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ホラー系乙女ゲームの悪役令嬢はVtuberになって破滅エンドを回避したい  作者: 古森きり@書き下ろし『もふもふ第五王子』


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見える世界の違い


 そして基本的に鉄30:霊石70が一番能力者に好まれる割合。

 一生使うものであり、自分の命、周りの人間を守るための道具なので絶対にケチるべきではないという。

 確かに。

 それを言うならVtuberもある意味“一生”を背負うものだから、やっぱりそっちにお金を使いたいな。

 よし、ここは腹を括ろう。


「鳴らしますね」

「はい、どうぞ」


 リン、と鳴らした途端周囲が一段階上の浄化がされた。

 店内が澄んだ空気に満ちていて、御愚間(おぐま)家の面々が「ほお……」と感嘆の声を漏らす。

 自分でも驚くほど綺麗な空気になってびっくり。


「これはすごい。先程お鈴でなかなかの量の霊力を流したはずだというのに」

「ね、ねえ、お嬢さん、年齢いくつ?」

「六歳……来月、七歳です」

「「「六歳!?」」」


 顔を見合わせる御愚間(おぐま)家。

 そりゃあ公式悪役令嬢で、反転したら祟り神になるほどの霊力を生まれながらに持っていたんだから……って思っていたけれど……もしかして私が思っていた以上に『千頭山(せんずやま)真宵(まよい)』って霊力が高いのかな?

 あるいは、修行の成果が出ている……!?

 私、ちゃんと毎日朝に禊もしているし、林の外周の浄化を日課にしてきた。

 それがちゃんと身になっているのだろうか?


 まさか、まだ霊力に余裕があるのですか?」

「え? は、はい」

「さすが千頭山(せんずやま)家のお嬢様ですね。おとなと遜色のない霊力量……もしかして、もう霊が見えていたりするのですか?」

「え? い、いいえ。声が聞こえることがあるだけで、“視る”までは……? なんか、光のモヤのようには視えますけれど」

「ほお……」

千頭山(せんずやま)家は祈祷師の一族ですからね」


 うんうん、と頷かれる。

 つまり、霊が見えないのって祈祷師なら普通?


「えー、まよいちゃん、霊見えないんだー。いいなー」

「え? 十夜は見えるの!?」

「うん。道とかに普通に立ってるよー。怖いんだぁ、たまに頭がなくて血がいっぱいいっぱいどばーってしてる人とか、お顔が腐ってる人とか。臭いもね、すごいんだよ。だから見えないなら見えない方がいいんだよー」

 

 お、おっ、ふ……。

 そ、そうなんだ……亡くなった人が、亡くなった時の状態でそこにいるから視える人にはその状態で視えているのか。

 それならあんまり見たくないな。

 く、腐ってる……『人間が腐ってる』って、その事象を子どもがわかっていの、ヤバいなあ……!

 十夜が視えている世界って、私が視えている世界とは まったく違うんだな。

 やだなー、そんなグロ光景が日常なら、私永遠に幽霊なんて視えない方がいいよ。

 普通に怖い。

 なんか、のほほんとした性格で忘れていたけれど、十夜って霊媒師の家系なんだよね。

 霊の声を聴き、霊と現世の媒介となる家系。


「ちなみに、こちらもお試しになりますか?」

 どうせでしたら、近くの川で試していただきたいぐらいですが」

「え? はい……え?」

 

 御愚間(おぐま)家が手渡してきた小箱は二つ。

 なぜか最近掃除してもいまいち浄化しきれない川に連れていかれることになった。

 なんで、と思ったが、店内が浄化されすぎているか、効果がわかりづらい、との理由らしい。

 確かに?

 どうせなら、それなりに浄化が必要なところで試してみたい。

 ってことで店舗から歩いて行ける大きな用水路に行くことになった。

 川じゃないじゃん……。

 

「最近この辺りで“呪い”の気配が強まっているのです。おそらく、用水路の下流の方で呪い屋が活動しているのでしょう」

「呪い屋……」


『宵闇の光はラピスラズリの導きで』のどのストーリーでも登場する“敵役”。

 そもそも、最初に主人公(ヒロイン)が巻き込まれるトラブルは、呪い屋が公園で呪いをかけているところに遭遇してしまったため。

 呪いをかけているところを見られた主人公は、呪いをかける者の“ルール”に基づき命を狙われるようになった。

 そこを助けてくれるのが、選択した攻略対象。

 ってのが、『宵闇の光はラピスラズリの導きで』の冒頭である。

 呪い屋の存在、ゲームの中では『そんな怖い存在がいるんだぁ』くらいの軽いイメージだったけれど、この世界の世界観を思うととんでもない重罪人じゃない……!?

 なんで放置されてるの?


「呪い屋、捕まらないのですか?」

「呪い屋を取り締まるお巡りさんが毎晩見回ってくれているからね。大丈夫だよ。でも、それでもやっぱり夜間は隠の気が増えて霊も活発化するから陽が落ちたらお外には出ない方がよろしいですね」

「は、はい」


 歩きながらそんな話をされ、用水路に到着すると木箱を目の前に差し出されて、箱の蓋が外される。

 薄水色のお鈴……。

 なにこれ、綺麗。

 ガラスでできているの?


「キレイ。なにこれ」

「これは100%霊石で作られたお鈴です。非常に壊れやすいため、高額ですがまあ、ほとんど需要がないのですよ」

「ぉん……」


 そりゃあこれだけガラスみたいなのじゃあ仕方ない。

 っていうか、霊石って壊れやすいのか。

 え? 待って? それを今から私に持たせる!?

 く、狂ってんのか御愚間(おぐま)家!?


「そ、そんなものを私が使っていいんですか……!?」

「たまに使っていただかないと、道具が拗ねてしまいます。優しく鳴らしてあげてください」

「は、はあ……」


 そんなことを言われても、めちゃくちゃ緊張する!

 恐る恐る手に取って、吸う、と息を吸って霊力を霊石のお鈴に込めていく――。



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