博愛王子の攻略対象の片鱗
昨日と同じように、祠や神社を巡り、旅館に聞いた人気の飲食店に予約を取ってもらい、食事をした。
めっちゃ美味しい洋食料理店だった〜!
まあ、さすがに大栄神社のようなパワーアップはできなかったけれど、色々な話が神社に祀られる神様から聞くことができたのは十分な経験になったのではないだろうか。
やっぱりこういうのって地道に経験を積んでいくのが必要なんだよね。
「神社ばかりではつまらないだろうから、水族館にも行ってみますか?」
「行きたーい! 水族館ってなに?」
「ぼくも行きたい!」
「真宵ちゃんもいいかしら?」
「えっと、はい。そうですね」
個人的にはもっと色々な祠や小さな神社を巡ってみたい気持ちもあるんだけれど……。
『ねぇ』
「……?」
『見えてるんでしょ? ねえ』
「…………」
耳の真横から、女の声でそんな声が聞こえた。
ヤベーのが寄ってきてる気がするんだよね。
残念、私は声こそ聴こえるが、姿は見えない。
『ねえ、見えてるんでしょ? ねえ。無視するな。おい』
「真宵ちゃん?」
「あ、はい。今行きます」
こういうのは目を合わせたり、存在を認めたりするのはまずい。
無視して三重子さんの方に向かう。
粦も気づいてはいるだろうけれど、私と同じく無視している。
「それにしても、本当に話しかけてくる霊が多いね」
「わたしもそう思います。祠や神社が多い割に、霊を慰める場所が少ないせいでしょうか?」
「ああ、なるほど。確かに」
神社は神様を祀る場所。
霊を祀って慰める場所は例の新しく作られたという羅州神社ぐらい。
なお、羅州神社の『羅州』とは安部家で五十年以上結界の外で働いた陰陽師の方のお名前なんだそう。
高齢になってから稼いだお金で結界の内外で戦った霊能力者や、結界の中で霊を慰める神社が少ないということで新規の神社を建て、死後自分が入る“お墓”として用意していたらしい。
おかげで羅州神社は安部羅州さんが亡くなってから運用が開始された。
今現在進行形で私の真横で『ねえ、ねえ。無視するな。わかってんだよ。視えているんだろう? 聞こえてんでしょ?』と絡んでくる女の霊も、いずれ神社の存在を知ればそっちに行くだろう。
いや、まあ、話を聞いてもいいんだろうけれど、私霊媒師じゃないからなんとかしてあげられる自信がないよ。
だって、未成年の私や粦に、こんなに高圧的に話しかけてくる霊なんて絶対まともじゃないもの。
秋月にも言われている。
『生きている人間だうが、生きていない人間だろうが、子どもに助けを求めてくる者はまともな考えを持っているわけがない』って。
生きている人間だろが、生きていない人間だろうが、本来守るべき子どもに自分を助けさせようとするのはおかしいってこと。
特に、『上から目線で命令するような言葉使いのやつは、腹の中を隠す気がない悪意を持っている』って。
私もそう思う。
だからこの真横につきまとってくる霊は絶対に関わらない。
なにを言われようが、無視する。
だって絶対まともじゃないもん。
変な霊には関わらないに限る。
「ねえーねえー、マヨイちゃーん」
「なあに? 十夜」
「となりにいるおねえさんも、一緒に水族館にくるの?」
ヒュ、と喉の奥が鳴る。
私の隣にいた霊が、静かに私の横から十夜の方へ移動していく。
まずい!
なにをするつもりなのかわからないけれど、まともじゃないんだからよくないことをされるに決まっている!
「粦」
「は、はい」
粦が私の手に錫杖を手渡してくる。
姿は見えないが、絶対に十夜に近づいている。
「――――――」
お経を読み上げながら、しゃがんで錫杖の底を地面にたたきつける。
祓うものではなく、気の流れを陽に変えるもの。
私は視えないが、十夜がきょとんとしながら視線を遠くに向けるので多分去ったんじゃないだろうか?
気配が遠ざかっていく。
ひとまず安心、かな?
悪意がなければ気の流れを陽にしたことに嫌がって、逃げ去ったりしないもんね。
やっぱりなにかするつもりだったんだろう。
「十夜、知らない人についていったらダメっておじ様やおば様に教わらなかったの? 霊も同じよ。今の霊はずっと悪意ある態度で話しかけて来ていたんだから、無視が一番だったのに」
「ええ? わかんないよ……」
「……おば様にそのあたり、ちゃんと十夜に教えてくださいと伝えておくわ。覚えていかないとあなた自身の身に危険が及ぶことだってあるのよ?」
「う、うん。よくわからないけれど、わかった」
絶対わかってない。
マジでしっかりといい霊、悪い霊の区別がつくように教えてもらった方がいい。
ゲームの中の十夜は『限りなく誰にでも優しい』キャラだ。
それ自体は乙女ゲームの王道の『博愛主義の王子様』そのもの。
そんな博愛主義の王子様が、ヒロインにだけ特別優しく、ヒロインだけを優先して、ヒロインに夢中になる。
それがプレイヤーの承認欲求や乙女心、虚栄心を満足させてくれるのだ。
だからまあ、わからんでもない。
今の十夜にその断片が見られるのも、まあ。
でもそれとこれとは話が別。
誰にでも警戒心を抱かず、誰にでも優しいのはおとなになって、それなりの力を持っていれば危険は少ない。
今の子どもの十夜がそれをするには、危険すぎる!
そのまま育ってほしいけれど、人を助けられるほどの力がない今の十夜は誰かに守られなきゃ。




