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数億年後の君へ  作者: 櫛名
第二章
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約束は約束


律は台所から外を眺め、思わず息を吐く。


「どうしてこんなに荒れているんだ」


窓から見える景色は、街を一瞬で白く染め上げるほど強い吹雪、おそらく数歩先の人物すら分からなくなるだろう。律は仕事から帰った後なので問題なかったが、この様子では、今仕事終わりの人々には同情してしまう。


(というか、今日に限ってなんでこの天気なんだ......)


今日はセリフィアとの約束の日。5日前から来ることは知っていたため、仕込みは完璧。前日の段階でどのような人物でも、美味しいと言わせられる自信があった。そのためセリフィアの来る時間が一番の課題だったのだが、この天気。


「今回ばかりは、なるべく分かりやすく来てほしいのだが」


セリフィアのことだ、この天候の中でも問題なく来ることが出来るだろう。自然現象など、どうせ彼女の敵ではない。しかし、それでも少し不安になる。もし、玄関前で待たせてしまったら、いくら神霊種でも寒いものは寒いだろう。魔法でどうにかするかもしれないが、それでも客人をそのような風に待たせたくはない。


律は外に意識を向けながら一人静かに調理を進める。時は進み、準備も進む。しかし時間は数倍に感じ、やはり落ち着かない。暖炉の音も、鍋の音もいつもより敏感に聞き取れる。料理人としてはそれもいいかもしれないが、毎回これでは困りものだ。と、思わず笑みがこぼれた。そのまま包丁で必要な食材を切っていると、律の耳に家の扉を叩く音が届く。


(きたか。思ったより早かったな。)


律は包丁を一度置き、玄関へ向かう。一応、他の人の可能性もあるため、のぞき窓から姿を確認する。しかし雪で白く覆われており、何も見えなかった。


(とりあえず開けてみるか。)


セリフィア以外の場合はめんどくさいことになるが、致し方ない。律はそっとドアを開ける。


しかし律は、そのドアをすぐに閉めたくなった。


「あのー何やってるんですかセリフィアさん」

「なにがですか?」

「いや......あの」


ドアを叩いたのはセリフィアだった。しかし問題はそこではなく、セリフィアの姿であった。


セリフィアの周囲を見ると、彼女を起点として手を広げられる程度の範囲は雪が止まっている。これは安全に移動できるようにしていたことだと分かる。分かるのだが、雪そのものを止めているにも関わらず、なぜか頭には雪が積もっていたのだ。セリフィアのその姿を見て律は、彼女を呆れた目で見てしまった。


「なんで雪を止めてるのに、頭はそのままなんだ?セリフィアさん」

「ここまで降るのは久々に見たので、それだけです」


きょとんとするセリフィア、その姿から察するにそれが彼女の当たり前なのだろう。正直、何を言っているのか理解はできるが、納得はしがたい。しかしセリフィアは何故か幸せそうにしているので何を言っても無駄だろう。律は頭をかいてため息をついた。


「まぁ、中へどうぞ。雪は持ち込まないようにな」

「分かりました」


セリフィアはドアの前で自身についた雪を落とす。落とし終えたのか、家に入ろうとしていたが、落とし残しがあることを律は見逃さなかった。


「少し待った」

「え?」


セリフィアは口を開け、律を見つめてそのまま止まる。律はその視線を受けつい許そうと思ってしまったが、雪の後片付けをするのは律になる。そのため手を伸ばし、彼女の後ろ髪にあった雪を右手でそっと払った。


「よし、もういいぞ入ってくれ」

「は、はい。すいません」

「別に謝らなくてもいい。後ろは分かりづらいからな」


そう言い、セリフィアをリビングに案内する。途中雪のドサッという音が聞こえたが、セリフィアの止めていた雪が落ちた音だろう。どちらにせよ明日のドア前の雪かきが確定した律は、心の中で「あぁ」と漏らし、明日には溶けていることを祈るのだった。


「夕飯仕上げるから少しくつろいで待っててくれ」

「分かりました」


セリフィアはリビングに到着して、律の言葉を聞いた瞬間、いつぞやと同じく浮いて本を読みだした。


相変わらず、切り替え早いな。と思いながら台所へ移動したが、その途中で自身の右手を見て先ほどの光景を思い出す。セリフィアの上目遣いはとても破壊力が高かったが、それよりも右手に流れた一瞬の違和感に思わず身震いする。


(なんだったんだあの感覚)


明らかに普通の感覚ではなかった。セリフィアのことだ、自身を守る防御に律が触れてしまった可能性もあるが、それにしては感覚が違い過ぎる。まるで海の中に手を入れたかのように、自身の手がとても小さく何をしても無意味だと実感させられるような感覚だった。


リビングに居るセリフィアを一度見るが、特に気にしている様子はない。それどころかだいぶリラックスしているようだ。


「気にしすぎなんだろうな」


そう結論付け、律はおとなしく夕飯の仕上げに向かうのだった。


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