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ヤンデレ彼女×サイコパス彼氏≒純愛  作者: 釧路太郎
第二部 二人だけの世界編
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レベッカは私の事を好きになっている気がする

 お風呂上りにもらっていたフルーツ牛乳を飲もうとしたところ、受付にいたおばさんが冷えている物と交換してくれた。私はぬるくなってい気にしないで飲めるのだけれど、こういった気遣いをしてもらえるというのは嬉しかった。レベッカは交換してもらったフルーツ牛乳を一気に飲んでしまったのだが、その飲みっぷりに何らかの感銘を受けたおばちゃんたちがレベッカにイチゴ牛乳も差し入れていたのだ。私も一緒にもらったのだけれど、フルーツ牛乳ですら飲み切っていないので口を付けることは出来なかった。


「ねえみさき。ここの人達って凄く親切だよね。こんな事ならもっと早くに一人ででも温泉に来ればよかったな。でも、一人で来てたら温泉のルールとかわからなくて怒られてたかもしれないね」

「いや、ルールを知らないって事だったら怒られたりはしないんじゃないかな。知ってて守らないってのだったら怒られるかもしれないけど、温泉に入ったことが無いって知ってもらえれば色々と教えてもらえると思うよ」

「そうだね。これで私も温泉マスターに近付いたと思うし、今度はママを連れてきて温泉の魅力にどっぷりはまってもらう事にしようかな。文字通り、温泉に身も心もつかってもらわないとね」

「レベッカってさ、日本人より日本人っぽいこと言うときあるよね。そう言うのってどこで覚えてるの?」

「私の知識は漫画とアニメとゲームと映画かな。本当は原作を読んでみたいんだけど、日本語を読むのが難しくてなかなか読み切れないんだよね。漫画だったらフリガナとかあったりするし、アニメも映画も英語の字幕があるから何とかなるのだけどね。それでも、最近のゲームとか小説は難しい文字が多くて困っちゃうことが多いんだ」

「意外とそう言う人は多いみたいだね。私の知り合いの外国の人達は小さい時から日本に住んでるから読み書きも普通に出来るけど、遠くから来た人は日本語の読解に苦しむって聞いたことあるかも」

「そうなんだよね。私も小さい時に何度かパパについて日本には来てるんだけど、それでも読み書きする時は英語ばっかりだったからね。今はそれを後悔していたりもするんだけど、日本語の読み書きが出来るようになっていたら英語が使えなくなってたんじゃないかって思うと、そっちの方が恐怖かも知れないわ。だって、パパとママと日常的な会話もままならないかもしれないからね」

「話は変わるけどさ、レベッカはいったい何本飲んでるの?」

「え、温泉から出てこれで六本目かな?」

「そんなに飲んで大丈夫なの?」

「大丈夫だよ。私は胃腸が強いので有名だからね。それと、私の事は親しみを込めてベッキーって呼んでね」

「お腹が強いならいいんだけどさ、そんなにたくさん一気に飲まない方がいいと思うんだけどな」

「大丈夫だよ。みさきの分も残してあるから心配しないで。あと、正樹にもプレゼントしようね」


 私達は髪を軽く乾かして帰り支度をしていたのだけれど、その間にもレベッカはもらった色々な牛乳たちを三本ほど飲んでいた。いくら胃腸が強いとはいえ、そんなにたくさん冷えた牛乳を飲んで大丈夫なのだろうかと心配にはなっていたが、当の本人は全くもって問題無さそうな感じだったので私はあまり心配し過ぎないようにしておくことにした。

 常連のおばあちゃん達や受付のおばさんにお礼を言って外へ出ると、すぐ近くにある東屋のベンチに座って待っているまー君がいた。まー君は私達に気が付くと笑顔で手を振ってくれたのだが、なぜかレベッカは私とまー君の間に割って入って手を大きく大きくこれでもかというくらい大きく動かしていた。ちょっと邪魔だなと思っていたけれど、もしかしたらレベッカはまー君に嫉妬してしまっているのかもしれない。


「二人とも早かったね。もう少しゆっくりしてても良かったのに、大丈夫だった?」

「うん、まー君こそずっと待ってたんじゃないの?」

「いや、そんな事ないよ。さっき出てきたばっかりだからね」


 まー君は私の手を取ってそのまままー君の首元を触らせてくれた。その首元はほんのりと温かく、温泉から出てそれほど時間が経っていないという事を証明しているようだった。


「あ、温かいって事は、ちょうど同じくらいの時間に出たって事なのかな?」

「そうだよ。だから僕はそんなに待ってないってことだよ」

「良かった。結構待たせちゃったんじゃないかと思ってたよ。でもさ、意外と手は冷たくなってるんだね」

「さっきまで冷えたジュース飲んでたからかもね。ジュースを持ってたから手は冷えちゃったのかもしれないな」

「そうそう、ジュースといえばね、レベッカはたくさん牛乳とか飲んでたんだよ。途中でやめた方がいいんじゃないかなって思ったんだけど、中にいたおばさんたちがレベッカの飲みっぷりを見てたくさん奢ってくれたんだよね。飲み切れないくらいたくさん貰ったみたいだし、しばらくは飲み物に困らなそうだよ」

「凄いね。みさきの後ろで飲んでるのがその貰ったやつなのかな?」


 私の後ろで飲んでるってどういう意味なんだろうと思って振り返ると、レベッカは牛乳瓶の紙蓋を器用に空けると、腰に手を当ててグビグビとコーヒー牛乳を飲んでいた。その姿はよく見る正しい瓶牛乳のの味方そのもので、髪の色と目の色が日本人離れしている点を除けばちょっと色白な日本人だと思っても仕方ないくらい堂々としたものだった。


「ぷはぁ。正樹にあげようと思ってとっておいたんだけど、この牛乳たちは正樹じゃなくて私に飲んで欲しいって言ってたから飲んじゃった。正樹も美味しい牛乳が飲みたかったと思うけど、牛乳たちがそう言ってたんだから仕方ないよね。ごめんね」

「あ、別に僕の事なら気にしなくていいよ。あんまり牛乳とか好きじゃないし、たくさん飲んだらお腹を壊しちゃうからね」

「そうだったならそうだと先に言ってくれれば良かったのに。でも、この牛乳が飲めないってのはかわいそうだから、旅館に戻ったら私の持ってるお菓子を一つあげるわ。日本ではなかなか買えないようなお菓子だから楽しみにしててね。あ、もちろんみさきにも別のお菓子をあげるからね」


 レベッカは子供みたいな事をまー君にしていた。実際に子供だとは思うのだけれど、わずかな罪悪感はあるようで、その罪をごまかすためなのかまー君と私に外国のお菓子をくれるという事だった。

 私が想像する外国のお菓子はカラフルで味の強いものが多いのだが、まー君は普段からお菓子をそんなに食べていないし味の強いものもあんまり好きではないはずだ。このままではレベッカの好意が無駄になってしまうんではないかと歩きながら考えていたのだが、私の手を握っているレベッカの手がしっとりと濡れてきていて小刻みに震えていた。

 何があったのだろうと思ってレベッカの方を見てみると、額に思いっきり脂汗を浮かべて唇が真っ青になっていて全身が小刻みに震えていた。もしかして、これはトイレに行きたいというやつではないだろうか。


「調子が悪そうだけど大丈夫?」


 私の問い掛けに対してレベッカは切ない視線を私に送りつつ顔を横へと振っていた。今のレベッカは何か喋ろうとするだけでお腹が決壊してしまうのかもしれない。

 今から温泉に戻ってトイレを借りるのが早いのか、それとも旅館まで行った方がいいのか、私にはいまいち距離感が掴めないでいた。それでもレベッカは今にも泣きだしそうな顔で私に自分が窮地に立たされているという事を伝えていた。


「ねえ、まー君。レベッカが大変な感じなんだけど、旅館と温泉だったらどっちが近いかな?」

「大変って何かあったのかな。って、顔が真っ青じゃないか。このままだとマズそうだし、今からだったら旅館に向かった方がいいんじゃないかな。温泉のトイレは受付の奥にあったはずだから入口からちょっと離れてると思う。でも、旅館だったら玄関のすぐ横にもトイレがあったと思うから、そっちの方がいいんじゃないかな」

「そっか、そう言う考えもあるんだね。レベッカは旅館まで行けそう?」

「……無理かも」

「じゃあ、僕の背中に乗っていいよ。あんまり揺らさないように慎重に歩くけど、なるべく早足にするから頑張ってね。悪いんだけど、みさきはレベッカの持ってるものを持ってもらってもいいかな?」

「うん、私が持つよ。レベッカも恥ずかしがってないでまー君の背中に乗って。今だけはまー君に触れることを許してあげるからね」


 まー君がレベッカをおんぶしてあげているのだけれど、レベッカは眉間と手に力を入れて我慢をしているようだ。レベッカを背負ったまー君はゆっくりと立ち上がると、なるべくレベッカに振動を与えないように動いているのだが、歩くスピードはいつもよりも確実に早くなっていた。いつもなら私の歩くスピードに合わせてくれるまー君なのだが、今は一秒でも早く旅館に戻れるようにとの思いを込めているかのように早く歩いていた。動きは速いのだけれど、横から見ていてもその動きはとても優雅に感じていた。その証拠に、レベッカの頭の高さはほとんど変わることが無かったのだ。


 細心の注意を払いつつ最速で旅館へと戻ることが出来たので、私は二人のためにも玄関を開けて二人が中に入れるようにとしたのだけれど、まー君とレベッカはその場から動こうとはしなかった。何かを悟ったような表情で立ち尽くしているまー君とワンワンと泣いているレベッカの姿を見た私は二人に何が起こったのか瞬時に判断することが出来た。


「そうだ、二人が良ければもう一度温泉に入りに行こうよ。晩御飯までまだ時間はあるみたいだし、もう一回くらい温泉に入っても問題ないよね」


 私の言葉を聞いたまー君は無言で頷き、レベッカは号泣しながら何度も何度も頷いていた。レベッカはそれと同時にまー君に対して謝罪の言葉を述べていたのだった。

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