日が沈み友と帰る道へ
日が完全に沈み、夜の街灯が街をライトアップしていたころ。律は買い物を終え、息が白くなるほど寒い店前で、大きな袋を抱えていた。
「手伝いは必要ですかお兄さんよ」
ルージュは律の袋の大きさを見るなり、心配そうに視線を送ってきた。
「いいや大丈夫だ」
「いや...その量いつもの四日分じゃないだろ」
「とても重そうですよ。私も途中まで持ちましょうか?」
二人の声に律は「問題ない、いい筋トレになる」と軽口を叩いて二人を納得させる。
「流石、小隊長ですね......」
「いや単純に食材に触れさせたくないだけだろ」
「ルージュさん?律様は頑張って持っているのですよ」
「はいはい、悪うございました」
ルージュは少し笑って楽しそうにしている。その微笑ましい光景を見るのは今日が初めてではあるが、すでにだいぶ見慣れてきた。買い物の途中も互いにこれはどうだ?と言い合っていたので、仲自体は良いのだと見ていてわかる。律は良い信頼関係だと思いながらフォルテとルージュを少し笑って見ていたところ、ルージュから視線が飛んできた。
「ともかく律のそれ、どう見ても四日分じゃなくて、五日分じゃないか」
「今回は少し違ってな。来客が来るんだ」
「え?」
「はい?」
律の言葉は予想外だったらしい。特にルージュの驚いた顔はとても見ものだった。まぁルージュが予想できないのは無理ない。律の家にセリフィアが入る以前は、ルージュしか入ったことがなく、さらに言うならルージュ以外、律の友人関係はほぼ皆無と何故か知られているのだから。
「お前どうした?変なものでも食べたか?」
「何だその心配のしようは、気持ち悪い」
「律様......いくら英雄様でも少々、羽目を外すタイミングと言うものがですね。あ、でも大丈夫です全て揉み消して差し上げますので」
「フォルテお前は何を誤解しているんだ?」
ルージュは律の体調の心配を、フォルテは口元をにやにやさせている。おそらくあらぬ方向への想像を膨らませているのだろう、律はさっさと事態を収拾しないとまずいと感じ、仕方なく口を割ることにした。
「いいか?別に変なことではない。料理をとある人に振る舞うだけだ」
「誰だその女」
「なんで女限定なんだよ。まぁ......後々紹介するかもな。今のところは言えない」
少し別の意味に聞こえなくはないが、それでもマシだと本能が言っていた。正直、種族不明の者と情報部を合わせるだけでもかなりリスキーなのだ。まぁ彼女に至ってはルージュの方が心配なのだが......。どちらにせよ関わらせない方が得である。
「俺にも言えないと?」
「あ、あぁ」
律はルージュから厳しい視線を向けられる。今までに感じたことのない変な緊張感だ。寒い外の空気すら、ルージュの視線に思考が引っ張られ、だんだん感じなくなってくる。しかし話す訳にはいかない、話せば最後、良くてルージュ一人で家に突撃され、悪くて軍が家を包囲するかもしれない。そのため律は無言を貫く。律の様子を見てルージュは口元に手を当てた。
「そこまでして秘密にするなら、諦めるしかないか......」
どうやらルージュは諦めたらしく、肩をすくめた。
「律様、ルージュさんそろそろここを離れましょう?他のお客様のご迷惑になりかねませんので」
フォルテの言葉に二人は周りを見ると人通りが多くなってきており、その中に軍の制服姿がちらほら見えた。おそらく軍工場の従業員達の勤務が終わり、夕飯の買い出しに集まり始めたのだろう。
「ああ、そうだな」
「そういえば店前だったな。律の珍しい反応を見てて忘れてたわ」
ケラケラとルージュは笑い空を一度見て、いつもの顔で視線を律とフォルテに向けた。
「んじゃ帰るとしますか。律、本当に手伝わなくて大丈夫か?」
「問題ない。というか、これより重いの訓練時に持ってるの知ってるだろ」
律の持っている物は他の隊員も、ちょくちょくチャレンジしていたはずだ。その重さを二人が知らないはずがない。
「律様の訓練用の重り、かなり重いですからね......」
「あれな......律が居ない時、もはや飾り物みたいになってるしな」
確かに他の道具より一段上に置いているせいで飾り物のような気もしなくはない。しかし耐久面でそこに置くしかないので仕方がない。
「持ってみてもいいんだぞ?」
「いや無理だったわ」
「同じく無理でした」
「あー。一回はチャレンジしたんだな二人とも......」
ルージュは面白半分でやることは想像に容易かったが、まさかフォルテもやっていたとは驚きである。意外とチャレンジャーなのかもしれない。
「まぁともかくだ、今度こそ行くぞ」
「あぁ、そうだな」
「そうですね」
律を先頭にルージュとフォルテもそれに続く。律とルージュの家は割と近く、すぐそばまでは確定している。商業地帯を抜け、木々が規則的に植えられ、あたりが静けさに包まれているところで、フォルテが二人に向かって「私はこちらなのでここで失礼します」といい別の方向へ歩み始める。ルージュは相も変わらず軽口で、律は手を振り見送った。
「いい部下じゃないか。ルージュ」
見送った後、街灯の明かりが、二人と木々を照らしていた。律はルージュの方を向き様子を見た。
「まぁ、いい部下なんだけどなんで俺の下についたのかねぇ」
「いろいろあるんじゃないのか?どうせお前は知ってるんだろ?」
「まぁ、ある程度はな。俺にはもったいない部下だよ全く」
そうけらけらとルージュは笑った。しかし、その笑いは少し彼なりの同情が混じっている気がした。それは少し困ったような、どう接していいか彼なりに考えた証拠だと律は感じた。
「楽しく接してやったほうがよさそうだな」
「あぁ頼むぞ律」
その言葉の真意は律にはわからないが、戦友を亡くし情報部に入った側の人間であろうことは、多くの兵士を見てきた律には想像に容易かった。




