第6話 初めてのお泊り
前回のあらすじ「やべーヤツの家で一夜を過ごす事になりました。率直に言って大ピンチ」
初めての女の子の家へのお泊り!
綺麗なあの子と一つ屋根の下でのワクワクの時間!!
……まぁ僕も女の子なんですけどね。
そして相手は小学一年生の女の子だ。
燐瑚ちゃんはすっごい綺麗な子だけど、まだまだ子供だからなぁ。
などと考えていたら、ドアがノックされる。
「お嬢様、お食事の用意が整いました」
「わかりました。行こっ、咲良ちゃん」
「う、うん」
燐瑚ちゃんに手を引かれ、僕は食堂に向かって行く。
というか、やっぱり食堂までも結構歩くんだなぁ。
いやそれ以前に個人の家に食堂があるんだ……
「うわぁ、凄い」
予想通り、食堂の中も凄かった。
長い机に絨毯みたいな長さのテーブルクロス。そして天井にはシャンデリアがキラキラと光っている。
何より、部屋の隅に並んでいる何人ものメイドさん達の圧が凄い。
いや僕も中身は男だから、綺麗なメイドさんはちょっと、いやかなりワクワクするんだけど、流石にこれだけ沢山のメイドさんが綺麗に整列している姿は庶民的に圧倒しかされない。
「お客様。こちらにどうぞ」
そう言ってメイドさんに勧められたのは、手前にある椅子だ。
よく見ればテーブルは長いのに椅子は両端の二個しかない。
二人だけならもっと小さなテーブルで良いんじゃないかなぁと思ってしまうのは僕が平民だからだろうか?
「咲良ちゃんは私と一緒に食べるから、椅子をこちらに持ってきて」
「畏まりました」
と思ったら燐瑚ちゃんの一声で僕の椅子が彼女の横に運ばれていった。
「咲良ちゃん、こっちこっち」
「あ、うん」
僕が燐瑚ちゃんの隣に座ると、料理が運ばれてくる。
運ばれてきたのは小さな皿に、お洒落な盛りつけがされた料理が一品。
も、もしかしてこれってあれでしょうか? フラとかンスが付くコース料理!?
「食べないの咲良ちゃん?」
そんな事を聞いてきた燐瑚ちゃんはもう料理を食べ始めていた。
彼女の手つきはとても自然で、小学一年生とは思えない程のマナーの良さだ。
「ええっと、僕こういう料理のマナーとか分からなくて」
うん、流石にこんな煌びやかな場所でマナーがなってない食べ方をするのは気が引ける……
「ふふ、そんなの気にしなくていいのに。ここには私達二人しかいないんだよ?」
え? メイドさん達はノーカウントですか!?
「そうだ! 私がマナーを教えてあげようか?」
「え? 良いの?」
「うん、咲良ちゃんはこれからもこういう料理を食べる機会が増えるだろうから、私が教えてあげるね!」
そんな機会が増えるかなぁ。
「じゃ、じゃあよろしくお願いします燐瑚先生」
「っ!?」
ちょっとおどけて燐瑚ちゃんを先生と呼んでみたら、何故か燐瑚ちゃんが固まってしまった。
「燐瑚ちゃん?」
「……いい」
「え?」
「咲良ちゃんに燐瑚先生って……」
「ねぇ燐瑚ちゃん?」
どうしたんだろう、なんだかぶつぶつと小声で呟いてるけど?
「燐瑚ちゃん?」
「はっ!? ううん、何でもないよ!」
もう一度大きな声で呼びかけたらようやく燐瑚ちゃんが反応してくれた。
「じゃ、じゃあ簡単なマナーから教えるね。まずフォークとナイフの持ち方は……」
と、そんなやり取りをしながら僕は燐瑚ちゃんにマナーを学びながら夕食を頂いたんだけど、これがまた美味いのなんの!!
勉強の前に出されたお菓子も凄く美味しかったけど、料理も物凄く美味しかったんだよね!
正直フランス料理なんて食べた事もないからどう凄かったのかは分からないけど、それでもビックリするくらい美味しかった。
これが本物の高級料理って奴か……
◆
「咲良ちゃん、お風呂入ろっ!」
「え!?」
食事を終えてまったりしていたら燐瑚ちゃんからトンデモナイお誘いを受けてしまった。
「で、でも女の子と一緒にお風呂なんて!?」
さすがに相手が小学生でもそれはちょっとマズイ。こっちの中身は中学生だよ!?
「でも咲良ちゃんも女の子だよ?」
「え、あ、はい。そうですね」
じゃない! なんとか断る理由を……
「大丈夫だよ。着替えは私の服を貸してあげるから」
おっと、逃走経路を封じられてしまったよ。
どうやって断ろうかと考えていたら、燐瑚ちゃんがピトッとくっついてきた。
「私と一緒にお風呂に入るの、嫌?」
そして上目遣いで悲しそうに聞いてくる。
「うっ!?」
こ、これは反則でしょ! こんなに可愛い子がおねだりしてきたら、全世界のパパは何でもいう事聞いちゃうよ!
「わ、分かりました! 一緒に入ります!!」
「やったー!」
燐瑚ちゃん、初めて出会った時はもっと人見知りな子かと思ってたんだけど、本当は結構な甘えん坊さんだったんだなぁ。
そんなこんなでお風呂場にやって来ました。
はい、予想通り脱衣所も大きいです。
ここは銭湯かな?
僕はさっさと服を脱ぐと、タオルを手に取る。
まぁ良く考えると、いくら綺麗でも燐瑚ちゃんは小学一年生だもんな。
さっきはさすがに焦り過ぎてたわ。
「じゃあ入ろうか」
そう言って燐瑚ちゃんに振り向くと、何故か林檎ちゃんは服を脱ぐ手を止めてこっちを凝視していた。
「はぁはぁ、咲良ちゃんの裸……」
「どうしたの燐瑚ちゃん?」
「な、何でもないよ咲良ちゃん!!」
僕が話しかけると、燐瑚ちゃんは慌てたように声を上げて、急いで服を脱ぐ。
やっぱり直前になって恥ずかしくなったのかな?
女の子だもんね、こっちも見ない様に気を付けてあげないと。
僕は燐瑚ちゃんから目をそらして浴場に入る……と、そこには明らかに個人の家とは思えない広さのお風呂が広がっていた。
「ひ、広っ!?」
何この広さ!? もうちょっとしたプールじゃん!?
僕が驚いていると、燐瑚ちゃんも遅れて浴場に入ってくる。
「さ、咲良ちゃん、背中流してあげる!」
「え? あ、うん」
燐瑚ちゃんに促されるまま椅子に座ると、背中に石鹸を馴染ませたタオルが触れる。
「じゃあこするね」
「うん」
子供の力でタオルがゴシゴシと上下する。
あー、子供に背中を流してもらうお父さんの気持ちってこんな感じなのかな?
「はぁはぁ……咲良ちゃんの背中、凄く綺麗」
何か聞こえたような気がしたけど、気のせいかな?
「それじゃあ流すね」
ザパーっと背中にお湯が流される。
「じゃあ今度は僕が燐瑚ちゃんの背中を流してあげるね」
と、攻守を後退しようとしたら、凄い勢いで燐瑚ちゃんが飛び退いた。
「そ、そそそそそそそれはまだ早すぎると思うよ咲良ちゃん! 私達は清い関係だからそういうのはもっと手順を踏んでから!」
「へ?」
物凄い早口でよく聞き取れなかったけど、どうやら自分の体に触れられるのは恥ずかしいらしい。
「えーっと、うん。分かった。じゃあ先にお風呂に入ってるね」
「う、うん!」
僕は一足お先に湯船に入る。
うわー、広い湯船いいなぁ。凄くリラックスできる。
「ああ、何で断っちゃったんだろう。私の意気地なし……」
「何か言った?」
「う、ううん、何でもないよ!」
◆
お風呂を出た僕達はもう勉強って言う空気でもなかったので、そのまま二人で遊んでいた。
そして夜も遅くなってきたので、寝る事にする。
「大丈夫咲良ちゃん、狭くない?」
「うん、大丈夫」
というか寧ろ凄く広いです。なんかこのベッド漫画で見るお姫様のベッドみたいに天井ついてるし。
そんな事を考えていたら、何か暖かい物がピタリとくっついてきた。
「燐瑚ちゃん?」
どうやら燐瑚ちゃんのようだ。
「えっと、お話したくて……嫌だった?」
「ううん、嫌じゃないよ」
もしかして寂しかったのかな?
今日は一度も燐瑚ちゃんのご両親に会ってないし、いつも一人でさみしいのかもしれないね。
逆に僕は燐瑚ちゃんの体を抱き寄せる。
「ふわっ!?」
「ね、嫌じゃないでしょ?」
「は、はい……最高でしゅ」
そう言って燐瑚ちゃんがグリグリと僕の胸に顔をうずめる。
ふふっ、可愛らしいね。
いつも寂しい思いをしているんだから、年上のお兄ちゃんとしてたっぷり甘えさせてあげよう。
「ふひっ、咲良ちゃんの体、とっても柔らかい」
「なぁに?」
「え!? あっ! えと! じゅ、呪術の事なんだけど!!」
どうやら燐瑚ちゃんは呪術の話がしたかったみたいだ。
家が呪術の大家らしいし、勉強熱心な子なんだなぁ。
「あのね、教科書には載っていないんだけど、呪術は元々自然界に溜まった人に悪さをする淀みを浄化する為の魔法だったんだよ。だから元々は浄化魔法って呼ばれてたんだって」
「へぇ、そうなんだ。でもだったら何で呪術って呼ばれるようになったんだろうね」
クラスの子達も怖がっていたくらいだし、イメージの悪い呪術よりも浄化魔法って呼べばよかったのに。
「うん、私もそう思う。でもね、昔の浄化魔法を使う人達の中に澱みを悪い事に使うようになった人が居た所為だってお父さんが言ってた」
「そっか、悪い人達のせいで呪術、じゃなく浄化魔法が悪い物扱いされちゃったんだね」
ホント酷い話だなぁ。真面目に浄化魔法を使ってた人達が可哀そうだよ。
「ふふ、呪術で良いよ咲良ちゃん」
「良いの?」
「うん、だってもう皆呪術で覚えちゃってるし」
でもそんな納得の仕方はしたくないな。
「燐瑚ちゃん」
僕は林檎ちゃんの目を見つめて言う。
「僕は知ってるから、燐瑚ちゃんの呪術は人を助ける為の魔法だって。だから、胸を張って」
「……うん」
電気を消して暗い部屋の中で、燐瑚ちゃんがどんな顔をしていたのかは分からない。
でも、彼女の声が嬉しそうだった事はちゃんと分かったんだ。
◆燐瑚◆
「昨夜は楽しかったね燐瑚ちゃん」
お泊り会が終わった翌日、帰り際に咲良ちゃんがそんな事を言ってくれた。
「うん、またお泊り会したいな」
「だね。今度はもっとたくさんの子達と一緒にお泊りしたいね」
「……そうだね」
他の子なんていらない。そう言いたかったけど、私は咲良ちゃんに合わせて頷く。
「じゃあねー」
咲良ちゃんの背中を見送りながら、今日は一緒に帰れない事を寂しく思う。
でも、大丈夫。
屋敷に戻って来た私は、机の中の鍵のかかった引き出しを開けて中の物を取り出す。
それは一着の服だった。
「ふふ、咲良ちゃんの着た服」
そう、昨日の夜、咲良ちゃんの着た服を私は洗濯させずに回収した。
だからこの服は咲良ちゃん100%の服!
「すぅー」
匂いを嗅ぐと、石鹸の匂いと咲良ちゃんの匂いが入り混じった香りが私の鼻をくすぐる。
「ああっ、咲良ちゃん咲良ちゃん咲良ちゃん咲良ちゃん咲良ちゃん咲良ちゃん咲良ちゃん咲良ちゃん咲良ちゃん咲良ちゃん咲良ちゃん咲良ちゃん咲良ちゃん咲良ちゃん」
この香りを嗅ぐだけで昨夜の思い出が鮮明に思い出される。
咲良ちゃんの背中の手触り! 浴槽の中触れた咲良ちゃんの肌! ベッドで埋もれた咲良ちゃんの胸!!
嗚呼、どれもが等しく素敵な思い出……
そして私は引き出しの奥の隠し蓋に隠された小さなジップロックの袋を取り出す。
その中に入っていたのは数本の髪の毛。
「咲良ちゃんの髪の毛」
私達呪術魔法の使い手に取って、髪の毛は最高の補助素材。
勿論これを使って咲良ちゃんを呪ったりなんてしない。
一本は咲良ちゃんを他の呪術師の呪いから守る為、そして残りは私の大切な咲良ちゃんコレクション!
「ああっ、また咲良ちゃん遊びに来ないかな……」
そうすれば、コレクションがもっと増えるのに。
この部屋いっぱいに咲良ちゃんコレクションを飾るの!
「あっ、でもそれだとこの部屋に咲良ちゃんを呼べなくなっちゃう」
それは流石に良くない。
残念だけど何か他の方法を考えないと。
「そうだ!! 別に咲良ちゃんコレクション博物館を作れば良いんだ!」
最高のアイデアを思い付いた私は、心が弾むあまり、思わずベッドに飛び込んだ。
「一緒にお風呂に入って一緒のお布団で寝て……これはもう結婚したのと同じだよね」
ベッドの上で咲良ちゃんの匂いが染みついた服を抱きしめながら、私は心の底から溢れる言葉を呟く。
「はぁ、咲良ちゃん大好き」
ああ、これが恋なんだ……
今回のあとがき「予想以上にヤベー奴になってしまいましたが、拗らせヤンデレに愛されると言う意味ではタイトル回収してるから良い……のか?」
次回予告「次回は主人公の才能とかなんかその辺が原因でなんかおこるよ多分! ヤンデレで疲れたに一つ」
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