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22.シンの仕事

ははうえー、どうして僕はちちうえに会えないの?

ははうえだってお妃さまなのに夜会に行かないの?


そんな幼い疑問はひとつ歳を重ねる毎に消えていった。


シン、母は数日戻りません。いつも通りに過ごしなさい。

はい、母上。・・・お気をつけて。


母が密偵の役割なのだと知ったのは7歳の時だった。

祖父母から直接聞いた時は少しばかり動揺したのだが凛とした母が誇らしく感じた。

母方の一族は王族を裏から支える役割を持つ。その中から妃として選ばれたのは初めての事らしい。

真っ直ぐな黒い髪に黒い瞳、いつも挑戦的な眼差しの母に陛下は強く惹かれたそうだ。


その母に似た自分が誇らしい。

正妃は別として他の妃とは違い母だけは父上から信頼されていると思う。

母から受け継いだその仕事のおかげで数多いる陛下の子供の中で唯一自分だけが陛下に会う事が許されている。


「シン様、準備は出来ております。各自配置に着きました。」


シンは最も信頼する自分の部隊と共にアマベルの部屋へ突入した。素早く彼女を取り押さえると自害される前に薬を飲ませる。ぐったりとした彼女を捕縛した頃にはアマベルの側近の男達も同じように捕縛が終わっていた。


「担架に縛りつけろ。病人として運ぶ。ジ・ゼラル・ローシャン国王には俺が会う。第一王子とはもう話がついている。」


捕らえられた男達は目も口も塞がれ担架に縛り付けられ馬車に乗せられた。この先進国には自動車があるが所有者はまだまだ限られているのだ。


こちらの国に潜伏していたアマベルはロズウェル博士の弟子だった女だ。博士が作り出してしまった薬を売り捌いていた。

洗いざらい吐かせた後に処刑されるのは決まっている。

直接手を下すのはシンだ。

それには私怨も含まれている。

大切な弟はアマベルを追っている最中に死んだ。

幼い頃からの親友は薬物に溺れて廃人となりこの世を去った。

他にも多くの人々が苦しんで死んだのだ。薬物に染まるのは自己責任だとは思うが騙されて薬漬けにされた人もいる。薬欲しさに犯罪に手を染めたら後はもう落ちて行くだけだ。




「漸く捕らえたか、ご苦労だったな、シン王子。第一王子まで囮に使うとは其方の父上もだいぶご立腹ではないか?」

「第一王子は自ら志願してくださいました。」

「ふっ、相も変わらず第一王子は寡黙だな。城でゆっくり休まれよと言いたいがどうせすぐに帰国するのだろう?」

「よくお分かりで。ご協力に感謝します。」

「ミハイル王子と共に参られたお嬢さんは娘が気に入っておるのでな。またそちらに行く事もあろうが宜しく頼むよ。」


今回の捕縛がすんなりといったのはこの国の国王陛下をはじめ臣下の協力が大きい。薬物はじわりじわりと各国に広まり若者に深刻な被害を与えていた。

その為おしみなく協力して貰えたのだ。

その後、第一王子とシンは捕縛された者達と共に帰国した。


行方不明になっていたロズウェル博士はとうの昔に殺されたと思われていたが実際は銃で頭を撃ち抜いて自害をしていた。

研究の全てを焼き尽くし全ては自分の責任だと家族を遠ざけ全てを終わらせた。

アマベルは残った薬をかき集め金持ちの貴族の息子を薬漬けにし口にはし難い程の悪事を重ねていた。


「なぁなぁ、どうやって殺そうか?お前ならどうする?」

「そうだなー、恨みは大きいけど手を汚したくなくなっちゃった。」

「なんでだよ、なら俺がやっちゃうぜ。母上秘伝の秘術でちっこい針を順番に埋めてやろうかな。少しずつ硫酸を垂らす?母上の書にはもっとすげぇやつあったなー。」


二人の王子は仲が良い。

表舞台に立つ事のないシンを気遣い第一王子自身も幼い頃から人前には出なかった。

父王はそれを許しその為今も顔や名前すら知られていない。


「どーしよっかな、リリスに博士の事は言わないでおこうかな。もう家族もバラバラだしね。思い出さない方が幸せだよな。」

「父上には俺から報告をしておくよ。」

「あー、俺も行くよ。リリスと婚約をしたいんだよね。許されると思う?あの子今は平民じゃん、陛下がロズウェル家を復活させてくれたら話は早いんだけど。」

「リリス嬢はそれを望んでいるのか?」

「知らないよ。でも俺たちの結婚ってそういうもんだろう?なら賢い血筋の嫁が欲しいって思うのは当たり前だ。」

「リリス嬢の取り合いだな。どうみてもミハイルも狙っているだろう。」


リリスの行末はこうして王族会議で話し合われる事になった。

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