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28・告白


 その夜、僕はお祖父様にヴィーのことを話した。


そうしたら何故かどんどん話が進んで、あっという間に僕とヴィーの婚約が決まる。


あれっ、なんで?。


「イーブリス様が人間の女性に関心を示されるとは。 スミスも驚きでした」


「それがなんで婚約という話になるんだ?」


確かに僕は人間の貴族のことなんて分からないから、お祖父様にお任せしたけれども。


「そうですね、イーブリス様はこのままですと結婚出来ません」


うん、病弱の上に王宮出入り禁止の身だからね。


するつもりもないけど。


「令嬢ご本人様から貰って欲しいというお話でございましょう?。


しかも魔物でも構わないとか。 これは逃がす手はないかと」


「つまり、体裁上、妻が必要だということ?」


「さようでございます」


ならいいか。


「おそらくですが、伯爵家としても公爵家と縁が出来ることは大歓迎のはずです」


欠点だらけでも公爵家の孫だからね。


お互いの家に利益があるなら僕としては問題ない。




「春には、お二人の婚約の儀式が行われます」


ぐえ、邪魔臭い。


「本来ですと王都の教会本部に出向いて、神官の立ち合いの上で契約が行われるのですが、イーブリス様の場合は教会側から来ていただけると思いますよ」


体調不良ですと言えば来てくれるらしい。


まあ、日頃から多額の寄付をしている公爵家だからの特別扱いだろう。


 婚姻は家と家との契約なので立会人が必要となり、書類が作成され教会が保管する。


それで正式な夫婦となるのだ。


教会での契約が無い者の子供は婚外子となり、相続で弾かれたりするそうだ。


公爵家の息子が生きていれば、アーリーもそうなっていただろう。


僕たちは公爵閣下の養子ということなので、相続に関しては認められている。


 婚約に関しては仮契約であり、正式な婚姻は歳下の者が成人に達した時点で日取りの打診が来るそうだ。




 そういえば、僕は不思議と今まで教会へ行ったことがない。


公爵家に来る前に教育を受けた所は一応教会関係の施設だったが、色々と酷かった。


まあ、あそこは神より金の場所だったからな。


神聖な教会だとやっぱり僕は浄化されちゃうのかも知れない。


行ってみないと分からないけれど、わざわざ危険なところへ行きたいとも思わないし。


「大丈夫です、王都の教会はクソですから」


スミスさん?、何か恨みでもありますか。


まあ、何も言われなくても予想は付く。


向こうから来てもらえるなら歓迎しよう。


さて、僕はその前にやらなきゃいけないことがある。




 どうやって説明するか。


アーリーは僕のことを信じ切っているというか、疑うことがない。


「リブ、婚約おめでとう!」


「ありがとう、アーリー」


昼食の後、少し時間をもらって二人で話をすることにした。


 アーリーの部屋は久しぶりだ。


前は大量にぬいぐるみがあったが、今は少し落ち着いている。


そろそろ学校へ行くのだから、その辺も考えてのことかも知れない。


 アーリーのメイドは最初から変わっていない。


このメイドさん五年も付いてるけど独身なのかな。


うう、すごい瘴気。 なんだこれは。 


僕は普段なら瘴気は歓迎なんだけど、アーリーに関しては汚されてると感じるので気持ち悪い。


それを発生しているのが、あのメイドである。




 どうしよう、一旦引き取るか。


「いつもありがとうございます」


僕は、そのメイドの手を取り感謝を込めて握る。


「え、はっ、勿体ないです」


するりと入って来た瘴気は彼女のどす黒い思いを伝えてくる。


あー、なるほど、ここ最近瘴気が濃くなったのは僕の婚約が決まったからか。


「いつも、アーリーの気持ちを大切にしていただいてありがとう」


「わ、私は、アーリー様を本当の弟のように思っておりますので」


このメイドはアーリーに惚れている。


独占欲というのか、とにかく誰にも渡さないぞっという想いが伝わってきた。


僕が決まったことでアーリーの婚約が早まるのではないかとハラハラしているようだ。


どっちにしろ、君にアーリーはあげられないよ。


 このメイドさんに罪はない。


アーリーの声には母親譲りの無自覚な『魅了』があるんで、それを長年掛けられ続ければそうなっても仕方がないのだ。


メイドは定期的に替えるよう、執事長に頼んでおこう。




 それにしては、アーリーの想い人には伝わっていないみたいだけどな。


「羨ましいな、僕も早くリリーと婚約したい」


伯爵家に婚約の話を持って行った時は真っ先にリリーの話だと思われてしまった。


ヴィーだというと、リリーが拗ねたくらいだ。


 日頃からアーリーと仲良しのリリーだが、本当にアーリーのことが好きなのかは分からない。


女心は難しいというか、ヴィーに言わせると「本当は好きなのに無理している」そうだ。


まだ子供だから構わないけど、これが思春期頃になると色んな異性が現れるから厄介である。


公爵家としてもアーリーにも早く婚約者を決めておきたいところだろう。


しかし、リリーとは限らない。


「あっちは伯爵家だしね。


僕のような公爵家を継げない者ならともかく、アーリーは次期公爵だから身分違いということになる」


「え?、跡継ぎはリブじゃないの?」


「まさか。 僕には無理だよ」


人間じゃないからね。




 よし、この流れで言ってしまおう。


「アーリー、実は話がある」


メイドさんや護衛を全て部屋から出す。


「え、何?、どうしたの?」


向かい合わせに座り、僕はじっとアーリーを見る。


「公爵家を継ぐのはアーリーだ。


何故なら、公爵家の血を受け継いでいる人間はアーリーひとりだから」


アーリーはポカンと口を開けている。


「公爵家の息子とその恋人から生まれた子供は男の子が一人だけ。


つまりアーリーだけなんだ」


「そんなの嘘だよ。 じゃ、リブはなんなの?」


僕はポケットからシェイプシフターの紋章を描いた古い紙を見せる。


「僕はシェイプシフター、身体を自在に変化させることが出来る魔物だ。


キミの母親に召喚されたんだよ」


アーリーはじっとその紋章を見ている。


「君が産まれた洞窟で僕は形のないまま闇の中に居た。


それを召喚魔法で闇から引き摺り出したキミの母親は、僕を産まれたての君の護衛にしたのさ」


一番近くに居て、一生縁が切れない護衛にね。


「そんなの!」


「嘘だと思うなら、お祖父様に訊いても構わないよ」


お祖父様は最近仕事を減らしているので午後は屋敷に居る。


アーリーは唇を引き結ぶと、紋章の紙を持ったまま部屋を飛び出して行った。


さて、アーリーには嫌でも納得してもらって、そろそろ後継者としての教育を始めてもらいたいものだ。



◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆



 先日、ロジヴィ伯爵家にラヴィーズン公爵家から婚約の申し込みがあった。


その伯爵家の双子の令嬢の一人、リリアンは自分だと思い顔を赤くして照れた。


しかし、選ばれたのはリリアンの姉ヴィオラだった。


「今回はたまたま姉のほうだっただけだよ。 リリーに悪いところがある訳じゃないから」


不機嫌になる娘を両親は必死で宥める。


今、問題を起こされてはせっかく決まった婚約が反故にされてしまう。


本来ならば公爵家と伯爵家では貴族位の違いから結ばれるはずがない婚約である。




 しかし、先日公爵家のイーブリスが王宮で失態を犯し、保護者である公爵自身も宰相という地位を手放した。


元凶となったイーブリスに甚く同情したヴィオラが見舞いに行き、その場で婚約を申し込まれたというのだ。


父親は娘の幸せを思えば手放しで喜べない。


苦労が目に見えるからだ。


 だが、母親は有頂天である。


「見て!、あなた、支度金の金額を。 これが春の婚約式までの金額なのですって。


それに加えて、成人するまでずっと援助金が出るそうよ」


伯爵にすれば、金額が高いほど心労は重なる。


「何事もなければ良いが」


断れる縁談でないとはいえ、伯爵は嫌な予感に胸が塞いだ。



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