夏祭りの浄化方法
即身仏は心に一片の私情を持ち合わせてはいけないと言われているから、神社に奉納されている即身仏のいったい何体が清らかに即しているのか……。
秋月はもちろん止めたと言っていたけれど、千頭山家の男たちは『たとえ表立った功績にはならずとも――』と言って即身仏になることを望んだという。
だから千頭山家は、順位が一位。
強い霊能力を持つ者たちが即身仏として命を捧げたから。
子どもには隠されているし、歴史の一部として現代ではあまり、好まれたことではないので教科書に載っているわけではないし現代では非推奨となっているけれど。
なんだかそれを教えてもらった時は、納得した。
命を捧げていたら、それを尊重する。
安倍家や大離神家のような力も歴史もある家からしても、それは納得というか……当然というか……もちろん思うところはあるだろうけれど。
でも、今は即身仏は非推奨――法的に“禁止”になっているらしい。
自殺の扱いだからだ。
そりゃそうだよね。
自分で心から望んでそうなっているなら効果は絶大だろう、新しい“御仏”が生まれるのだから。
でも、本当に心から、一片の私情もなく望んで即身仏になれなければ御仏には至らない。
それではただ、人が亡くなっただけだ。
鬼ババア的にそんな歴史が続いていたとしたらきゃわいいきゃわいいムチュコタンにも、その圧がかかるから絶対に許さないだろうし。
「おかわりはいりますか? 落ち着いたら粦さんにメールしましょう。電話は多分、電波が届かないと思うので」
「そうだね。浮遊霊も集まってきているし、会場全体の気の流れも渦巻き始めているから電子機器は使えなくなる頃だろう」
「そうなんですか?」
「そうだよ。夏祭りって会場の中心に核を置いて、その周りで屋台を建てて渦を作るようにお客さんの“楽しい”という気を込めて中心部に集めていくんだ。中心部に集まった気の流れは台風の目のような役割を持ち、渦が強くなって臨界点に到達すると一気に噴き出して結界の中を荒らすように隠の気を絡め取って浄化するんだよ」
あー、なるほどそれで広範囲を浄化するんだ。
そりゃとんでもねぇ。
隠の気もこれほど膨大な熱量の陽の気を、一番強くなる時間帯であるはずの“夜”に食らったらたまったもんじゃないもんね。
自分たちの時間のはずなのに、活性化し始まる隠の気が一気に陽の気の渦に呑み込まれる。
み、見てぇ〜。
絶対気持ちいいくらいに吸い込まれていくんだろうなあー!
「今はまだ夕方の時間帯で、渦が開放されるのは日付の変わる時間帯なのですが、気の流れが溜まり渦ができ始めているので電子機器は妨害というか、機能しなくなるんですよね。電波も気の流れに絡め取られるので」
「そうなんだ……。じゃあ待ち合わせ場所を決めておけばよかったんだね」
「そうですね。とりあえずよく中心にある休憩所に行ってみましょうか。誰かいるかもしれませんし」
一般的な休憩所という中心部。
そこって核のある場所なんじゃ……と思ったら、核は櫓の屋根の下に設置してあるらしい。
上からも下からも狙いづらく、常に人目に晒されているため害を加えづらいという。
櫓は太鼓に囲まれたステージになっており、そういえばあまり気にしていなかったけれどずっと音楽が聴こえてくる。
日和がパンフレットを渡してくれたのだが、そもそもパンフレットの存在も今知った。
タイムテーブルには数々の著名な歌手やミュージシャン、団体の名前がみっちり。
これらは『神楽』となり、結界と気の渦への捧げ物となる。
盛り上がれば盛り上がるほど神楽としての価値も高まるので、自治体からは助成金も出るほど夏祭りは力が入るものという。
ほげぇ。
「どうしよう、英……私、パンフレットに来ている人の名前誰もわからない」
「え? ま、まあ興味がないとわからない人ばかりですよね」
「ちゃんと勉強したい……教えて!」
「わ、わかりました。俺の知る限り教えますね!」
「なんで? 歌う人間のこととかあんまり知らなくてもよくない?」
「そうもいかない事情があるんですよ」
「そうなんですよ!」
「はあ?」
Vtuberとして活動するに至り、そういう表に出る人というのはいわば“先人”である。
それに、知らないと同級生と友達になれない。
会話が成立しない!
夏祭りで歌っている人や、パフォーマンスをする人たちのことを覚えておけば夏休み明け、クラスの女子と会話ができるかもしれない。
……きっと。多分。
話題作りのためにも、ちゃんと知っておかねばならない。
どんなに興味がなかったとしても!
「それに、夏祭りを盛り上げるために協力してくれている人たちのことだからちゃんと把握しておくことも必要だと思う」
「そうですね。素晴らしいお考えです、さすがお嬢」
英のその私ヨイショなんなの。
「そういうもの? まあ、真宵嬢がそう言うのなら」
日和の私への謎の信頼度なんなの?
「日和様」
「不届き者は?」
「申し訳ございません」
「そう。まあ、君らで追えないのなら仕方ないね」
ちょうど移動しようかと立ち上がった時、日和のボディーガードたちが戻ってきた。
口振りから私のことを誘拐しようとした男は逃したらしい。
怖いけれど、あの状況から逃げたなら根性あると思う。
私、男の人が股間を痛めた時の痛みとかよくわからないけれど倒れて悶絶しているのは見ている。
あそこから復活して逃れてなら、それはあの男の勝ちでいいんじゃないだろうか。




