祝福と書いて呪いと読む
顔の見えにくいフードを被り、左手に抱えられるように座っている一体の人形。可愛いらしい少女の人形のようだが、その見た目はシャツにベスト、スラックスにブーツといった、どこか少年のような雰囲気だった。そのアンバランスな見た目も目を惹くが、それよりも年頃の若い青年が30センチ程の人形を抱えている方で目立っている。それは、抱えている本人にも自覚はあった。自分だってそうだ、そんな人間いたら思わず見てしまうし、何故か持ってる人形の服も地味だし。あまり関わりたくない部類ではある。
だがしかし、仕方なかったのだ。この見た目の女を連れ歩く為には、異世界に来たばかりの自分達にはこれしか無かったのだ。
時は数刻前に遡る。
その抱えられる人形こと、佐藤粧子は、元クラスメイトの幡康二と共に森の中に転がっていた。気がついたらそこにいたので、何が何だか分からないが、近くに落ちていた手紙によると、別の神に外注で転生を依頼したら失敗しました、ごめんねって感じらしい。迷惑な話である。なぜ私とハタなのかというと、直前までいた成人式会場で遅刻し、会場の外で仲良く突っ立っていたところを、外注された神が違う幡さんと違う佐藤さんを私達と間違えた結果、こんなことになっているらしい。何度も言うが迷惑な話である。
お詫びといってはなんですがという感じで、様々なスキルやら何やらをつけてくれたらしいが、そこはまぁ一旦置いておくとして。まず初めの問題は、私がなんかすごく小さくなっているということだった。
ハタが言うには見た目はあまり変わっていないが、30センチ程度の大きさで、人間というより人形みたくなってる気がすると。確認してみると、確かに肌が作り物みたいに固くなっているし、関節が球体になっていて、完全に球体人形のそれである。
これも手紙に軽く説明があった。なんでも、外注内容が転生だったため、元の身体がもう残っていない。しかしそこで間違いが発覚したため、急いでこちらの世界に転生させるにあたり調整した身体を用意したらしいのだが、それぞれの深層心理に基づいて作ったら、ハタは見た目を整えた上で身体能力の向上。私は、背を小さくすることだったが、神的にどのくらい小さくすればいいのか分からなかったのと、人間のままこのサイズにするのは問題があったために人形化されたらしい。なんか勝手に死んでいた上に異世界に人外として転生させられているとは。人生何があるか分からないものである。人はあまりに一度に色々なことがあると、防衛本能からか考えることをやめるらしい。勉強になった。
ハタも初めはテンパっていたものだが、私があまりに可哀想なために自分はまだマシだなと落ち着いたらしい。こいつマジで後で覚えてろよ。
とりあえず、2人でステータスの確認をしてみたところ、私には神の祝福としてオートで適応と絶対防御というのが備わっていて、衝撃を吸収する上にダメージは全て無効化されるらしい。助かる。適応はその名の通り、都合いい感じに適応する、らしい。詳しいことはよく分からない。ただ、これのおかげで1日に数時間だけ人間の姿に戻れるみたいだ。ファンタジー。
その他、目が魔眼になっているらしく、鑑定やら看破やらサーチが出来る。これのおかげでステータスを詳しく確認出来ている。便利なコンタクトつけている気分。ウィンドウが浮かび上がって、なんだか視界が未来っぽい。
ハタのステータスはこれまた神の祝福により、身体能力やパワーが大幅に強化されていた。基準値より格段に高い。ただ、スキルが物理攻撃に特化しており、魔法関係がポンコツだった。出来ることは魔力を纏うことのみ。所謂、身体強化のみである。なんだこの脳筋ステは。本人は魔法が使えないことに落ち込んでいた。まぁ、ロマンだよな、魔法。かっこいいと思うよ、身体強化も…。
あとは一つ、厄介なものがあった。なんだか左手の手首に謎の印があるなとは思っていたが、それも神の祝福だった。私とハタは、互いの距離が半径1キロから離れると、離れるごとに行動に制限がかかるらしい。何でもかんでも祝福っていえば許されると思わないでほしい。これまた手紙によれば、同郷だし、二人一緒なら寂しくないかと思って!ということだ。不憫なことに、デバフに関してはハタの方が負担がでかいらしい。まぁ、言わないけど離れられたら困るのは私側だし、そうなるか。言わないけど。
手紙は、読み終わるとアイテムボックス付きの茶色のショルダーバックに変わった。中身には多少のお金と、神のお手製の異世界のガイドブックが入っており、とりあえずは街で冒険者登録をするのがお決まりの流れらしい。ガイドブックにはお金の使い方も載っていた。便利だな、これ。正直冒険者とか実際にやるのはちょっと…とか思っていたのだが、身分証明書代わりといわれたらやるしかない。この世界に身内もいないので、証明がそれでしか出来ないのである。選択肢がない。
ハタは既に若干乗り気である。ウキウキした様子が隠しきれてない。
「まぁ?身分証明書代わりなら仕方ないしな〜!別にやりたいとかは無いけどね?身分証明書は大事だしね〜」
ニヤけた顔で言われてもなんの説得力もないが。まぁ、私は今かわいらしいお人形さんであるので、証明が必要なのはハタだけなのだが、こいつは重要な事実に気がついていないらしい。
「とりあえず街に向かって冒険者登録をするのは決まりとして。私は人形だから、このままの状態で一緒に歩き回ると、大変よろしくない。けど、隠し切れる程の大きさでもない。となれば、私はハタに抱えられた状態で、人形のフリを徹底するから。よろしく」
「えっっそれ俺めっちゃ目立つじゃん」
「あ、抱えるの嫌?両手フリーになる方いいかな。じゃあ肩乗りにする?」
「そこ?ショーコだけなんかずるくない?俺だけ風評被害すごいよこれ」
返事は聞かないことにした。これ以外に方法があるなら聞いてあげても良かったけど。無さそうだし。
肩乗りはバランスが取れないからやめた。ちょっと憧れはあるのでいずれは成功させたいものだ。
そんなこんなで、今現在。私を抱えた状態で街を歩いているハタはそれはもう目立っている。多少の罪悪感は見ないふりすることにした。