子どもは帰る時間
「第三段階は日付が変わる時間帯。君たちのような子どもは20時以降外出禁止だから、そろそろ帰ろう」
「え? もう遊べないの?」
「そろそろ放送が入ると思うけれど、法律で決まっているんだよ。十歳以下の子どもは陰の気が強まる20時以降は家から出ない。外出中なら帰宅すること、と。子どものうちは陽の気をたくさん取り込んで、いっぱいぐっすり寝るのが一番だからね!」
それは絶対にそう!
私もそう思う。
子どもはいっぱい寝るべきだよね!
「えーーーー! ヤダー! まだ遊びたい!」
「ぼくもまだ帰りたくないよぉー!」
「ダメですよ、真智くん。法律で決まっているのですから」
「そうよ! 十夜! わがまま言わずにお家に帰ったらお風呂に入って歯磨きしてすぐ寝るの!」
そうかー。
小学生男児の寝る前の準備を思うと確かに20時には帰らないと夜更かしかぁ。
おとなしくお風呂入って歯磨きして寝るかどうか、怪しいもんなあ。
真智なんかすでに真智叔父に抱えられて「ヤダヤダー」って言ってる。
ずいぶん甘えん坊になったもんだなあ、真智。
それがいいことなのか。
いや――いいことだろう。
ゲームの中の、復讐に取り憑かれた姿を私は知っている。
余裕がなく、他人を信用せず、ヒロインを助けて保護していたのも“悪魔祓い師”として仕方なく。
でも、元来の優しさや世話焼きな面が出てきて……次第に打ち解けていく――的なストーリーだろうという、予想。
なぜなら真智のストーリーは未公開だから。
オタクたちの予想よ。
でも真智を見てるときっとそういうストーリーだったんだろうなって思う。
「真宵嬢たちは我々がお送りします」
「え。いや、家も近いので、うちが」
「いやいや、俺の家でお送りしますよ!」
「……お嬢、どこの家の車に乗りますか? 一応、俺も車で来ているので送れますよ。ちなみにもういい時間なので送りをお断りするのはなしで」
「う……」
支援してもらっている十夜の家。
家の家格が一番高い日和。
家が一番近い真智の家。
英の家は――御愚間家は秋月があんまり好んでいないからなぁ。
う、うーん……こういう場合どうしたらいいの?
日和はなしでしょ?
二人でいて空気が保つわけがない。
英はアリ寄りのアリだけれど、やはり秋月が嫌がりそうだから避けられるのなら避けたい。
十夜か真智なら私は真智!
シンプルに家が近いから!
「じゃあ、宇治家のおじ様の車に乗せていただいてもいいでしょうか? 一番家が近いので……」
「もちろんです」
「あらぁ! うちの車に乗ってもいいのよ? 四台で来てるし!」
十夜の家、家族総出で来てるから車の台数も多いんだよね。
余計頼りづらいよ。
「いえ、そんな……。やはりお家が一番近所なので……お手間をおかけするのも申し訳ないですし」
「そおー? 遠慮しなくってもいいのにぃ!」
「んー。真宵が一緒に帰るなら、帰る」
「おお……」
さっきまで地団駄を踏んでいた真智がそう言い出したことで、真智叔父と真智叔父妻さんが目を丸くする。
同年代の子どもを持つ親たちが顔を見合わせて、いかにも『じゃあ仕方ないな』みたいな空気になる。
日和は不満げに頬を膨らませていたが、ボディーガードの人がなにかを耳打ちすると子どもとは思えない顔つきになって踵を返す。
「仕方ないなぁ。わかったよ。今日のところは別件もあるし、引くよ。今度デートに誘うから、真宵嬢、デートしようね」
「しない、ですかね」
なにを言ってるんだ、この男は。
「うーん、釣れなーい。まあ、それじゃあまた今度。英もまた今度! デートしよう」
「しないですね」
私と英二人に振られたというのにウインクしててへぺろ顔をしながら、アイドルよろしく軽い敬礼して去っていく。
き、キザぁ……。
そういえば日和ってああいうキャラだったわ。
カッコつけ。
まあ、あと十年ぐらいしたらアイドルというか、除霊するパフォーマーになるっていうか。
すでにその片鱗が現れているのか。こわ。
見なよ、私の隣にいる英の表情。
終わってるものを眺める目だよ……小学二年生がする目じゃないよ。
「マヨイちゃん、また遊ぼうね」
「うん。また別の夏祭りで遊ぼう」
「うん!」
そして十夜は素直。
よく見るとご飯を食べて、お腹いっぱいになったから若干眠そう。
そうか、十夜母が十夜のこの様子を見て早く家に帰って寝かせた方がいいと判断したんだ。
もう寝たい、みたいな顔だもんなぁ。
でもここからお風呂に入れて歯を磨いたら覚醒するんだろうなぁ。
そして寝かしつけに時間がかかるんだろうなぁ……。
なんか、子持ちの親御さんの気持ちがちょっとわかるようになってしまった。
「じゃあ、真宵嬢。帰ろう」
「はい。お世話になります」
「お、お世話になります」
粦と一緒に真智の家の車に乗せてもらうことにした。
夏祭り、この世界では初めて参加したけれどなかなか勉強になったな。
怖い思いもすることになったけれど……日和がボディーガードに耳打ちされていたのを見た時、「犯人が……」と漏れ聞こえた気がする。
多分、私を攫ったあの男がボディーガードたちの式神に見つかったのではないだろうか。
あの犯人がどうなるのかわからないけれど、ゲームの中の日和は穢れに対して容赦がない。
人間であろうと、呪い屋に対しても……。
だから、私を攫った犯人は大変な目に遭うし絶対に捕まる。
そこはまったく不安がない。
そういう面では、日和を信頼している。




