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ホラー系乙女ゲームの悪役令嬢はVtuberになって破滅エンドを回避したい  作者: 古森きり@書き下ろし『もふもふ第五王子』


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今後の方針(1)


「真宵」

「う……う……? あ……しゅ、う、げつ……」

「ごめんよ、僕は契約に基づいて千頭山(せんずやま)家の人間を攻撃することはできないんだ。怪我を治すことはできるから、今少しだけ治した。ゆっくり目を開けてごらん」

「う……」


 言われた通り、ゆっくりと目を開ける。

 二本の細いツノを額から生やした秋月が、蔵の天井付近の小窓から差し込む月光に照らされて見えた。

 朝だったはずなのに、夜になっている……?


「僕はあくまでも“隠”の者だからね。深夜の方が力が強まるんだ。だからこんな時間になってしまって、ごめんね」

「う……ううん……だい、じょおぶ……ありがと……」


 体がだいぶ楽になっている。

 ぱちぱちと瞼を何度も瞬く。

 視界のぼやけがゆっくりと取れた。

 でも、まだ体が怠い。


「怪我を完全に治すのは難しいな。どうせなら自分の中の霊力を使って、体内の熱を排除するように働きかけてごらん」

「ん……う……うっ……ぐっ……」


 熱を排除ってどないやねん。

 とか、思うけれどやってみる。

 体の表面に纏う熱を外に出すようなイメージ。

 自分の中の霊力で体の芯を包み、守るイメージ。

 あ……少しだけ体が楽かも。

 霊力って結構万能?


「体の気の流れを整えるんだよ。気の流れが整えば体調も整うものだから。急ぐ必要はない。ゆっくり。ゆっくり」

「は……っ」


 ゆっくり……そうか、ゆっくり。

 そうだよね、急速にやったらよくない。

 体の気の流れをゆっくり正常に、朝の時の流れと同じくらいにさせる。

 ふう……と息を吐き出す。


「うん、だいぶ整ってきたね。あとは体力を回復させよう。ゆっくり眠って。大丈夫だよ、僕がずっと近くにいるから」

「うん……。しゅうげつ、鬼に、戻らない、よね?」

「うん。戻ったわけではないよ。本質が鬼ではあるけれど。昼間には座敷童子に戻るよ」


 そうなんだ。

 夜は大人の鬼のような姿で、昼間はかっこいいお兄さんに化けた私よりちょっとだけ背の高い男の子。

 そうだよね。

 秋月は私のお師匠で、この家の守り神だよね。

 膝の上に丸くなり、秋月の着物の裾を掴んで丸くなる。

 体はだいぶ楽になったけれど、私、このままで大丈夫かな?

 あの鬼ババアと同じ家で過ごしていけるだろうか?

 怖い。

 この家から出たい。

 どうにかして、この家から出られないだろうか?

 でも、この家から出たら秋月は?

 秋月を置いていけないよね。

 どうしたらいいんだろう……。




「んんん……」


 少し、体が楽。

 少しというか、これは眠気からくる気怠さと寝過ぎからくる頭痛?


「イッタっ……イタタタっ……。あれ? 包帯が巻いてある……?」


 とりあえず身を起こしてみようかな、と思って手のひらがふかふかなところに乗ったことでいつの間にか自分が布団に寝かされていると気がついた。

 私、いつの間に布団に。

 布団に寝かせてくれるような人、いた?

 いや、そんなの秋月しか――


「あ、目が覚めましたか?」

「だ、だれ?」

「初めまして、わたし、(りん)と申します。半年ほど前からこちらで働かせていただいている者です。あの、秋月様に真宵様のことを頼まれたので……その……」

「あ、ああ……秋月が視える人」

「はいっ」


 今の千頭山(せんずやま)家で秋月が視えるのは私と『(りん)』という十四歳くらいの使用人だけ。

 現当主であるはずのクソ鬼ババアと、次期当主であるはずのバカマザコン親父すら、秋月を視るほどの霊力がないという。

 だからこの人――粦という人は相当に強い霊力を持っているってことなんだ。

 でも……。


「なんで……秋月を視れるくらい強い霊力の人が、使用人なんてやっているんです、か?」

「あ……ええと……わたし、孤児(みなしご)でして……千頭山(せんずやま)家の、遠縁だったらしく、その伝手を辿って、なんとかここに住み込みで働かせていただいているんです。学校も通わせていただいていますし」

「そうなんだ……」


 家の資金を食い潰しているとは聞いたけれど、私や粦さんの学費や食費ら使用人のお給料を賄われていると思うと複雑だな。

 いや、それでも完全に食い潰すまであと二年はかかるって言われてしまうとじゃあそもそもの資産が莫大すぎる。

 すごいな、千頭山(せんずやま)家。

 ちゃんと名士なんだな。

 別にあの鬼ババアたちが散財しているわけじゃないのかも、と思うと千頭山(せんずやま)家の資産マジで凄まじくない?

 家を立て直すって、言葉で言うよりも大変なんじゃないだろうか?

 いや、やるって言ったからにはやるけれど。


「熱は下がったみたいだね」

「秋月!」

「秋月様っ」


 障子が開いて秋月が入ってきた。

 見たこともないくらい幼い子どもの姿。

 もしかして、私のために力を使わせすぎた?


「秋月、小さくなってる」

「力を使ったからね。気にしなくていいよ。しばらくすれば戻るから」

「ごめんね……」

「真宵は悪くないよ。それよりも――菊子に禊を見られてバレてしまったね。自分もやればいいのに逆ギレして真宵をこんなに痛めつけるなんて。別邸に移った方がいいかもしれないなぁ」

「別邸?」


 首を傾げる。

 秋月の話では、海の近くに千頭山(せんずやま)家の別邸があるらしい。

 いや、全国に別邸はあるし、普段は賃貸に出してそれで安定的な収入を得ているんだそう。

 な、なるほど〜〜〜。


「禊ができる別邸は全国に六つ。しかしせっかく友人もできたと言っていたから、学校は変えない方がいいだろう? 海沿いの別邸なら学校への距離は少しだけ離れてしまうが、今まで通り通うことができる」

「あ、それ、いい! 嬉しい!」



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