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13.侍女頭の画策

リリスは毎朝サリーと同じく洗濯係の仕事をしている。

繊細な下着は手洗いでしかも湯を使うので手荒れが酷い。

ハンドクリームを塗っても追いつかないのだ。

午後からはシン王子の執務室での仕事になるのだが紙を扱う仕事もまた手から水分を奪う。


「リンジー、ちゃんとクリームを塗っているでしょうね?」

手荒れの心配をするアリシアはミハイル王子の専属の侍女だが同時に侍女頭も兼ねている。

何故かこの侍女頭はリリスを頻繁に呼び高価なハンドクリームをくれるのだ。


「はい。おかげさまで指先が切れる事も無くなりました。ありがとうございます。」

「切れてはいないけれどカサカサね。小さいけど細くて長い指はピアノを弾く令嬢にぴったりなのに。こんなに荒れちゃって。」

「令嬢時代も家事をしていましたので荒れていましたよ。お気になさらず。」


侍女頭は心底悲しそうな顔をする。

ピアノどころか洗濯も料理もしていたのだ。

幸いにも街中で暮らしていたので買い物するのに不自由は無かった。


侍女はリリスに洗濯係を辞めさせたいがそうするとリリスは一日中シン王子と過ごす事になる。それは避けたい。


「リンジー、私の元で坊ちゃんのお世話係をしてくれないかしら?私も他に仕事があるから手が回らない時があるのよ。坊ちゃんもそうしてくれると有り難いと言っていたから。どうかしら?」


アリシアは下調べをしていた。リリスは同室のサリーと仲が良く今の職場を気に入っている。

だが出来る侍女頭はサリーの事も調べていた。


「貴方と仲の良いサリーだけど彼女は調理室に行ってもらいたいの。夜会での仕事ぶりが良かったからスカウトよ。」


調理室!

サリーの意中のお相手が働いているところだ。

夜会の時に知り合い話すようになったと言っていた。

彼の焼いたクッキーをリリスもたまにお裾分けしてもらっている。


「そうですか、サリーは喜ぶと思います。部屋は変わらなくてもいいですか?」

「いいわよ、そのままで。サリーの移動が決まったら貴方も配置換えしてもいいかしら?」

「私に出来るでしょうか。」

「出来るわよ。貴方立ち居振る舞いが綺麗だから一から指導する手間が省けて助かるわ。」


こうして半ば強引ではあるがアリシアの計画通りにリリスを我が王子の世話係にする事に成功したのである。


(坊ちゃんはのんびりしてるから。私がお尻を叩かないと動かないんだもの。さて、早めに移動させなくちゃね。)



うきうきしているのは侍女頭だけではない。


「やったー!!真面目に働いていたから良い事あったー!明日から毎日会えるわ!絶対に落として見せる!」


ふんすふんすと鼻息荒く興奮しているのはサリーだ。

意中の人と同じ職場で働ける事になりスカートの裾をつまみながら回っている。


「良かったね、サリー。」

「すっっごく嬉しいんだけどさ、化粧は薄くしなくちゃいけないし髪は引っ詰めなきゃダメなんだって。」

「いいじゃない。サリーは元々美人だしおでこだって今も出してるから変わらないわ。」


サリーは夜会の後から料理の本を読むようになった。彼との会話の為だと言っていた。難しい字はリリスが教えてあげたり書き込んであげたりしている。

誰かを好きになれるサリーが心底羨ましかった。


(シン王子の仕事は危険だわ。どう考えても文官と顔を合わせるのを避けられないし、あの執務室の横は資料室だから官職の出入りも多いはず。)


うっかりリリスを知る人に会ってしまってもごめんねーと軽く言うだけだろう。

リリスが心底嫌がっている事を理解していない。

それどころか二人で密室にいるとわざと誤解を招くように仕向けているとも言える。

なんとなくだが元婚約者に近い何かを感じる時があるのだ。


(アリシア様なら守ってくれそう。サリーに似ているもの。)


ぎゅっと抱きしめてくれる侍女頭に安心感を抱くようになったのだった。

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