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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

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7つのメランコリーな歌

作者: 杜若表六

 1、アニサキス


 そっと舞台裏に忍び込んだとき、そこには誰もいなかった。リハーサルは終わっていた。というより、本番も終わっていたのだ。アニサキスはその状況になんともいえないさびしさを感じたが、だからといって声を出して泣いたりはしなかった。アニサキスが声を出して泣けば大ごとになるだろう。ホール全体に響き渡り、その日いちばん大きなフォルテシモさえかき消すような嗚咽が観衆の度肝をぬき、脳髄を揺らすのだろう。それは間違いない。しかし観衆はいない、それはコンサートが終わったからであり、アニサキスその状況にさびしさを感じて泣きたい気持ちになった。しかしそれは大ごとになるであろうから彼はなかなか泣かなかったのだが、実は大ごと、つまりパニックを引きおこす当の演奏家たちや観衆たちはとうのむかしに暖かなわが家への帰路へとついたのであった。残されているのはがらんとした、がらんどうの、舞台があるだけで、きっと泣き声はよく響くだろう。だがそれでもパニックは起こらないのであった。実は、アニサキスが泣かないのはパニックが起こらないだろうからであった。というのも、彼は今日のコンサートを台無しにしようとはるばる遠くから来たのであって、それは本当はパニックを求めている例の人々にとっては願ってもない期待の的であった。


 2、列車


 大瀧詠一の「さらばシベリア鉄道」が好きなロシア人のアリョーシャは、大瀧詠一に会うために日本へ渡ろうとした。だが彼はKGBのスパイだったから、入国を拒否された。日本人になりたかった。彼はスパイだからなんでもなれるはずだ。でも日本人になることはゆるされてない。そこで彼は北朝鮮経由で日本へ渡ることを希望した。しかし断られた。当然である、そこには理由がない。アリョーシャはモスクワで粛清された。銃殺である。

「せめて毒殺はよしてくれ! 喉がつぶれたら好きに歌えないから!」という願いがかなえられた。

 しかし処刑人はとある嫉妬によりアリョーシャを憎んでいた(嫉妬と憎しみの違いは何か?)。喉を撃たれたアリョーシャは三十分ほど苦しんで死んだ。


 3,オルガ


 オルガは伝説の歌姫で、満月の夜にしか現れない。それも難破船の前にしか現れないそうだ。死にかけの船乗りだけにしか見れないものもある。船乗りに憧れる男の中にはオルガファンもいるらしい。一度も歌声を聞いたことはないみたいだが。


 4,ノコギリ


 「お・ま・え・は・あ・ほ・か」

 とマレットでノコギリを叩きながらくにゃくにゃ曲げることでしゃべらせる芸人をみたことがある。私は本当に感動した。人は、自分が歌うだけではなくて、物に歌わせることができるのだ。

 それは人にムリヤリ歌わせるよりも素晴らしいことである!

 だが、自分からすすんで歌うことも素晴らしいことには違いない。


 5,アリョーシャ


 自由に自分を変えられたらいいのに。きっと素晴らしいだろうなあ。いつもは目に見えない小さな虫けらになって、あるとき突然とてつもない存在に変身するんだ! グレゴール・ザムザは、いったいどうして虫になったことを喜ばなかったんだろう?

 思い出した。それじゃ出勤できないからだ!


 0、


 無責任なのは作家だ。思ってもみない読み方をされて、忘れがたい敗北感にさいなまれる。しかしそれでいいのだ。忘れてはいけないのだ。屈辱的な「解釈の多様性」は常に作家を苦しめ、ついには殺すのだ。


 6,想い出


 朝鮮中央テレビのアナウンサーのモノマネがうまい友達がいた。彼は喜ばしい国家の躍進から書記長の葬式の悲しみに包まれたニュースまで器用にやってのけた。友達は冗談交じりに「おい、そんなことをやってると怒られるぞ!」といった。「だれに?」「知らないけど」彼はいまでもあのモノマネをできるだろうか? もしかして、持ちネタが増えているのだろうか?

 あの友達はソ連のアナウンサーのモノマネはできたろうか? たぶん平成生まれだからリアルタイムでは知らなかっただろう。アリョーシャの愛したソ連はもうない。彼の愛した大瀧詠一も。

 ただシベリア鉄道は大量の乗客を乗せて今も走っているだろう。日本に直接つながっていないとしても、松本隆はシベリア鉄道からあの歌詞を書き、大瀧詠一がそれに曲をつけ(順番はどうかわからないが)、アリョーシャはアメリカ軍への諜報活動中にたまたま曲を傍受した。そして惚れた。ひとめぼれだった。美しい、美しい、何が歌われているかわからないが、とてつもなく美しいことが歌われているように思った。それは喉を打ち抜かれてもだえ苦しんでいるときも頭の中を流れていた。死ぬ瞬間、彼は間奏のティンパニーの音を聞いた。転調する!


 7,距離のみるゆめ


 断片どうしはどうしてもその距離ゆえにひかれあう。勝手に物語をつくってしまう。でもこれはかんけいないよ。すべてただの断片、まったくの他人同士だから。他人同士だから、なにかおこったときにパニックになるのさ。はじめはおわりに、おわりははじめになんてよくいうけれど、どこがおわりでどこがはじまりかなんて誰にもわからないじゃないか。なにがぼくたちをはなしているのか、つなげているのか、それはみえない、きこえない。ただぼくたちはそれをまぼろしのようにゆめみるだけ。ぼくはねむっているよ。ぼくはきみをゆめみる。きみはめざめたまま、じっとみみをすましている。

 オルガは月夜にしかきこえないうたをうたう。うたうたう。




 1~7をシャッフルすること。30分くらいは遊べるだろう。

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