善岩寺家本家に潜入!?(2)
「うちはそこの丘の上なんだー」
「そうなんだ」
さすが名士、善岩寺家の本家。
デッッッッカ!
……しかし――まさかこんなに早く善岩寺十夜と会えるとは思わなかった。
善岩寺十夜もまた、『宵闇の光はラピスラズリの導きで』の攻略対象として漏れなく破滅エンド――真宵と同じ祟り神になり、ヒロインに浄化されて死亡する。
多分だけど、現実の祟り神とゲーム設定の……私たち関係者が祟り神になった姿は存在としてなにかが異なる気がするんだよね。
死ぬのは変わりないんだけれど。
なんていうか、実態があるかないか、的な。
だからもしかしたら、浄化しなくても……死ななくてもいいんじゃ、と思ったりするんだ。
その辺りも調べられたらいいのに。
そして、善岩寺十夜。
彼の破滅エンド回避には、彼自身の精神的な成長と母親の救済が必要だと思う。
善岩寺十夜は霊媒師として霊を体に宿した母が、実は宿したのが悪霊で乗っ取られて行方不明になり、母を探すために霊媒師になった、という経緯。
ヒロインが呪い屋に狙われてしまったことで助けに入るが、選択肢によっては彼自身の成長が届かずに悪魔に変貌した母親を倒しきれずに取り込まれて祟り神になる。
もしも善岩寺十夜が霊媒師にならないルートになったとしても、幼少期の時点で母親が無事なら、その悪霊が取り憑く前に助けられたら祟り神にならないんじゃない?
助けられるんじゃない?
「いらっしゃいませ!」
「わあ!?」
考え事をしていたせいで、いつの間にか玄関まで来ていたことに気づかなかった。
いや、それ以前に大声とともに扉が開いたら私じゃなくてもびっくりするでしょ。
しかも、結構な大柄の筋肉マッチョ。
一目見たらもうわかる。
成長した善岩寺十夜のマッチョ版みたいな……。
善岩寺十夜が鍛えたらこうなる、みたいな……。
「君が俺にイラストを頼みたいお客さんかな!?」
「は、はい。そうです。初めまして、えっと……千頭山真宵と申します」
「せっっっっっ……!?」
名前を名乗り、頭を下げると玄関扉を開けたまま固まる善岩寺十夜の兄。
ど、どうしたん?
「千頭山家えええぇ!?」
あ、ああ、そこかぁ。
「とーーーちゃーーーん! かぁーーーーちゃーーーーーん! てぇへんだてぇへんだぁぁーーー! 十夜が千頭山家の娘さん連れて帰ってきたああああーーーー!!」
「「え?」」
「なんですってぇ!?」
「千頭山家の!?」
顔を上げたらリビングと二階からバァン! とすごい扉の音。
ドダダダダと集まってきた初老の男女、そして二階から他にも数人の若い男女。
え、え、え、え? なになになになに!?
「ただいまー、ママ、パパ、お兄ちゃん、お姉ちゃん」
「おかえり! え!? その子!? その子が千頭山家のお嬢さん!?」
「そうだよー」
「でかした!」
なにが!?
「旦那様、奥様、そのように大きな声を出してはお客様が驚かれますよ。お茶を淹れますから、リビングにお集まりください。十夜坊ちゃんはお着替えしてきましょうね」
「はあい。まよいちゃん、リビングで待っててねー」
「う、うん」
「「「「どうぞどうぞ!」」」」
「こちらがリビングです!」
「どうぞこちらへ!」
「は……はい……」
なに? なにが起こっているの?
なんで私こんなに食い気味で歓待されているの?
こ、怖い怖い怖い。
怯えつつ使用人らしきメイド服のおばさんにご家族と遮られ、笑顔で案内される。
十夜の家族の方がテンション爆上げってなんなの?
ただ、この家すごい。
さすがは霊媒師の名家。
家の端々に天然石の結界やお札が貼ってあり、浄化がされていて空気も綺麗だし陽の気に満ちている。
なにより、この家族全員が『太陽』や『火』の気で溢れているように見えた。
隠の気のモノは『太陽』や『火』の気に当てられると燃えて消えるので、相性としてはかなり強力。
まさに名家だ。
リビングに通されると、二十人くらい座れる長いソファーが三つ。
でっかいテーブルを囲むように設置してあり、壁には前世の世界でも見たことのないような大画面テレビ。
使用人に「どうぞ」と促されたのは、そのでっかいテレビの真ん前。
いや、気まずい気まずい!
「そ、それで……千頭山家のお嬢さんがなぜ我が家に?」
「もしや、うちの十夜との将来的な結婚を……視野に!?」
「は、は!? ち、違います違います! 十夜くんのお兄さんに、イラストレーターの方がいらっしゃると聞いてお仕事を依頼に……」
「そういえばそうだったあ!」
「おいなんだよ! 一夜兄ちゃん!」
「はやとちりかよー」
「なによ、十夜が彼女連れてきたのかと思ったのにー」
ご家族全員声でっか!
……そして、あの端に座っているはっちゃけた感じのおば様が十夜母。
いずれ悪霊に乗っ取られて、行方不明になる……。
確かにこれだけ賑やかで家族仲がいいと、お母さんのことを諦められないのかも。
「お待たせいたしました。お茶です。こちらは銅鑼屋和菓子店の羊羹です」
「あ、ありがとうございます」
席に座り直す面々。
その合間を縫うように、先ほどの使用人がテーブルにお茶と羊羹を並べていく。
この場にいるのは十夜の両親と兄姉四名。
そして私の七人分のお茶とお菓子をたった一人で捌き切るなんてすごいな、この人。
「それで、一夜くんのイラストのご依頼という話だけれど」
「は、はい。実は私、Vtuberを目指していまして」
『ぶいちゅーばー?』
全員が声を揃える。
あまりにもご家族すぎるなこの人たち。




