鬼ババア動きアリ!?
それはそれとして、善岩寺からメールが返ってきた。
長女である三華さんから『ぜひ! うちの弟とデートしてあげて!』というびっくりマークの大量についたメールが。
弟とデートって……まさか十夜のこと?
は、はあ……善岩寺家にはとっくに私の事情を説明して、理解してもらっていたはずなのに。
とはいえ善岩寺家には携帯電話を契約してもらっている。
私だけでなく粦の分も。
料金を払ってもらっているし、一夜さんにはVtuberの件でずっとお世話になっている。
囲い込みが激しいから、どこかで距離はとった方がいいのはわかるんだけれど……現時点ではまだ無理。
善岩寺家の援助があってやっと生きていけている状態だ。
だから将来的に、なにかお返しのようなものをしなければならないのだけれど……嫁入りだけは無理だぁ。
そもそも善岩寺家の援助のことを日和や大離神家に知られたら、向こうも外堀埋めにくるかもしれない。
そうなったらなんか……絶対エグいことになりそうじゃん。
援助の応酬っていうかね?
そうなったら、婚約の話云々以前に絶対本家に話がいく!
みんな忘れてないか、私は女児だ。
小学校一年生の、女児!
なにかしてあげるには保護者の同意が必要だ。
おとなとしては当たり前だと思う。
でも、その保護者が終わっている!
だから私はあの鬼ババアとマザコンクソ親父の問題が解決しない限り結婚なんて無理!
小学校一年生でそんなことまで考えなきゃいけないなんて、名士のご令嬢って大変すぎる。
頭抱えてしまう。
「お嬢様、よろしいですか?」
「あ、はいはい。今開けるね」
粦の声がして、襖を開ける。
神妙な面持ちの粦に、背筋がピンと正す。
「ど、どうかしたの?」
「は、はい。先程本家から差し入れというか……差し入れではあるのですが……」
「さ、差し入れ……!? 本家から!?」
ありえない!
粦も神妙な面持ちにもなる!
なにが差し入れられたの?
カッターの刃? 毒入り惣菜? 解体されたハサミ? それともまさか、藁人形?
私の顔もさぞ真っ青だろう。
「いえ、本当に差し入れなんです。先輩が肉じゃがを作って持ってきてくれたので、食べる分には安全だと思うのですが……一緒に、注意をされて……」
「ちゅ、注意?」
「は、はい。奥様が真宵お嬢様のことを探ってくるようにと。裏の林の浄化は進んでいるのか、課題の進捗を調べてこいと。奥様としては、お嬢様が林の悪霊で弱っていることをお望みらしくて」
「あーーー……ま、まあ、そ、そうよね。もうそろそろ四ヶ月くらい経つものね」
早いもので、粦とこの別邸に暮らすようになってから四ヶ月くらい経つ。
学校には毎日通っていたから、鬼ババア的には監視もしやすかったはず。
でも夏休みに入り、監視がしづらくなったのだろう。
差し入れと称して使用人を派遣して様子を見にきたのか……。
私のことが気に入らないのなら、放っておいてくれたらいいのにあの鬼ババア。
「それで、なんて返したの?」
「林の浄化は終わりました。悪霊も祓いました。とお伝えしました」
「あ、素直に教えてしまったのね」
「え!? だ、だめでしたか!?」
「う、うーん。まあ、いいけど……」
素直なのはいいことだ。
粦の長所だと思うから、別にいいんだけれど。
裏の林の悪霊を祓ったと知ったら、鬼ババアのことだから嫌がらせにまた新しい課題を出してきそうなのよね。
期限を設けてくるとか、橋の悪霊よりもヤバい事案を押しつけてきたりとか。
橋の悪霊は秋月からの課題であって、鬼ババアからの課題じゃない。
出された課題を解決した報告を怠ったのは事実だから、そこをついて怒り散らかしてくる可能性もある。
粦の先輩も仕事だから間違った情報を持ち帰ったら叱られてしまうだろうけれど、私のことが嫌いな割にしつこく関わってこようとするのはなんなの?
嫌いだから、虐めたいってことなのかな?
せっかくこの屋敷での生活が落ち着いてきたというのに、あの鬼ババアからまた厄介な手出しをされるのでは――。
「少し……相手の出方を待つ必要があるわね」
「え? なにがですか?」
「ううん。でも一応、根回しだけはしておくわ。鬼ババアが積極的に関わってこようとしているのなら、私は迎え打つ準備をしなきゃいけないの。自分たちの身を守るためにね」
「えっと」
「粦も手伝って。稲穂さんに『本家からこんなことを聞かれて、こう答えたけれどなにか間違ってたかな?』って相談してほしいの。稲穂さんならいい助言をしてくれると思うから」
「わ、わかりました! 聞いてみます!」
大離神家の稲穂さんにうちの本家からの探りを相談したら、先輩名士令嬢としてのいい立ち居振る舞い方を教えてくれると思う。
私だけじゃなく、粦の身にもなにか危険が迫るかもしれない可能性を考えると粦から稲穂さんに聞いておいた方がいいだろう。
私も夏祭りの時にそれとなく善岩寺と、英と真智も誘ったから真智のご家族にも……。
と、色々根回し先を考えていると、粦がものすごく不安そうにしているのに気がつく。
「本当に大丈夫よ、粦。あなたの人脈に期待しているわ」
「は、はい! わたし、今度は失敗しません!」
「失敗だなんて。粦は失敗してないわよ」
落ち込ませてしまったみたい。
粦は本当になにも失敗していないのに。




