忙しい日々
リリスは大学に入学する為の勉強を始めている。
それと同時に乳幼児についても学び始めた。
「アスラン?それは置かないでって約束したじゃない。」
「えー、めざといなぁ。俺はシンプルな部屋よりもごちゃごちゃした部屋のが落ち着くんだよ。」
「だから部屋を分けましょうって言ったじゃない。」
「嫌だ、一緒の部屋がいい。」
リリスはアスランの後ろ姿を見ながら思う。
恋愛の先に待っているのは結婚だがゴールではない。
恋愛期間よりもずっと長く共に過ごすのだ。
「俺は家具もアンティークが良かったのに譲歩したじゃないか。」
「この白い家具は王妃様がお決めになったのよ。私は何ひとつ意見は言っていないわ。」
「え?それは駄目だ。リリスも何か希望があるだろう?」
「私はこだわりがないもの。ピアノを使っても良いってお許しが出たから満足よ。アスラン、徐々に変えていけばいいじゃない。何もかも与えて貰って幸せよ。感謝しましょうよ。」
アスランは細かい事に腹を立てた自分が恥ずかしくなった。リリスは母になる覚悟が出来たのか少し大人になった気がする。
「そうだ、リリスの兄上が来週帰ってくるよ。シンが長い間匿ってくれていたんだ。」
「聞いたわ。兄様も狙われていたから王家が匿ってくださったのよね。シン様にお礼を言わなくちゃ。」
アスランとリリスの結婚を渋っていた母は息子を返してくれるならばと陛下に告げた。
陛下はシンに連れてくるよう命令をしたがシンはリリスを妻にもらえるならばと条件を出したのだ。
「危なかったよ、リリスが懐妊していて良かった。シンがいまだにリリスを狙っていたなんてさ。」
「だから避妊をしなかったの?」
「そうだよ。シンにあげる訳にはいかないからな。」
アスランは机に向かって座っているリリスを後ろから抱きしめた。
広げた本や参考書やノートはアスランには理解し難い図式や公式が並び眉を顰めてしまう。
「リリスは母親似なんだな。俺には全く理解が出来ないよ。」
「母方の家系なのよ。何かを作る為の機械を考えるのがね。お母様のパン工場の小麦か何かの図面を陛下が他所の国に売ってしまって大喧嘩したって聞いたわ。だからあの上下関係が生まれたのね。」
「楽して金を貰おうだなんて父上が悪いに決まっている。だからこの国は遅れているんだ。リリスの母君の一族から嫌われているからな。」
アスランはいずれ帝位を継ぐだろう。
リリスは彼に相応しい妻となる為に勉強を始めた。
見た目の地味さは変えられないが彼の役に立ちたいと思う。
ずっと秘匿にされてきたアスランは社交界に出るようになった。アスランが唯のアンティーク屋ではない事を知った貴族達は驚いた。
それよりも驚いていたのがリサとサラだ。
「聞いていたより何て言うか、服装も髪も個性的ね。でもオッドアイは素敵だわ。雰囲気にピッタリね。」
「リリスは心が広いわ。青い髪は私の両親がひっくり返る寸前だったもの。」
アスランは古臭い正装が好きではない。だから社交界に一切出なかったのも理由のひとつだろう。
「広いって言うか私の従姉妹にピンクの髪の子がいるの。だから髪が赤くても青くても気にならないわ。人を見た目で判断する人とは付き合わないから。今までもこれからもよ。でも流石に諸外国へ行く時はやめてって言うわ。チャラすぎるもの。」
「アスラン様はやりたい様になさいませ。その為に私達の婚約者がいるのですから。」
リリスは次期王妃らしい凛とした笑みを返した。
本編はこれで終わります。
番外編でジェレミーを書く予定です。
次回作はピンクの髪のリリスの従姉妹が主人公です。




