浄化アイテム、お鈴
「十夜くん、そちらのお嬢はどこのお家の子なのかしら? 婚約のお話が持ち上がっているから、お鈴を贈られるのでしょう?」
やばい、御愚間母が金の匂いを嗅ぎつけてきた……!
確かに千頭山本家は一見するとお金がありそうなもんだけれど、これ以上資産を食い潰されるのはまずい!
なにより婚約話が本家に行けば今度こそ殺される!
「せんずやま家のまよいちゃん」
「「「千頭山家!?」」」
「あ……えーと、はい。せ、千頭山真宵と申します。でも、別に十夜くんと婚約の話はないです」
別に名前自体は隠しているわけではないからいいけれど、婚約の話だけは全力でお断りを主張しなければ。
命に! 関わるんだってばぁ! わかってほしいー! マジでー!
「そうなのかい!? 婚約した暁には是非我が商店で婚約指輪をご予約ください!」
「ちなみにうちにも英っていう同い年くらいの子がおりまして!」
「婚約話しないです。その話するのなら帰ります」
「「「「待ってください」」」」
踵を返し、帰るつもり満々で自動ドアを潜ろうとすると御愚間父がスライディングで立ちはだかった。
ナチュラルにその勢いで目の前に現れられるの正真正銘の小一女児なら泣くぞ!
「申し訳ありません! お鈴をお求めでしたよね! どうぞこちらへ!」
だからなんでジョ◯ョ立ちでいちいち決めてくるんだこの一族。
普通に怖いってこのテンション!
き、きもいよぉー。
商人モードの御愚間英、ストーリー内でブリッジ歩行を行っていて地味なトラウマなのだが、目の前でブリッジ歩行兄バージョンが繰り広げられて涙が滲む。
おかしいよ、この一家。
絶対おかしいよ!
なにかに取り憑かれてるんじゃないの!?
「帰りたい……」
「え、でもお鈴は?」
「怖いよぉ」
「え? なにが怖いの? 大丈夫?」
十夜は心配そうにしてくれるけれど、私がなにに怯えているのかまったく理解してくれない。
怖い。
これが慣れというやつなのだろうか。
秋月に会いたい。
おい人外の方が常識人ってどういうことだってばよ。
やばい、なんかこう、涙が滲むと感情が加速してくる。
今の今まで平気だったはずなのに。
――母の死で沈んでいた心が、それなりに回復している、ということなのだろうか。
だから、この体の本来の持ち主、千頭山真宵の子どもらしい面が影響を及ぼし始めている?
「えーーー……ごほん。失礼、レディ。驚かせるつもりはなかったのだ。この店舗を利用する能力者の方には豊富な陽の気が人気でして」
「陽の……」
「大きな声を出して、楽しい雰囲気にすると喜ばれるのです!」
突然、御愚間家族の態度が普通の店員……まあ、それでもかなり元気だけれど。
そうか、この人たちはあのテンションでいくことで店内を陽の気で満たして浄化しているのか。
道具は浄化に用いるものが多いから、陽の気を浴びせることで買い手の気が入りやすくしているのだろう
……ジョ◯ョ立ちってそんな効果があるのか、この世界……つよい。
いや、そんなことあるぅ?
「怖がらせるつもりはなかったのです。申し訳ない」
「そう、我々別段こういう動きをしたり、大声を出すのが趣味とかそういうわけではないのですよ」
「ええ」
「その通り」
………………本当かなぁ……?
「せっかくお鈴を買う機会に恵まれておられているのですから、ぜひ当店の品質をお手に取ってお確かめください」
「わ、わかりました……それじゃあ……」
お手に取って、と言われてしまうと興味をものすごくそそられる。
だって十夜の家のお鈴を借りた時の、あの自分の霊力が音に乗って広がるあの感じ……ものすごく、心地がよかったんだもの。
あのお鈴が霊石をどのくらいの割合で使ったものなのかわからないけれど、もしかしたらあれよりも自分の霊力が強く乗るお鈴があるかもしれない。
そんなお鈴があったら、家の裏の林の悪霊を弱める助けになってくれるはずだもん。
「じゃあ……これ、鳴らしてみてもいいですか?」
「どうぞどうぞ。こちらは50:50比率のお鈴です」
「は、はい」
木箱の中の布の中からお鈴を取り出す。
結構重い。
十夜母にお借りしたものより重いな?
そう思いながら霊力を流しつつお鈴を鳴らす。
深い重い音。
高い音ではあるけれど、十夜母にお借りしたものよりは、深くて重い。
これは鉄の割合が多いからかな。
「これは……」
「たったひと鳴らしで……っ」
「これじゃないです。十夜くんのお母さんが、前に貸してくれたやつ」
私がそう言うと御愚間父が「その年齢で割合がおわかりに」と驚嘆の声を上げる。
いやぁ、結構違うもんだなって驚いた。
学校で配られたお鈴はこれよりも霊力が乗らないのだが、鉄の割合の方が多いってこと?
それでも子ども用だからか、かなり軽い。
……えっと……でも、たしかこのお鈴、50:50でも十五万とか言ってなかった……?
ぼったくりじゃないの……!?
「ではこちら、鉄割合30、霊石割合70のお鈴です。各お家の方々には一番好まれている割合のお鈴ですね。これ一つお買い上げいただければ、生涯お使いいただけるものとなります」
「一生……?」
「ええ」
なぜなら、道具や経本は自分の“気”を込めて“育てる”のが基本的らしい。
自分の“気”が入ることでより自分の霊力に馴染み、より高い効果を発揮するようになる。
革製品かな?




