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ご都合主義とか言わないの

服を買わねばならない。最低でも三着は欲しい。いくら人形の身体とはいえ、気になるものは気になるのだ。クリーンで清潔感は保てるとはいえ、日本で生きてきた私に染みついた感覚が手放せない。ということで、寝ているハタを叩き起こして朝の準備をさせた。もう昼前だ、今日は武器調達までするのでのんびりしていたら日が暮れてしまう。

「服は多分、スキルのおかげで着たままこの姿になれば一緒に縮むと思うから、元の姿のサイズの服を一緒に見に行くからね」

「俺服とかなんでもいいんだけど。同じようなの選んできてよ〜、俺武器の方見てるからさ〜」

「離れられないんだよ、()()のせいで」

手首の祝福のせいで気軽に別行動は難しい。それも、昨日見た感じでは武器屋と服屋は結構離れているため尚更だ。元の姿になっているのにデバフで人形状態に戻ったら大変だし。女のショピングは長いというのはお約束だが、手早く済ませる気ではいるので許して欲しい。あとマジックバックの荷物持ちいないのは困るし。

多少文句は言ったものの、ハタも理解はしてるようで渋々ついてきた。宿から大きくなっていくと面倒なことになるので、人気の少ない裏路地でタイミングを見ることにする。

宿を出る途中、ルピルちゃんに遭遇して髪にリボンをつけてもらった。お友達の服装があんまり可愛くないのが昨日から気になっていたのだとフンフン語っていた。雰囲気に合うようにと白い色をわざわざ選んでくれたらしい。その後も服を買いに行く話をしたら、服屋のおばさんは私のお友達の服もよく作ってくれるの!おにーさんも作ってもらったら?とまで言っていた。もしかして、作ってくれたっていう服は、部屋の扉からちらっと見えるお人形が着てる、フワッフワのドレスの話だったりする?


そんな話をして服屋に向かったからか、ハタの様子がおかしい。首を傾げてそういうもんなんだよな、多分…などと首を傾げている。何をそんな悩んでんだ、服は全部私が選んでるのに。

そんなことを思っていれば、何やら真剣な顔でバカなことを尋ねてきた。

「なぁ、人形のふりをするのにあんな地味な服だと変じゃね?なんかさ、もっとこうふわふわでヒラヒラしたやつの方が違和感ない気がするんだけど」

ほら、これとか!!と案外乗り気で店主が趣味で置いているらしい人形コーナーを指さしているが、絶妙にまともなことを言っているのは無視して店を出る。


「冗談だって〜!置いてくなよ、俺が迷子になるだろ!」

「迷子て、表の通りを行くと遠回りだけど、そこの路地裏抜けたらすぐだって教えてもらったじゃん」


下手に回り道するより、教えて貰った道を行く方が早い。既に何の武器にしようかな〜とルンルンしているハタと共に路地裏の半ば辺り差し掛かると、道の先に武器屋のようなものが見えた。

「おっ!あれだろ!!大剣とかあるかな!!?」

「あっちょっと待っ……」

ハタが武器屋に駆け出そうと踏み込んだ瞬間、ハタの足元に魔法陣の様なものが浮かび上がった。咄嗟に腕を掴むが、足元の魔法陣には私まで入りきれそうもない。咄嗟に人形サイズに戻り腕にしがみつく。


その次の瞬間、私たちは四方を石壁に囲まれた洞窟のような場所にいた。


「…は?俺ら、街の路地裏にいたはずじゃ…?」

「嘘じゃん、なにこれ」

ちょっと待って欲しい。展開が早くない?私たちまだ異世界に来て2日目なんだが。それも何?ここどこ?魔法陣で知らない場所に飛ばされるにしては展開が早すぎるだろ。それも、まだ午前中なのに人形に戻ってしまった。詰み。

「え、というかショーコ、その姿に戻っちゃったの?」

「仕方なかったんだよ。足元の魔法陣がどう考えても一人用のサイズ感でさ、危うく引き離されて行動不能になるところだった」

「そんなものがなんであんなところに…?」

そんなこと知らんが。特定の誰かを狙ったような罠、としか思えないけど、もしかしたらこの世界はそこらじゅうにあのようなトラップが自然発生しているのかもしれないし……異世界の常識なんてまだ分からないからなんとも言えない。とりあえずは、ここがどこなのかを把握しなければ。


「なぁ、何かこっちに来てる」


突然、ハタが真面目な顔で道の先を見て呟いた。そっか、こいつ身体能力が軒並み上がってるから五感も鋭くなってるのか。私もそちらに意識を向けてみると、魔眼の効果か、そこし離れているようだが鑑定結果が表示された。

「鑑定できた。なんかね、オークって書いてる」

「…え、やばくない?俺たち武器とかも何もないし、戦ったことないのに、え?無理無理」

「もっと詳しく説明するとね、2匹来てる。そしてね、一緒にここの場所も鑑定できたんだけどね、ここ、”名もなき迷宮”なんだって。つまり、生まれたてほやほや新鮮なダンジョンってやつだな」

「生まれたてなら赤ちゃんであれ……それなら最初はスライムだろーが」

「ちなみに、分類されるとしたら中級後半くらいのレベルのダンジョンだって。やばいね」

「よし、逃げるか」

まだ距離はある。私たちの現在いる場所はここから三つに道が分かれている。出口はどっちか分からないけど、とりあえず逃げるのみ。オークがいる道とは別の道を見る。隣のハタも気がついたようだ。どちらの道もまだ距離はあるものの、魔物の気配がする。私の鑑定の範囲内だったのでよく見てみれば、片方はゴーレム、片方は巨大ムカデ。

二人で顔を見合わせ、無言で話し合いをする。

”俺はゴーレムかな”

”私はオークかな。こっちに来てるし”

”ゴーレムなら逃げきれそうじゃん。足とか遅いだろきっと”

”でもあそこ行き止まりだから走り抜けられないみたいだよ”

「それを先に言えよ。一択じゃん」

「ごめんて」

この際、スキルの使い方とか魔法の使い方とか考えている場合ではない。やらねば死ぬ。やらねばならぬ。私たちは覚悟を決めた。主にダメな時は諦めて逃げようね、という低い目標を掲げて。

魔法はイマジネーション。想像力。信じる心が大切なんだ。できると信じればなんとかなる。多分!

「一人一体ね。私は右」

「俺が左ね」


オークに見つかった!


カッコつけて私は右、とか言ったけど、どうしよっかな。てか、そもそも今のサイズから見てこの馬鹿でかいオークが1人でなんとかなるとでも?クソみたいな役割分担しちゃった。

とりあえずこちらに攻撃しようとするオークを見ながら、自分のステータスを思い出してみる。戦闘用の魔法はまだ覚えていない。昨日見たガイドブック、便利な非戦闘用魔法とかしかなかったなぁ。使えそうなものなんて魔力操作くらい……うん、とりあえず魔力でやるか。

今にも自身に振り下ろされている武器を、壁のようにした魔力で受け止める。イメージはバリアだ。いけた!と思ったが、そんな簡単な訳もなく、衝撃が抑えきれず普通に後ろに吹っ飛ばされた。後ろの壁に思い切り突っ込んだが、多少汚れたくらいで怪我は無い。


ダメージ無効あってよかった〜!死んだかと思った〜!!ていうかもう1回死んだろこれ〜!!!


さらに追撃しようとこちらに向かってくるオーク。繊細な操作なんてぶっつけ本番では出来ない。さっきもバリアも、衝撃までは考慮出来てなくて吹っ飛んだ訳だし。チラリと、ハタの方を確認してみる。ハタの方も、戦闘自体初めてだし、暴力とは無縁の世界を生きてきた男。避けることに精一杯で情けない悲鳴が漏れている。なんだあれ身体能力向上の無駄使いすぎるな。


自分より焦っている人をみると落ち着くというのは本当の様で、何となく冷静になってきた。魔眼によりサーチした結果、このオーク達を抜けて直進した先に、隠し部屋があるらしい。今のところ敵もいないので、これはもう戦闘は諦めてそこに逃げ込むしかない。


迫ってくるオークの追撃を躱すついでに、私は非戦闘用魔法のワープを使って、ハタの肩に飛んだ。

「ハタっ!!」

「…!!り!」

まだ何も言っていないが伝わったらしい。なんで?


ハタは肩の私を腕に抱え直し、オークの横を走り抜けた。逃げるだけなら簡単らしい。向上した身体能力をフルで生かし、一気に距離を引き離した。

「その先!合図を出したら右側の壁に突っ込んで!…………今!!!」

「………っ!!!!!」

私の合図とともに右側の壁に突っ込めば、そこに壁はなく、私達の身体はがらんとした部屋に勢いのまま投げ出された。オークが追ってきていたため、部屋の隅に寄って、身を潜める。しかし、オークはこの場所には気が付かずに部屋の前を通過し、この部屋の周辺からも離れたようだった。

そしてやっと、私とハタは大きく息を吐いたのだった。



「……はぁ〜、もうさ、ご都合主義でいけるかと思ったよな。勢いで。普通に攻撃する余裕なかったけど」

「それね。正直さ、あのガイドブックの便利魔法も結構ノリで使えたし、いける!って思ったんだよね。いけなかったわ」

死んだかと思ったね、ねー、と2人で慰め合う。正直な話本当に無理だったし、今でこそ軽く話している感じだが、普通に泣いている。人は生命の危機が去るとこんなにも安心感で涙が止まらないものなんだな。


ここはセーフエリアのような場所みたいなので、2人で相談し、しばらくここにいることにした。ここである程度、戦闘手段を用意しなければ何ともならない。と、その前に確認したいことがあったんだった。

「そういえば、私あの時、ハタの所に来て名前を呼んだだけだったのになんで分かったの?」

「え?あの逃げる前?え、なんか言ってなかったっけ?」

「は?名前しか呼んでないけど。名前しか呼んでないのに、り!とか了解の意を返されて、もうそんな余裕ないから信じたんだけど……え?なんで??」

「えっ、そうだっけ?でも、オークを抜けた先の道を直進して右、みたいなイメージが伝わってきてたし」

「いめーじがつたわってきた……?」

何それ知らね〜〜!!私何かしてたの!?いやでもハタが何かをした場合も?いやそれは無い。こいつ身体強化とか自分に関わることしか出来ないし。ということは、やはり私か。全然自覚ないんだけど。

可能性としては、無意識に念話みたいなものを使っていたか、ハタが読み取ったか。とりあえず、適当な単語で試してみるか。

「(おにぎり)」

ハタを見ながら、意識してみる。が、首を傾げて不思議そうな顔をしているのみだった。これだとダメか。今度はハタに触れた状態で試してみる。

「(みたらし団子)」

「は?みたらし??なんだよ急に」

「(触れてれば伝わるのか……そっちからも何か話してみてよ)」

「えっ、これを俺からも!?何それどうやんの?とりあえず心の中で強く思えばいい?……(寿司

!!!)」

「うわびっくりした。うるさ。念話でもうるさいとかあるんだ。でも、触れてればお互いに話せるんだね」


触れていればお互いに念話で会話出来ることが分かったので、次は魔力を私からハタに付けた状態を試してみる。噛んだガムを服に付けるようなイメージで。

「(お客さん、麺の硬さは?)」

「!バリカタで!!!」

「よし、これでなんとなく分かったわ。この念話は私発信なら触れるか、魔力を付着させれば可能。ハタからは触れている時のみ発信できるって感じかな」

「ハンター登録の時にこれが使えていればな……」

「まあまあ、過去のことは落ち込んでいても仕方ない。まずはここからどうするかだよ」

「武器もないし、物資もそんな余裕があるわけじゃない。戦闘を避けてここを脱出するのも手だけど……そう簡単にいくわけねーし」

「ここがどこかも分かんないし、ここは迷宮の深層に片足突っ込んだような位置みたいだから、戻るとしても相当な距離だね。正直無理」

「一択じゃん」


こうして、私達は異世界2日目にして未知のダンジョン攻略をすることになったのだ。




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