。


(よし、これでいいだろう)


盛り付けを終え、律はリビングに移動し料理を並べる。


「できたぞ、セリフィア」

「はい」


律の声に反応しセリフィアは、空中を歩きながらゆっくりと降りてくる。床に足がついたところ、ちらっと外の様子を見ていた。


「外の音が少々、大きいですね」

「そうだな。しかし、この吹雪だ仕方がない」

「まぁ、そうなのですが......。私は少し気になるので」


律は何をする気だ?とセリフィアの方を向いた。少し見ていると、彼女はパチンッと指を鳴らす。その音は部屋全体に響き律の耳にも届く、しかし彼女が何をしたかは、すぐには分からなかった。それでも妙に響いた指の音。外の雑音があるのにもかかわら......。


......いや、外の雑音が消えているのだ。


律は少しの間を置いてようやく、セリフィアがしたことに気づく。先ほどまでかなりの騒音を放っていた風の雑音が一切なくなり、鍋の音と暖炉の音が交差する落ち着く空間に様変わりしていたのだから。


「遮音か」

「えぇ。外の音と内側の音をレイヤーとしてずらしてみました。大抵の音は防げるかと」

「何を言ってるか分からないが、まぁ助かる」

「いえ、私が気になってただけなので。あとで元に戻しておきますので安心してください」


正直そのままでもいい気はするが、何かしら不都合があるのだろう。律はセリフィアに「あぁ」と言い、その場をやり過ごした。


「とりあえず、そこの席使ってくれ」

「分かりました」


セリフィアは椅子に座り、並んでいる出来上がった料理を見つめる。その微笑ましい姿を見ながら律も椅子に座る。今日の夕飯はこの寒い時にはぴったりの肉じゃがと魚の煮つけ、そして前日から仕込んでおいた自家製のパンである。


「どうぞ?」

「では、お先に」


律の言葉を受け、セリフィアは丁寧な所作でフォークで刺し、肉じゃがを頬張った。味を確かめるように食べており、とても柔らかい笑みを振りまく。


「とてもおいしい」

「それはよかった」


セリフィアの言葉に律は内心ガッツポーズを決め、食事に移る。ひとまず魚の煮つけを箸で取り、口に入れる。魚臭さはなく、味はしっかりと染みていて塩味もちょうどいい。なかなかにいい料理が作れたと、心の中で自画自賛する。


「それはなんですか?」

「ん?」


セリフィアの方を見ると律の手元に視線を落としていた。どうやら箸を見るのは初めてらしい。


「箸という物をつかんだり刺したり、まぁいろいろ使える用途がある便利道具みたいなものだ」

「なるほど......使ってみても?」

「分かった取ってくる」


律は箸をもう一つ取りに席を立ち台所に向かった。その間にもセリフィアは肉じゃがを食べており、どうやら相当お気に召したようだ。おかわりもついでに持ってくるか、と心の中でつぶやきセリフィアの様子に苦笑する。律は台所に着き、引き出しを引いた。


(確かここに一善あったよな)


律は台所の食器入れにしまっていた箸を探したが、見つからなかった。しかしセリフィアに持ってくると言った手前、出さないわけにもいかない。そのため別のところにしまっていた箸を取り出す。


(まさかこの箸をもう一度出すことになるとはな......)


偶然だろう、しかし出してしまったからには、思い出してしまうものである。


(さっさとおかわりをよそって届けるか)


律は新しい皿を取り出し、明日の朝食がなくなりそうだな、と少しの小言を言いつつ、肉じゃがのおかわりをよそう。小言こそいったが、料理人としてはとてもうれしいことではある。


台所からリビングに戻り、セリフィアの前に箸と肉じゃがのおかわりを並べた。その新しく出てきた肉じゃがをセリフィアは凝視し、律に視線を向けた。


「ありがとうございます。でも、この料理のおかわりは頼んでませんよ......?」

「そうだな、でも食べるだろ?」


律はセリフィアの顔を見て笑みを送る。その様子を見て何かを察したのだろう。セリフィアは口元を隠し、「ありがとうございます」と一言、律に向けて言った。やはりこういったところは普通の少女なんだな、と律は心の中で思い微笑ましい視線でセリフィアを見るのだった。



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