結界の外生活
祠で結界を張り、安全地帯を増やす。
安全の確保が完了したら、またそのに“拠点”を増やしてまた次の土地の浄化を行う。
重要なのは拠点の繁栄。
人が増えれば祈りも増える。
土地の穢れを定期的に清める人間が多く住むことで、土地の浄化を“維持”する役割を持つ。
やはり人が住まずに手付かずだと寂れてしまうからね。
多くの霊能力者は結界の外に出向き“浄化”を行う――。
それの大きな意味合いは、結界の外に住む、ということらしい。
本当に最前線に行くのは、日和のようなエリートたち。
定住する者がいなければ土地はまた寂れて、穢れがじわじわと戻ってきてしまう。
一番の問題は、そういった定住。
仏神学校に通う私たちのような者に特に求められるのは、結界の外への移住であり定住なのだそう。
ああ、なるほどね……。
ある程度の霊能力を持っていれば、確かに自力でお祓いもできるしね。
でも、そんなの当然難しい。
住む人間に“旨味”がないと、定住なんてできないよ。
生活かかってるんだもん。
普通はそう思う。
だから政府も試行錯誤。
定住してもらえるように、色々補助金を出すなり戸建てを事前に建てたりとしているらしい。
もう、それを聞いたら私の方がやる気出しちゃったわよ。
だって、すでに家が用意されている。
霊力量の多い優秀な霊能力者には、注文住宅庭つきもありだと言うではない。
Vtuberとして活動するのに、騒音問題を気にする必要がないのは熱い!
そして望めば当然ネット環境も無料で繋げてくれる!
だって注文住宅だもん、私優秀な霊能力者になるもん、そのくらいしてもらえそうじゃい!?
実家にも正々堂々帰らなくていいし!
なによそれ、ほとんどの問題解決しそうじゃないの!
「こ、戸建てがいただけるなんて、魅力的ですね……!」
「え? そ、そう? 庶民はともかく六家の人間に戸建てって魅力的……?」
「私には魅力的です」
困惑の日和。
他の六家のことはわからないけれど、少なくとも私には超魅力的よ。
むしろなにかの罠なんじゃないかと疑うくらい。
「全部国の方でやってくれるんですよね? 無料で!」
「そのくらいしなければ安全が確保されている結界の中から出て、結界の外の新都に住むという挑戦をしたがる人間は少ないからねー。そういうことを受け入れて、新たに町を作ろう、都を作ろうというのは若者ぐらい」
「そうなのですね」
確かに一度ぬるま湯に浸ったらなかなか抜け出せない。
特に安全だと確約されている結界の中は、年配の人は絶対動きたくないだろうな。
と言っても、結界の中にもこうして悪魔や悪霊がいる。
絶対に安全なわけではないのだけれど……。
「そうか……真宵嬢は結界の外に興味もあるし、将来的には結界の外の新都作りに参加したいのだね」
「え? まあ……そうですね」
本家から遠く離れれば離れるほどに安心。
鬼ババアが私に暗殺者みたいなものを飛ばしてこようと、その頃には返り討ちにできるくらい強くなれば問題ないわけだし。
「それなら俺と結婚してくれないだろうか」
「…………………………は、はい?」
な、なんて? 聞き間違い?
「俺も将来は結界の外に行く。俺は強いから! 俺の歌で結界の外をガンガン浄化して、新都を広げる! 君のように強く賢く、結界の外への移住に抵抗感のない名家の女性は少ない! 君となら、俺はもっと多くの土地を取り戻して多くの人を救える! だから俺と結婚を前提に婚約してほしい!」
「今のところ、結婚は考えておりません!」
「即答!?」
「まだ六歳なので!」
「それは――確かに!」
結構トントン拍子にお断りしたら納得してくれた。
六歳の幼女に対する期待値の高さヤバいって。
っていうか、日和だって小学三年生でしょ!?
どいつもこいつも結婚に前向きすぎるだろ!?
どうなってんだ六家!
小学生の男児なんてウ◯コを木の枝で突いてキャッキャしてるもんじゃないの!?
教育が行き届すぎだろ!?
どんだけ将来のことをちゃんと考えているんだ!?
「でも考えてはおいてほしい! 大離神家の男はよいと思った女の子をずっと好きだから!」
「っっっ」
ビシッと指さされてビクッと肩を跳ねる。
そうだ、安倍家と大離神家の男性は、嫁溺愛、愛妻家、嫁命の超絶一途。
なぜか、そういう特性があるらしい。
その特性のせいで『六芒星』の家の序列は安倍家と大離神家にもっとも嫁を輩出してきた千頭山家が一位という意味のわからなさ。
嫁の実家に重きを置くほどに嫁・愛。
日和も一応、その大離神家の人間。
う、嘘でしょぉ〜?
が、ガチで言ってる?
「あ、あのですね……」
一度後退りしつつ、すぐに頭を抱える。
確か粦の友達の稲穂さんが『弟の婚約者の話は私が止めている』と言ってくれていたけれど、まさか当事者の日和が乗り気だなんて思わなかった。
それならちゃんと説明して、そういうことを言うのをやめてもらう方がいいだろう。
もうすでに日和のお姉さんにはバレているみたいだしね。
「――という事情で、私は結婚の話を本家にされると困るのです」
「その話、姉さんは知ってるのか」
「はい。粦伝手にご存じだったらしく、気を使って止めてくださっているとお聞きしております」
「むう……」
むう、じゃないのよ。
じとりと見上げていると、とても仕方なさそうに「わかったよ」と納得してくれた模様。
よかった。




