新しい味方ゲット
「真智と年も同じなのに、もうそんなことまで考えているのか。真宵さんはすごいね」
「ふ、普通です」
わかってる、普通じゃないのはわかってる。
だがここで変に勘ぐられても困る。
もうここは突っ走っていくしかねぇ!
「じ、自分で知見を広げて、考えて、頑張らないと……生きるために」
嘘は言っていない。
生き延びるための行動だからね、全部。
でもそれを聞いた真智の叔父さんと三重子さんの表情は、一気に曇る。
私の生活環境が、真智よりも切羽詰まって危険な状態なのだと察したんだろう。
当然、私にも下心はある。
あの、いつ殺されるかわかったものではない鬼ババアのいる家から助けてもらえるのなら助けてほしいし、それが無理でも最大限に援助はしてほしいから。
だって、一応小学校一年生だぞ、こちとら。
保護者がいなくてインターネットにも契約できず、かつ携帯も持てない。
未成年がどれほど保護者に守られているのか、守られなければ生きていくのに不便なのか、痛いほど思い知ったばかり。
コンビニのゴミ箱を漁ってでも生き延びるって決めた今、人の親切心も利用しないと。
自分の力だけで生きていけるほど、私はまだ強くないのだ。
世界観がこうも似て非なる場所じゃ、前世の記憶の知識もどこまで通用するかわからない。
おとなの……人間のおとなの協力者が、絶対に必要。
Vtuberの事務所に応募するにしても、しっかり『未成年の方は保護者の同意書類も同封してください』って書いてあるし!
……こりゃー個人勢として始めるしかねぇな。
「そうか。僕らにはどれほど君の力になれるかわからないけれど……なにかできることがあったら言ってほしい」
「あ、それなら一つお願いがあります! 会計士さんを紹介してはいただけないでしょうか!」
「会計士さん?」
「はい。私が今住んでいるのは、千頭山家の別邸なのですが、私と使用人の子の二人だけなのです。私とその使用人の子も未成年で、一年分の生活費として一千万円を渡されたのですが、子どもが管理するには額が大きくて……」
「なるほど。それでプロに……おとなに頼もうということですね」
「はい。やっぱりお金のことは不安なので……」
「わかりました。我が家の伝手で会計士を紹介しましょう。ついでに弁護士と税理士にも話をした方がいいかもしれないですね。そちらもうちの伝手で紹介します」
「あ! ありがとうございます!」
助かる〜!
税のことなんか全然わからなかったからね、税理士さんもってのは本当に助かる!
それに弁護士さん!
法律のプロだよね。
その人が後見人みたいになってくれたら、いよいよ本格的にあの鬼ババアとマザコン親父を追い詰められるようになるかも。
でも、あまりその人たちも信じ過ぎないように気をつけよう。
信じても……ある日突然裏切られることもある。
前世の私のように……。
「後日面会においでください。予定を合わせてもらえるようにしておきます」
「はい」
「そういえば真宵さんは携帯電話はお持ちでは……」
「ないです!」
「そうですよね。うーん、では、真智に伝言を頼みます。日程が決まったら、真智に教えてもらってください」
「はい! ありがとうございます!」
連絡手段。
そうだ、今の私にはそれがない。
別邸の方も固定電話すらなかった。
鬼ババアからすれば、連絡なんていらないってことなんだろう。
出て行きたかったら家から出てけって。
確か、『宵闇の光はラピスラズリの導きで』で悪役令嬢千頭山真宵の父親は、真宵の母親が死んですぐに愛人を本家に連れ込んで弟を産ませていたような……?
それが未だシルエットしかわからない攻略対象の一人じゃないかって説もSNSに流れていたはずだ。
つまり、私を別邸に追い出したあと、マザコン親父は愛人をすでに連れ込んでいる可能性がある。
愛人と新しい子どもが生まれるのなら、余計に私を隔離しておきたいはず。
むしろマザコン親父のだいちゅきなママが『孫として認めない』とまで言ってるんだ、私のことは本当にどこかで野垂れ死んでほしい、とまで思ってそう。
絶対死んでなんかやらない。
そんで、私が! 千頭山家を立て直す。
これは、秋月のために。
「真智もそれでいい?」
「いーよ。仕方ないからな」
「ありがとう、真智」
「だいじょぶ、まかせろ」
ふん、と口角を上げつつ腕を組んで伝言役を了承してくれた真智。
頼りになる〜ぅ。
いや、でも本当に助かった。
真智の家に今日来れてよかった。
修行はもちろん継続していくけれど、新しい目標がはっきり見えたからね。
定期的にこちらにお邪魔して、必要なものを揃えていこう。
まずは撮影カメラ、動画編集ソフト、立ち絵、ライブ2D、マイク、かな。
全部自分でいけるかな?
やるだけやるしかないけれど、プロに頼めるのならプロに頼みたいなーっ!
特に立ち絵は集客のためにも私みたいな素人絵じゃ無理だ。
Vtuberの立ち絵を描いた経験がありそうな絵師さんもいなさそうだし、もしかしたら私がこの世界初のVtuberになるのかも?
ええい、そんならやるだけやってやるしかない!
やったろうじゃないの、この世界初のVtuber!
私が有名になれば、世間体気にしまくる鬼ババアは、そう簡単に私を殺せなくなるもんね。
なんかもう、前妻自殺後即愛人と再婚入居なんてすでに世間的に終わってるんだけど。
それすら気にならないくらい、あいつらは自分たちの常識の中でしか生きていないのだから。




