リリースしたての乙女ゲーム
スマホ向け乙女ゲーム『宵闇の光はラピスラズリの導きで』――。
主人公、“小春日みちる”はど一般人だが、呪い屋が呪いをかけるところを見たことで様々な事件に巻き込まれる。
助けを求める攻略対象のルートによって、恋に落ちたり“浄化の巫女”に選ばれたり。
と言っても私がプレイしていた時はメイン攻略対象というべき三人のみのルートが開放されていたのみで、他の攻略対象は“順次開放”とのことだった。
メイン攻略対象で、ジャケットセンターを務めるのは善岩寺十夜。
霊媒師の家系。霊を下ろし、そのまま悪霊に乗っ取られて行方不明となった母を探している霊媒師。
霊の声を聴いて寄り添うように仕事をする。
悪魔になった母を倒しきれず飲み込まれ、自身も悪魔と化してヒロインに祓われる可能性がある。
二人目は御愚間英。
祓い家の家系。御愚間寺院を経営。呪物が持ち込まれるため、常日頃から呪具の念に晒され続けている。
ヒロインと知り合って、彼女を呪い屋から守るために奔走する中、家に預けられた呪具の扱いを誤り祟り神化。ヒロインに祓われる可能性がある。
三人目は大離神日和。
陰陽師の家系。
陰陽師の名士、安倍家の文化の一つ。
独立した流派を名乗り、他の陰陽師の家系からはやや疎遠にされている。
ヒロインを助けようとするが呪い屋の罠に嵌り、怨霊を集めてしまい祟り神化。
ヒロインに祓われる可能性がある。
そして“私”――千頭山真宵。
高明な祈祷師の家系。
高い霊力を持つが、父親がクソのマザコンで、祖母は「あの女の子を孫とは認めない」と真宵を差別。
母は幼い頃に自殺。
孤立無援状態になり、家業から身代わり人形として使われるようになり体に呪詛を蓄える。
『宵闇の光はラピスラズリの導きで』のヒロインにより浄霊されるラスボス祟り神と化すいわゆる悪役令嬢。
――うん! クソすぎる!
シナリオがクソというか、いや、普通に面白く遊ぶんだけれど選択肢を間違えるとマジで攻略対象が軽率に死ぬ。
死を回避するための周回前提で組まれているのか、シナリオは読み放題。
課金要素はヒロインの着る服や、体力回復アイテム、霊力アップアイテムなどのみ。
良心的に思っていた時期が私にもありました。
レベルアップの概念がある時点で、戦闘クエストを周回する必要があるということになぜ気づかなかったのか。
言うて初期は結構体力回復アイテムの配布があったから、レベリングは難しくはないのだが。
むしろ修行クエストの方が放置時間によってはすぐ次の授業にできなくて、仕事中トイレに行くふりをして修行クエスト回収、からの次の修行送り出しとかやってた。
そしてシナリオを一度クリアすると攻略対象のカードが手に入り、その攻略対象と戦闘クエストに行ったり修行に行かせたりできるようになる。
攻略対象カードは経験値と親愛度を増やすことで、新規ボイスが開放されていく。
ホーム画面に設定すると、ボイスが聴ける仕様。
そしてなんと最近月初めに攻略対象の新規絵カードガチャが実装。
ガチャの実装を受け、オタクの私は確信した。
全然良心的じゃねぇ……終わった……。と。
実際財布が結構終わった。
ガチャは悪い文化。
まあでも、実際満足のいくイラストカードはゲットできたわけだが。
なにせ私が押していたVtuber、『りゅうせいぐん☆』の織星ハルトくんがVCを担当した宇治家真智の攻略ストーリーは未実装だったんだけれども。
先にカードが来てしまいおってからに。
ガチャ引いてボイスが聴けたから満足した感じはある。
「ふむ……つまるところ要するに……ストーリーがわかっているのは、善岩寺十夜と御愚間英だけってことか」
そもそもリリースされたばかりで攻略対象自体解放されているのが三人だけ。
あとはシルエットが五人もいたけれど、ストーリーどころかビジュアルも未解放。
そして私が推す気満々の宇治家真智はストーリー未解放。
詰んでない?
理不尽がすぎない?
悪役令嬢の転生ものならもう少しなんかこう……情報があるものじゃないの……!?
そもそも千頭山真宵自体、私の知る限り生存ルートがない。
善岩寺十夜と御愚間英のストーリーを四周した結果、全部の選択肢で真宵は祟り神になってヒロインに祓われ、死んだ。
真宵の境遇を思えば、彼女が恨み辛みを蓄積して祟り神になるのは無理のないことのように思える。
しかし、その真宵に転生したらしい私にとってしてみたら冗談ではない。
その上、昨日の衝撃的な光景は……真宵の母が祖母の嫁いびりに耐えられなくなり自殺した瞬間のもの。
結局あのあと、私が警察を呼んで後処理をしてもらった。
身内であるはずの父と祖母はまさかの私への丸投げ。
私、まだ小学一年生だぞ?
警察と大困惑よ。
結局祖母が親戚を呼んで手続きをしてくれたようだけれど、母の遺体はどこかへ運ばれてそれきり。
こういう場合って、お通夜とかお葬式とかがあると思っていたのにそれもない。
母の遺体は、どうなったんだろう?
「真宵」
「ひっ!」
あてがわれた和室を見回していると、襖から父の声がして肩が跳ねた。
恐る恐る「はい」と返事をすると、なにか……不思議な匂いが漂ってくる。
静かな、感情のない声で「開けなさい」と命じられ、震える手で襖を開けると脳面のような顔の父がお盆を持って入ってきた。
食事……ではない。
小さな、祭壇だ。