31.脳内お花畑
付き合いも深くなると互いの事が段々とわかってくる。
リサやサラの様に婚約者と幼少期からの付き合いならば趣味や好きな物や好みの食べ物は元より何をすれば喜ぶかまたは嫌がるかを熟知しているだろう。
リリスとアスランの場合は違う。
会話を交わすようになり何となく惹かれあっただけではなかろうか。
互いの事を知らなすぎなのだ。
「え?此処に住めば俺は仕事が楽なんだけれど。」
「でもこの屋敷は商売に使うから人の出入りが激しいじゃない。落ち着かないわ。」
「でもリリスは昼間は大学に行くって言っていたじゃないか。俺の仕事は昼間だけだし問題ないだろう?」
問題はない?
二階建ての屋敷の階下はアスランが世界中から集めた不思議な物だらけだ。
どう見ても呪物であろう禍々しい物も少なくない。
それを買いに来る人も普通の人とは言い難い。
見た目に偏見はないがこちらを値踏みする様な人が多いので嫌なのだ。
「あの拷問器具と同じ屋根の下に住みたくないの。本当に使われていた物なんでしょう?アスランがどうしても此処に住みたいなら私が通うわ。泊まりはしないけれど。」
「まてまてまて、それじゃ結婚とは言えなくないか?」
「そう?結婚指輪を買う為のお金でその置き物を買ったのはアスランでしょう?結婚指輪もないなら結婚とは言えなくない?」
「うっ、これはあの時あの場所でしか手に入らない物なんだよ。売れるのは決まっているから式までには指輪は買えるじゃないか。」
「その頭蓋骨の楽器のお金で指輪を買うの?」
「お金なんて同じだろう?」
リリスも引かないがアスランも引かない。
第三者が聞いてもどちらの言い分もおかしくはないと思う。気持ちの問題なのだ。
「どっちみちお母様が結婚に反対のままよ。私がひとりで住むはずだった部屋も他の人に譲ってしまったわ。」
「リリス、喧嘩したい訳じゃないんだ。」
「大丈夫よ。喧嘩とは思っていないわ。思っている事をぶつけ合いましょうよ。」
アスランはリリスを力一杯抱きしめた。
「リリスとこうやって抱き合いたいんだよ。二人きりになれるのは此処しかないだろう?」
リリスも気持ちは同じだ。会えば必ず抱き合っている。
思春期の性欲は止まれない。
「アスランはずっとこの仕事をするの?向いていると思うけれど陛下や王妃様は何て仰っているの?私の大学の費用はお母様が出してくれるから私達が結婚したら生活費はどうしたらいいのか考えなくちゃいけないわ。」
「これは趣味みたいなものだからなぁ。ずっとこれを仕事にする訳にはいかないな。ミハイルが王太子になったら補佐をしようかな。」
「それなら暮らしていけるわね。あとは住む所をどうにかしなくちゃね。・・・お母様も説得するわ。」
二人は話し合いながら計画を立てる。
幸せになろうね、と言いながら。
今が一番楽しい時期なのかも知れない。
だがその裏では。
「プランBね。もしかしたら懐妊が先かも知れないわ。包囲網を縮めて王宮で暮らしてもらいましょう。信頼のおける私達の家系から侍女を選ぶわ。お二人が同じ部屋で過ごせば警護も楽になりますしね。」
ちょっとだけ脳内お花畑になっているアスランは王太子になる事がほぼ決まっている。
必然的にリリスも王太子妃になる。
「第一王子の責任を果たして貰わねばなりませんしね。少々チャラいのは目を瞑りましょう。私達のバックアップがあれば何とかなるでしょうし。容姿も整っていますし地頭も良し、何より社交的です。他国の王とも渡り合っていけるでしょう。」
「リリスも聡明ですからね。自らの手で働いてお金を稼いだ王妃なんて他にはいないでしょうよ。」
アスランの部屋がリフォームと改築をされてリリスと過ごすにあたり充分な広さになった頃にリリスの懐妊が発表された。