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死亡エンド回避のために動き出す(1)


「え……あ……あ、の……」

「お母さん、ここに置いておくから。お前が悼んであげなさい。お線香は毎日あげて。あとは水を毎日替えてあげたらいいから」

「へ……」


 父が部屋の片隅に祭壇を置く。

 祭壇には位牌と人の頭くらいある箱、線香立て、マッチ、未使用の線香箱が置いてある。

 ちょっと……このおっさんがなにを言っているのか……理解ができない。

 理解したくない。

 このおっさん、マジでなに言ってる?


「じゃあ、あとは頑張って」

「え……お、お父さ……」


 パタン。

 静かに閉まる襖。

 完全に他人事。

 あのおっさん、自分の妻が死んでも顔色一つ変えず、妻の遺骨や位牌を女に丸投げして悼むこともしないの?


「……ガチ狂ってんじゃん」


 祈祷師の家系、祈祷師の名家なんて言われてるのにマジで頭おかしいじゃん。

 祈祷師ってそういう感じなの?

 もっと死者を尊重するものだと思ってた。

 拳を握り締める。

『宵闇の光はラピスラズリの導きで』の中のシナリオで見た千頭山真宵(せんずやままよい)の人生は祖母と父から虐待の積み重ね。

 母親が亡くなってから実質孤立無援となった真宵は、学校には世間体から通わせてもらえるが自分の食い扶持は自分で稼げと言われ、祖母の“呪具”として現場に連れ回されるようになる。

 息子を奪った女の子どもを自分の血筋と認めず、祖母が祓った念を全部体内に流し込まれ続けてされて蓄積されていく。

 そもそも“祓われる”ような念は無念や怨念、憎悪などのマイナスなものばかり。

 そんなものを長年流し込まれたらそりゃあ人間でなくなる。

 どんどん変化していく顔つき。

 美しかった黒い髪はくすんだ灰色に変わり、目元は落ち窪み、頰はこける。

 特に無念の念と同調し続けて精神に異常をきたしても祖母の拘束により強制的に流し込まれ続けて、ついに腕は取れ、足は奇形化し、顔は爛れ、言葉を発することもできなくなり真宵は身も心も魂さえ祟り神になるのだ。

 それがこの子の――私の運命。


「冗談じゃない」


 そんな理不尽許せるわけない。

 そんな運命、わかってて受け入れてたまるか。

 そもそも、なんで殺されたのかわからないのに、悪役令嬢に転生したからってまたそんな殺され方冗談じゃない!

 理不尽すぎるっての!

 絶対回避する。

 幸い色々な悪役令嬢転生ものを読み耽っていた実績もあるし、母が亡くなって実質天涯孤独になったばかりの小学一年生!

 学校には通わせてもらえるわけだし、祖母っつーか鬼ババアの目の届かないところで家から出る算段をつければいい。

 世間体を気にする名家だから、徹底的にそれを利用して絶対に祟り神死亡エンドを回避するぞ!

 ……でも、子どもだからどうしたって鬼ババアに連れ回される可能性はある。

 対抗手段がほしい。

 どうしたら念を流し込まれずに済むんだろう?

 そういう手段も調べておこう。

 多分なんとかなると思うんだよね、真宵のプロフィールに『祈祷師の家系。高い霊力を持つが――』って書いてあったもの。

 伊達に祈祷師の名家生まれじゃないってことよ。

 鬼ババアが『孫として認めない』とか言ってたところで、その血を継いでいるのは間違いないわけだ。

 絶対対抗手段があるはず。

 なんとかそれを調べて手に入れないと。

 大丈夫、絶対なんとかなる! はず!

 だってまだ真っさらピカピカの一年生だもん!

 まずは家の中で味方を見つけなければ。

 大変だけど、見定めるしかない。


 ――それから千頭山真宵(せんずやままよい)としての人生が始まった。

 ここ三日でわかったことはいくつかあるけれど、一つ目は『さすが六歳、できることが限られている!』だ。

 まずもって子どもを庇護するはずの保護者二名があまりにもクソすぎてどうにか仕返ししてやりてぇ〜。

 まず食事。

 多分使用人の残り物。

 たくあんや卵焼きの端っこ、味噌汁は具なし、ご飯は昨日の残りで冷たくて固い。

 まともなご飯は小学校の給食のみ。

 お風呂も水風呂が基本。

 鬼ババア曰く「冷水で身を清めなさい」だそうだ。

 自分とおっさんはちゃんとあったかいお湯に浸かってるくせにねぇ?

 っていうか、あのイカれ親子、一緒にお風呂に入ってるし一緒の布団で寝てるんだけど。

 マザコン親子ってマジで頭イカれてんだァ、ってびっくりした。

 前世で培った常識が全部通用しないっていうか、マザコンにはマザコンの常識があるみたいっていうか。

 もう日々、こいつらダメだぁ、と思うことばかり。

 っていうか、よくよく考えると祖父は?

 マザコン親子が強烈すぎて存在忘れていたけれど、祖母がいるってことは普通祖父もいるはずだよね?

 ひとまず家の中で味方を作ろうって思ったけれど、襖の前にご飯が置かれているくらいで使用人の姿を見かけないんだよね。

 そういえば学校にも通っているはずなのに、ランドセルが見当たらない。

 記憶も全部“前世の私”が上書きしてしまっているらしくて、なにもわからないんだよね。

 せめて誰かに聞いて、学校に通いたいんだけれど……。

 仕方ない、喪に服すのもそろそろ終わりにして本格的に使用人を探しに行こう。

 廊下に出ると、人気(ひとけ)はない。

 右が左か、と悩みつつふと、縁側の向こう側を見ると別の建物が見える。

 ここは離れ、右が母屋。

 じゃあ左の建物はなに?

 行ってみようかな?

 いいや、行ってみよ。


「こっちも離れなのかな……?」


 このお屋敷、母屋を囲うように五棟の離れがあるのか。

 多くない? 離れ。

 こんなもんなの?



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