覚悟
「秋月、いるかなぁ? 秋月ー」
秋月がよく出てくる鏡に近づく。
秋月は割と呼べば来てくれるけれど……さすがに今は来ないかなぁ?
心配していたけれど、鏡からうっすらと半透明な秋月が現れた。
「話は聞いていたよ」
「あ、聞いていた? えっと、どうかな?」
「真宵は千頭山家を立て直してくれるんじゃなかったの?」
不満そう。
その約束はもちろん覚えている。
「そのつもりだよ。でも現実問題、今の私は未成年なの。祈祷師としてもVtuberとしても自分の身が自分で守れるようにならないと、千頭山家を立て直すところに立てない。だからちゃんとおとなになって、千頭山家を立て直せるよう今頑張っているんだよ? 私が立て直しができるようになる前に千頭山家がなくなっても困るでしょ? だから一旦、お祖父さまにお任せしようかなって」
「……ふむ」
私の考えを告げると、秋月はちょっと腕を組んで目を細める。
この辺りは未成年の限界。
少なくとも今は無理って話。
「それは理解したけれど、それならいつか、真宵が千頭山家の当主になるってことだよね?」
「そうね。今は無理だけれど……」
目を閉じる。
ここで腹を決めなければいけないと思った。
正直なことを言えば、私は中身が違う。
私は千頭山真宵じゃない。
けれど、前世の私は絶対に死んでいる。
千頭山真宵に体を返す日が来るのはわからないけれど、もしそうなった時……彼女は千頭山家の当主になりたいと思うんだろうか?
わからないけれど、彼女が食べるに困らない状況にしておいてあげた方がいいよね。
たかが人に使われるだけの一般OLの私ごときにそれができるのか、自信はないけれど。
でも、そうしてあげたい。
乙女ゲーム『宵闇の光はラピスラズリの導きで』の悪役令嬢として、祟り神になって死んでしまう未来だけは回避してあげて――それで……。
「うん……私、いつか、千頭山家を背負うよ。約束したものね。ちゃんと勉強して、色々な人に協力してもらうことにはなると思うけれど……私、立派な祈祷師Vtuberになって千頭山家を立て直す」
秋月と約束したもの。
今、腹を括った。
それを聞いた秋月が、目を少しだけ見開いてから安堵したように目を細める。
「うん、それならいいよ。釘だけは刺しておいてね」
「がんばるね」
「もしも約束を違えるようなら、僕はまた鬼になってしまう――って、伝えておいて」
「脅しじゃない」
ふふふ、と笑う秋月。
まあ、多分笑い事ではない。
ガチだ、これ。
「真宵お嬢、あの……秋月様はなんと?」
「許すそうです。ただし、条件があります」
「条件」
こそーっと襖を少し開けて、粦と英が顔半分を出してお伺いを立てている。
それに対して秋月が出した条件を伝えてあげた。
「一つ、私がおとなになるまでの間、仮の当主として認めるそうです。私が成人したら、千頭山家の当主の座を明け渡してください」
「代理人ということですか」
「はい。私が秋月に祈祷師として色々教わっているのは、いつか千頭山家の当主になるためなんです。鬼ババア――祖母は千頭山家のお金を散財していたそうなので、私に立て直してほしいと言われていたので私がやらなければ。契約違反になっしまうので」
「っ……」
この業界で人ならざる者との契約はどこにどんな影響があるかわからない。
契約を違えれば、祟りが生まれることもある。
まして千頭山家が抱える守護神は元悪鬼。
祟り神の一歩手前。
悪魔よりも強力で、半分神に足を突っ込んでいる。
そんなものと契約を違えたら、間違いなく祟りが発生してしまう。
多分、秋月は相当強い“悪鬼”だったのだと思うから、絶対祟りを発生させたくないはずだ。
脅しとしては凄まじい威力。
「一つ、ということは二つ目もあるのですか?」
「あるわ。二つ目は私の自由にさせること。私、Vtuberになりたいから、そのあたりは邪魔しないでほしいの。Vtuberをやりながら当主としての勉強もするからサポートしてほしいかなって。これは秋月というか、私の希望が半分くらいだけれど」
「それは当然かと。Vtuberに関しては興味を持っている家も多いので、構わないと思います」
「うん!」
キーン、と耳が痛い。
突然入ってきたのは日和だ。
うん、だけでこんなに大声貫通させてくるとか強すぎでしょ。
っていうか、Vtuberに日和も興味がある?
「――あなたが千頭山家の守護神、秋月様か! ぜひご挨拶をと思って! 初めまして! 大離神日和と申します!」
「ああ、初めまして」
「日和は秋月が見えるんだ?」
「まあ、この子は霊力が高いからね。見えるんじゃない?」
なんか秋月って、千頭山家の関係者にしか見えないイメージだった。
霊力が高い人になら誰にでも見えるのか。
「真宵嬢が千頭山家を継ぐのであれば、大離神家の天才! 安倍晴明の再来と言われるこの俺を! 婿にとってはいかがでしょうか! 絶対幸せにしますし! 千頭山家のために働きますよ!」
「それは真宵が決めることだから、今どうこうということはないかな」
「うーん! 真っ当かつ辛辣!」
「別に辛辣ではないでしょう」




