反省します
「ただいま帰りました。お嬢様〜」
「っ……!? り、粦……」
玄関の方から粦の声。
時計を見ると、四時過ぎ。
そうか! 粦が帰ってくる時間か!
助かったぁぁあ!
「お嬢様!? どうされたんですか!?」
「ちょっと力を使いすぎてしまったの……秋月に聞いていたけれど、霊力を使い切るとお腹が空くんですって。今私すっからかんで」
「す、すぐになにかお作りしますね!」
粦、私の言いたいことをすぐに理解してくれた。
買い物袋をキッチンシンク横に置いて、エプロンをつける。
すぐに手を洗って、袋からなにかを取り出し料理をする音が聞こえ始めた。
心地のいい音。
まあ、完成まで耐えられないのでちょっぴり固めのカップラーメンを啜る。
はあ……、口に食べ物を入れたらだいぶマシになってきたけれど……。
ぐううううう……。
「嘘でしょ……食べながらお腹が鳴っている」
「お嬢様、なにをしたらそんなに消耗するんですか?」
「お祓いの動画を撮影したの。いっぱい気を込めて、すっからかんになるまで頑張ったら……こうなっちゃって」
「なんと! 頑張られたのですね。それじゃあ、粦も頑張ってお作りしますね!」
そう言ってくれて、てきぱきとさらになにかを複数作っていた。
本当にどんどん料理の腕が上がってない?
その年齢で複数の料理をマルチタスクで作るなんて。
料理の才能があったとしか言えない。
「おや? どうして空っぽになっているのかな?」
「わあ、秋月!?」
急に覗き込まれて変な声を出してしまった。
長い髪が垂れる中、秋月がだいぶ険しい顔をしている。
「君の長所は生まれながらの豊富な霊力だ。それを空っぽにするのは非常に危険だよ。弱くなる。ごく普通の年相応の少女になってしまうということだ。そんなにヘロヘロでは錫杖も振るえないだろう?」
「う……。は、はい」
「霊力を大量に使う時はなにかを行うのなら、なにか食べるものを持ち歩くなり、近くに置いておくなりしないとダメだろう。穴が空くということは、他のものが入り込む隙になるということだ。危険だよ」
「あ……あっ……わ、わかった。すごく気をつける」
と言ったのだが、秋月のお小言、というかお説教は止まらない。
霊力がなくなるということは、なにも守れないということ。
それは自分を含め、一緒にいる人も守れない。
家の中だとしても今日のように粦が外出中だったら動けなくて倒れてしまう。
その間に誰かが侵入してきたら?
鬼ババアの手の者だったら?
そう言われるとスーッと血の気が引く。
霊も怖いが、生きている悪意ある人間が一番怖い。
「それに、千頭山家は祈祷師の一族。前線で戦う者たちが消耗して倒れたら、彼らを助けるための霊力タンクになり得る役割。彼らを守る盾となり、最後まで立っていなければならない存在。真っ先に倒れてしまったら、誰も助けられなくなる」
「う……は、はい」
「まったく。いったいどれだけ強力なお祓い動画とやらになったのやら。養分補給したら、ちゃんとその動画も確認しなさい。君の霊力を全部込めるようなモノ、動画であっても一般人には刺激が強いものになりかねないだろう。悪霊や悪魔のように悪影響を及ぼすものを祓うような霊力をぶち込んだなんて、その強い力に一般人が耐えられるのかい?」
「あ……」
そう言われて、思わず目を逸らす。
自分の霊力は自分が思っているよりも多いらしい。
その霊力を殺意たっぷりで込めてしまったら、霊力がない人にとってどんな影響かあるか……。
そこまで考えたことなかったぁー。
「お待たせしました! 簡単なものですが、まずはオムライスです!」
「わあ! オムライス! 美味しそう〜! いただきます!」
「あの、秋月様……お嬢様のご飯もっとお作りした方がいいですか?」
「真宵の霊力量を考えると大人の男の三食分は必要だろう。普段それほど使ってこないが、今日のコレは……」
と、濁された。
林や橋の浄化でも、ここまでの霊力を使ったことはない。
だから余計に秋月に驚かれたのかも。
っていうか、いくら私でも成人男性の一日分の量を一食で消費できるわけないじゃない。
――ぐううううう……。
「「「………………」」」
もぐもぐと粦が作ってくれたオムライスを食べながら、お腹が鳴る。
食べたのに全然お腹が膨れない。
スプーンいっぱいに盛った一口を口に入れて、咀嚼して飲み込むがお腹がまた鳴る。
変な汗が出てきた。
「お、お、お、お腹空いた……」
「おかわり作りますね!」
嘘でしょおー!?
本当に全然お腹に食べ物が入った気がしない……!
こんなことある!?
信じられないんだけど!?
こんな経験初めてなんだけど!?
これが霊力空っぽになるってこと!?
あっという間にオムライスが消えて、ただ空腹感が残る。
「霊力の扱い方、操作の仕方はだいぶできるようになっていたと思っていたけれど……まだまだ未熟のようだねぇ」
「う……うう……。反省しますう」
「お、おにぎりを! つ、摘んでおいてくださいませー!」
「ありがとうー」
デッカ。
すごいでっかい塩おにぎりがお出しされた。
一合ぐらい握られていそう。
「あとしそ昆布と、納豆……すぐに卵焼きをお作りします! ハンバーグも作り始めますけれど、間に合わなさそうでしたらシャケも焼きますね。あ、こちら漬物です」
「あ、ありがとうー」
この塩おにぎりと白米のお供で凌げということらしい。
凌げるだろうか……?




