21.新居を探す
サリーとリリスは新居を探しに街へ来ている。
ほんの一年前まで暮らしていたのに遠い昔に感じ懐かしい気さえするのだから不思議なものだ。
「ねぇ、リンジー。こんな街中なんて高くて借りれないってば。もっと街外れの方がいいんだけど。」
「でもサリー、街外れだと仕事がそんなにないわよ。街中に住んでさくさく働いた方がいいと思うの。お買い物も便利だし病院も学校も近いのよ。あ、ここだ。」
高級なお店が多く並ぶメインストリートに建つ小さな店に入って行く。化粧品や香水の並ぶ店内は一目で貴族とわかる若い女の子達がはしゃいでいる。
制服なのは学校の帰りなのだろう。
「こんにちは。マクドゥウェル伯爵令嬢の紹介で参りました。」
「あぁ、聞いているよ。どちらの美人さんが借りたいんだい?」
「こちらの女性です。今は王宮に勤めていますが近々ご結婚されるのでご夫婦で住む家を探しているのです。私はクリスティンの友人でリリスと申します。」
「あぁ、お嬢様から聞いているよ。私達家族は来月には引っ越しをする予定なんだがそれでいいかい?子供達が三人もいてね、大きくなってきたから狭くなったのさ。部屋を見てくかい?」
「あの、お家賃を伺いたいのですが。」
サリーが不安げに訪ねた。
この化粧品店はクリスティンが経営者だが雇われ店主とその家族が二階に住みながら働いている。
「あ、お家賃とかはクリスティンに会った時に直接話すそうよ。いまお部屋を見せて頂く事は可能かしら?」
「あぁ、引っ越し準備で散らかっているがどうぞ。その扉が事務所で右側が二階に上がる扉になっているよ。」
リリスとサリーは遠慮なく二階に上がる扉を開けると目の前に階段があり少し薄暗い。
狭い階段だが手すりがついているのは子供達用だろうか。
「寝室が二つとキッチンと居間ね。バスルームはここかな。・・・ちょっと修繕してもらわなきゃね。でも窓が大きくて明るいわ。」
「二部屋もあるなんて。素敵だけれど高いんじゃないの?」
「あぁ、さっきは店主がいたから話せなかったけど家賃は要らないって。その代わりに店の周りのお掃除とお花のお手入れをして欲しいって言ってたわ。どう?」
サリーはリリスに抱きついてキスをした。
「ラッキーだわ!私の日頃の頑張りを神様が見ていてくれたのね!嬉しい!ありがとうリリス!お友達のお嬢様にお礼を言いたいんだけど。」
「たまに来るらしいからそのうち会えるわよ。この反対側にあるドレスショップもクリスのお店だから。」
二人は店主に礼を言うと店を出た。
二人で街へ出るのは初めてなので少しばかり浮き足立ってはしゃいでいる。
「店主はあのお店に不釣り合いだわね。普段は奥さんが見ているのかな。」
「二人ともお店にいるらしいわよ。でも二階の子供達がドタバタするからお客様から苦情がきたの。だから引っ越してもらうんだって。サリー達は昼間は働いているから大丈夫そうね。」
「ふぅん。私もあんなお店で働きたいわ。」
リリスは思った。
明るいサリーの方が店内がより華やぐのではと。
「その服よく似合ってるわね。サリーは組み合わせが上手だわ。」
「えへへ、そう?嬉しいな。リンジーの組み合わせも可愛いわよ。」
その時前方から歩いてきた背の高い男の人とぶつかってしまった。
リリスもサリーも決して悪くないのだが男性が真ん中を歩いていたのが原因だと思う。
「あっ、失礼。」
「・・・平民か。この通りに用はないだろう?さっさと行けよ。」
男性はあからさまに嫌な顔をして去って行った。
サリーはふと考える。
(あれ?今の人ってリンジーの元婚約者じゃない?二人とも気付いていない?)
「いいなぁ。私もまた街に住みたい。クリスに頼んでみようかな。王子様のお世話なんてほとんやる事がないし。もっと違う仕事をしたいわ。」
どうやらリンジーも全く気付いていないようだ。元々オーウェンに興味がないのだから仕方がない。
オーウェンは夢に出てくるリリスに夢中だった。淡いミルクティー色の長い髪にピンクのドレスを着て優しく微笑んでくれる。
昼間は清楚で可憐なドレスだが夜になると赤い妖艶なドレスに変わる。
オーウェンは毎夜夢の中のリリスとデートをしキスやハグをしていた。
実際のリリスは髪を切ってしまったので肩に届かないくらいしか長さはない。
だからぶつかったのがリリスだと思わなかったのだ。
サリーは言わない事にした。
優しい友人が嫌な気持ちにならずにすむならそれで良い。
「リンジーも仕事を探そうよ。一緒にお花屋さんとかどう?」
「働かせて貰えるなら何でもいいわ。お昼を食べたら仕事を探してみましょうよ!」
二人が美味しいランチを食べている頃リリスについて密かに会議が行われていた。