春月さんとお茶会(1)
翌日、粦が買ってきてくれたお土産を持たされ、おニューの服を着て待機していると時間通りに迎えの車が来た。
いやあ、だいぶなんていうか、あれだな。
「デッ……」
なんへーほーメートルなの、これ。
門がなんかもう車二台余裕で通れるでかさなんだけれども?
さ、さすが阿部家本家。
っていうか、本家でこれって、宗家はどんだけでかいの?
それとも実質的な家の運営を担う本家の方がもしかして豪邸?
よくわからないけれど、場違い感がものすごい。
善岩寺家もすごかったけれど、上には上がいるんだなぁ。
「こちらへどうぞ」
「い、行きましょう、お嬢様」
「う、うん」
さすがの粦もガッチガッチ。
使用人がみんな同じ着物を着てずらりと並び、玄関まで案内してくれるのだからさすがに緊張する。
善岩寺家の使用人も結構な数いたけれど、安部家の使用人の数はその倍くらいいそう。
うええええ、ヤバすぎるってぇ。
「お待たせいたしました。真宵お嬢様が到着いたしました」
「ようこそ! 真宵ちゃん!」
案内されたのは室内のサンルーム。
ガラスで覆われたウッドデッキに、赤い布のかかったベンチが二つ。
ベンチの横に小さなテーブルがあり、そこにお茶やお菓子が並んでいる。
想像していたアフタヌーンティーというよりは、かなり和風。
対面のベンチに促され、おずおずと近づく。
想像以上になんの作法もわからないタイプのお茶会だぁぁああぁっだっ!
「お、お邪魔いたします。あの、こちら……お口に合うかわかりませんが……」
「まあ! そんなに気を使わなくてもよかったのに! ……噂に違わず本当にしっかりとしているのね」
なんかめちゃくちゃ感心された。
私、いったいどんな噂になってるの……!?
「どうぞ、席に」
「は、は。お邪魔いたします」
お茶会の作法なんて教わったことないから、もー、なんかやらかしてるんじゃないかと不安でいっぱい。
カチコチになりつつ席に座ると、粦が私の後ろに立つ。
粦は私の付き人としてついてきているから、その立ち位置らしい。
本当なら、春月さんの異母妹なのに。
「粦。粦にも席を用意しているから、そちらの席に座ってちょうだい」
「いいえ。わたしは真宵お嬢様の使用人なので。わたしがいないと、真宵お嬢様は付き人もいないことになりますから」
「――そう」
粦の言葉が、どことなく重い。
もしかしなくても、付き人がいないって結構、アレなのかな?
春月さんめちゃくちゃ神妙な面持ちなんだけれど?
やっぱり、家の人間として認められていなくても千頭山の苗字の人間が使用人の一人も連れていないのってやばいのかな?
「そうね。今はまだいいけれど……もう少し小学校高学年になればお茶会に呼ばれることも増えるでしょうしね。とはいえ、あの鬼ババアはどうせ女の子を家に戻すつもりはないはずよ。戻されたところで私のように使用人にされる。後妻が子どもを産むのなら、きっとその子付きの使用人にでもされるでしょう。そうして差別して、迫害するわ。そういうやつだもの」
ああ、やりそう。
っていうか春月さんもあの鬼ババアのこと鬼ババア呼びなのか。
まあ、鬼ババアだもんな。
あるいはクソババア。
「だから今日呼んだのはね、もしもこの先自立していくというのなら私の名前をバンバン使っていいからねってこと。私が真宵ちゃんの後ろ盾になるからねっ! いわゆる保護者! なんでも相談して!」
「えっ……で、でも」
「いいのよ! むしろ、なにかさせてほしいの。真昼さんには、本当に申し訳がない。私、なにも知らなくて……」
「ま、ひる……」
誰?
聞きそうになったけれど、頭を下げて「あなたのお母様」と言われた瞬間心臓が冷えた。
私の……お母さん。
真昼さんって、いう名前だったんだ。
「そうなんですね。私、自分のお母さんの名前も知らなくて」
「そうなの? そう……なの。仕方ないわ。まだ幼かったものね。有名な巫女の――霊媒師の家のお嬢さんだったのよ。善岩寺家の親戚のお家のね。優しくて美人で、神を下ろす才能のある珍しい体質の方だったのよ」
「そうなんですか」
母の話を聞いても、なんだかイマイチ……。
記憶がないから、他人の話にしか聞こえない。
ただ春月さんの話を聞く限り、とても優秀な女性だったっぽい。
「真宵ちゃんが望むのなら、真昼さんの実家とも連絡を取るわ。真昼さんの実家はあのバカ……礼次郎との結婚にはあまり前向きではなかったというか」
「まあ、娘さんが大事ならそうだと思いますけれど」
「でも真宵ちゃんのことはきっと気にしていると思うの! 真宵ちゃんが望むなら連絡を取るわよ! どうかしら? あんな家見捨てて、真昼さんのご実家に養子に入るのは! もちろん、私が後ろ盾になって今の生活を維持するのもいいと思う! 全力で支援する!」
ぐぐぐ、と前のめりになってくる春月さん。
多分、鬼ババアにいじめ抜かれた自分と私を重ねているんだろうな。
同じ目に遭わせないように。
そう思ってくれているのがひしひしと伝わってくる。
なんて優しい人なんだろう。
すこし、考えてみた。
その結果……。
「そうですね。母のご実家とは、その……挨拶だけはしておきたいとは思います。でも私、夢があるんです」
「夢?」
母の実家との繋がりは作っておきたい。
破滅エンド回避の道筋は一つでも多い方がいい。
しかし、私には夢がある。
Vtuberになるという、夢が!




