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数億年後の君へ  作者: 櫛名
第二章
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英雄は思う


第一会議室。それは帝国の重鎮がよく使う形式ばった部屋。律としては、そんな堅苦しい部屋はできるだけ使いたくない、と文句を漏らす場所でもあるのだが立場上そうする訳にもいかず、嫌々使うことが多かった。


ただ、律は形式が嫌いなだけで利便性に関しては、文句のつけようがない完璧な部屋だと認めていた。防音・遮音・対魔力。さらにのぞき見や魔力、機械を使った盗聴もすべて防ぐことができるという圧倒的な機能性。そのため国の重要な会議にはもってこいの場所でもあり、その機能がこの部屋唯一なため、使わざるを得ない部屋でもあるのだ。


「それにしても、無駄に装飾をつけるのは何とかならないのか」


律は会議室の扉を見ながら廊下を歩き、そう呟く。会議室の問題点をもう一つ突くとしたら廊下も含めた、無駄に派手な装飾なのだ。権威だかなんだかは知らないが、時の権力者というものはどうもこういうものに惹かれがちで、もっと有効に金を使ってもらいたいものである。


会議室の前に立った律は、自身のカードキーを胸ポケットから出し会議室の鍵を開ける。無駄に重厚な扉を開け、中の様子を見ると、そこにはルージュから知らされていた通り防衛大臣が座っていた。そこまでは分かっていたことだが、予想外なことに他にも大臣が座っていた。


「来たか律殿」

「おお、待っておったぞ」


会議室はドア側以外の三方は、窓がある。中央に配置されている無駄にでかく重厚なU字型の机、窓の傍においてある無駄に高そうな装飾品。と何とも帝国の権威、歴史、重さの象徴の一つですと、部屋が言っているような空気を感じる。


そんな会議室のU字型の会議机右側に座っているのが、財務大臣ガルシア・ケンブリッツ公爵。元は一介の商人だったが帝国の財務大臣にまで出世した、叩き上げの御仁だ。一代貴族ではあるが、公爵という破格の待遇で皇帝に迎え入れられた稀代の人物だ。そして左側は防衛大臣レネクト・ミュラー伯爵。防衛線を一番の得意とする御仁だ。豪快にして情の厚い防衛大臣でもあるのだが、皇帝に直談判と称して殴り込みに行った、と噂が絶えない不思議な人物でもある。


「防衛大臣だけではなく、財務大臣もいるとは驚きました。」

「悪いね律殿、メインは私が呼んだんだよ。直接招きたかったのだが、管轄的に君は防衛大臣が招集するべきだからね」

「確かにそうですね」


ケンブリッツ大臣は、目を見開いた律に視線を合わせ、やわらかい顔を見せた。財務大臣がいるということは、律の管轄内のどこかしらにテコ入れが入るのだろうか。そう思いながら、律は両大臣の勧めで半ば無理やり中央の席に座らされる。


「わざわざ来てもらって悪い律殿、君はここをあまり好まんだろう?」

「まぁ、そうですね。あまり趣味のいいものとは思えないとだけ言っておきましょう」

「手厳しいな。だがそれは150年前の皇帝に文句をつけてくれたまえ?」

「それもそうですね。目の前に居たら皇帝の目は節穴とでも言っておきたいものです」

「なかなか度胸があるじゃないか」


多少の雑談はいつものこととは言え、いつもより大臣達のテンションが高いような気がする。律の返答を気に入ったのか大声で笑うミュラー大臣。その様子をしばらく見ていたところでケンブリッツ大臣が「ミュラー大臣その辺で」と制止する。その一言にミュラー大臣も「ん?ああ、それもそうだな、申し訳ない」とすぐに切り替えた。どうやらケンブリッツ大臣はミュラー大臣の扱いに慣れているようだ。


「律殿、君に来てもらった理由は二つ。一つは君の管理者討伐に対するボーナスの話と、万が一管理者がここまで来た場合、ここで戦ったほしいという指示だ。」

「なるほど。ボーナスの話はひとまず置いておいて、ミュラー大臣、場所はどこですか?」

「律殿これを見てくれ。」


ミュラー大臣が資料と帝国全体図を取り出し、赤い丸が付いた場所を指した。西の正門前、もともと軍事物資もなく農作物も育たない特に使い道があまりなかった枯れ地だ。


「なるほど、ここですか。確かに民間人も一人もいない、ベストな選択肢かと」

「それもあるがもともとたまに使われる程度の試験地帯。土地そのものが多少えぐれても問題はないと判断した」

「それにこの地をメインの試験地帯にすることが、皇帝の意志で決まった。そのついでに、神霊種の防護術式が張られることになったぞ。武器の試験場と万が一の最終防衛ラインの両立。そこにいるケンブリッツ大臣の認可もおりており、予算もたっぷりとある」

「なるほど、私としては文句はないのですが、管理者の攻撃に耐えられますか?」

「そんなことは知らん」


そのあまりに潔すぎるミュラー大臣の言葉に、律の体の重心は思わず傾く。


「律殿。そもそも見たことすらない存在に、我々がとやかく言っても野暮だろう。だから君を呼んだんだ」


......つまりは機能テストもしてくれと言うことだろう。さらに先ほどミュラー大臣は予算はたっぷりとあるといった。生半可なものを作る気はなく、必要であればいくらでも金をかけるという、帝国の決意の表れでもあるのだろう。


「分かりました。出来上がりましたら呼んでください。機能のテストをしますので......」

「頼りにしているぞ律殿」


律は、仕事がまた一つ増えたことに少しの絶望感はあるものの、帝国の大臣は皆、実力で上り詰めた化け物たちだ。一回目のテストで文句をつける場所などほぼないレベルに仕上げてくるだろう。


「さて、もう一つボーナスの話だったが、金銭でよいのかな?正直もう十分すぎるほど持っているとは思うが......」

「そうですね。後でどのようにでも変えられますし」

「分かった。そのように手配しよう」


ケンブリッツ大臣はその場で書類の一つに筆ペンでサインをする。どうやら初めからこうなることが分かっていたようだ。


「では律殿、こちらからは以上だが、他に何か聞きたいことはあるかね?」

「いいえ特にはありません」

「そうかでは、下がってくれて構わない。私たちはまだ、決めなければいけないことがあって残るがな」

「別に暇なら、時間までそのまま残っていてもいいぞ?」

「せっかくのお誘いですが、私もやることがまだ残っておりますので、ここで失礼します」

「おやおや振られてしまったわ」


大声で笑うミュラー大臣を横目に「では失礼します」と静かに席を立ち律は退席した。



会議室から退室し、小隊長室に続く道の窓を覗くと、また雪が降っていた。


「最近は雪景色がやけに多い気がするな......」


元々多く降る地域ではあるものの数日のうちにこれほど見るのは稀だった。ぼんやりと、雪の降る外を眺めていると、セリフィアとの約束を思い出す。


「そういえば、約束の日まであと3日か。食材を買い足さないと何もないな」


先ほどの大臣との会話で、ほんの少しの気疲れがあった律は、今度は何を作って驚かせようか。と考えながら部屋に戻った。



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