実家の終わり(3)
伝えたけれど、結局のところあのマザコンは秋月の言葉を伝えても自分の泣き声で邪魔をして聞いていなかった。
もうあとはどうすることもできない。
ボディガードたちが眉間に皺を寄せて、マザコンクソ親父の両腕を抱えて頭を下げてきた。
この人たちはなにも悪くない。
むしろ、身内の恥が恥すぎてこちらが申し訳ないのだが。
こんなマザコンクソ親父を、丸投げしてしまってすみません……。
でも、うちでこのマザコンクソ親父を引き取るのは無理です。
っていうか、結婚したのならちゃんと面倒見てほしい。
いくら実家で反対して帰ってこいと言っていたとしても、妊婦だとしても、最低限他所様に迷惑をかけないように首輪くらいつけておいてほしかったなぁ。
まさかそれを六歳の幼女に求めてはいないでしょう?
求めてるとしたら後妻も頭がおかしいよ。
うん、このまま『六芒星』の家に任せよう。
私の手には余るっていうか、どうすることもできないよ。
だって私、六歳児。幼女。子ども!
二十代後半の二人の子持ちの成人男性マザコンの面倒なんて見られるわけないでしょ。
なんで六歳児が成人男性の教育をしながら世話しなきゃいけないの?
それこそ虐待よ、虐待!
今の時点で十分親として終わっているのに、子どもに世話され教育し直されるとか冗談がきついでしょっ。
「よろしかったのですか、お嬢様」
「当然。粦もいくら異母兄だからって構わなくていいからね。なんで成人男性を一から育てなきゃいけないのよ。そんなの親の仕事でしょ。あの鬼ババアがちゃんと育てないからあんな中身子どもな成人男性が爆誕しちゃったんじゃない。そんなのなんで私たちが育て直さなきゃいけないのよ。私たちだって育てられる側なのに」
「あ……」
育ててもらえなかったとはいえ、私や粦のように『自分で自立を目指す』ことはできたじゃない。
それをせず、甘えて考えることを放棄したのはあいつ自身。
楽な方に逃げ続けたあいつ自身の責任。
「粦と私はアレを反面教師にしてちゃんとしたおとなになりましょう。自立して、人の役に立つおとなに! あんな人様の迷惑になるようダメなおとなにはならないように……!」
「そうですね……あの……ちょっとわたしも……」
さすがに自分と半分血の繋がった異母兄がアレだとショックだったのだろう。
私もショックだった。
アレ、父なんだぜ……? 私の……。
エグいだろ……千頭山真宵の人生、ハードモードがすぎる……。
「まあ、鬼ババアが千頭山家から出たってことは、多分粦の本当のお父さんとお兄さんの家がこれからは千頭山家本家、みたいな扱いになるんじゃないかしら? 秋月のこともあるから、あのお屋敷に引っ越してくるのかもしれないわね。そうなると粦はあっちの屋敷に戻って、ちゃんと霊能力の使い方を教わった方がいいかもしれない。私じゃ教えてあげられないもの」
「え……!? い、いえ! 粦は霊能力者になるつもりはありません! ずっと真宵お嬢様の専属従者になります!」
「そんなのやらなくていいよ。粦は粦の人生を送らなきゃ」
今はまだ、粦の存在はとても大きい。
正直この小さな手では包丁を握るのもフライパンや鍋を持つのも難しいから。
洗濯物も洗濯機に入れるのには台が必要だし、お風呂を洗うのも転んでしまう。
少し大きな人の力が必要。
粦がいてくれたら、私は今の生活ができている。
でも、ずっとこのままでいいとは思わない。
粦には粦の人生がある。
私は中身こそおとなだけれど、体は子ども。
だから思うんだ。
「粦、私のことを心配してくれて、大事にしてくれてありがとう。でも、私は私の人生のために頑張っている。粦も粦の人生を考えてほしいの。さっきの見たでしょ? 自分の人生のことを考えないとどんなおとなになるのか」
「あ、ああ……」
声に絶望が混じる。
そうなのよ、粦、あれが自分のことを甘やかし続けたおとなの姿よ。
考えることを放棄したまま成人したらああなるの。
あれは極端な例だけれども。
「……すごく……その……せ、説得力が……あ、ありました……」
「そうでしょう? ああなりたい子どもがこの世にいると思う?」
「……い……いいえ……」
ものすごく言いづらそうだが、目線を彷徨わせつつ首を横に振る粦。
それが普通の感覚だと思う。
あれになりたいと憧れる子どもはいない。
……いや、そもそもおとなでもアレは許容できる人いないか。
「だからね、自分のことはちゃんと自分で考えないとダメよ。私も考える。Vtuberとして生きていくために、どうやるかを」
「お嬢様は自分の未来が明確に見えているのですね」
「とんでもない。まったく見えないわ。でも、やりたいことをやろうと思っているの。Vtuberになったあとの世界がどうなるかわからないでしょ? この世界がいい方向に向かうように、頑張るつもり。もちろん、その時に粦が近くにいてくれたら嬉しいけれど」
Vtuberはこの世界に存在しないもの。
それがこの世界に爆誕したらどうなるのか、未知数。
願わくば、受け入れてもらって後進がたくさん現れたらいいなと思う。
それがきっと新しい文化になる。
今は少しだけ、反転巫女が癒される世界になればいいとも思うから……『宵闇の光はラピスラズリの導きで』が始まるまで、改善できることをしよう。
私も死にたくないし、攻略対象たちにも死んでほしくないから。




