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ヤンデレ彼女×サイコパス彼氏≒純愛  作者: 釧路太郎
第二部 二人だけの世界編
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金髪少女なんて嫌いだ

 外国の人の年齢は分かりにくくて困る。日本人は実年齢よりも幼く見えるという話はよく聞くのだけれど、実際のところは外国人が老けているだけなのではないだろうか。私はこのレベッカという女を見てそう感じていた。

 見た目だけなら私達とそんなに変わらないように見えているのだけれど、年齢を聞いてみたら中学二年生という事だった。私もまー君も年相応に見えるのだから、このレベッカは実年齢よりも老けて見えるという事なのだろう。


「私と同じくらいの年の子がいるなら部屋じゃなくて食堂でディナーを食べれば良かったな」

「え、部屋で食べることも出来たの?」

「最初は皆と一緒に食堂で食べてたんだけど、なんだかすごく注目されて食べづらかったから部屋で食べることにしたんだってパパが言ってたの。私達は別に見られることなんて何にも思っていなかったんだけど、周りの人達が落ち着いて食事をとれないって言ってたみたいで特別に部屋で食べることになったの。そうだ、今晩は私達の部屋で一緒にご飯を食べましょうよ」

「いや、それは断るわ」

「なんでそんな簡単に断るのよ。日本人は断らないって聞いてるのに」

「あのね。日本人だって嫌なものは嫌だってハッキリ言うのよ。それにね、私はちょっとした理由で男の人が怖いの。食堂で食べるのも本当は嫌なんだけど、多少は無理をしてでも男の人の視線に耐えないとダメだよって言われて仕方なく食堂でみんなと一緒にご飯を食べているのよ」

「男の人が怖いのに何でみさきは正樹と一緒に居るの?」

「それはね、私を助けてくれたのがまー君だからよ」


 私がまー君以外の男性に恐怖心を抱くことになった理由を掻い摘んでレベッカに説明した。レベッカは見た目は外国人そのものなのだけれど、日本語が堪能で私よりも難しい言葉をいくつも知っているようだった。そして、私が思いつかないような皮肉も使いこなしているようだった。


「そうだったのね。二人は私が漫画やゲームでしか体験したことのないような過酷な経験をしてきたのね。そうね、せっかく知り合ったんだしみさきが普通の女の子に戻れるように私も協力するわ。まずは、私のパパと一緒に過ごしてみるってのはどうかしら。もちろん、正樹は私とママと一緒に過ごすことになるけどね。って、そんなに怖い顔で睨まなくても冗談だから真に受けないでね。それに、みさきがどう思っているのかは想像がつくけど、正樹も私の提案には全く乗り気じゃないみたいよ。だからね、その手に持っている石を置いてから冷静になって私と話し合いましょ。暴力から生まれるのは悲しみだけなんだし、これ以上みさきに悲劇が降り注ぐことなんて神様も望んでないと思うのよ。お願いだから石を持ったまま鬼のような形相で私を見るのだけはやめてね」

「もう、レベッカの冗談は分かりにくいな。本気なのか冗談なのかわからないからさ、ちょっと考えちゃったよ」

「そうだよね。僕もレベッカの冗談が理解出来なくて困ったよ。そう言う冗談はあまり日本人向きじゃないと思うから、言う相手を選んだ方がいいと思うな」

「そ、そうね。今度からは気を付けるわ。だから、二人とも手に持っている物騒なものは置いてちょうだい。あ、それと、私の事は親しみを込めてベッキーって呼んでね。家族も友達もみんな私の事はベッキーって呼んでくれているからね。あと、旅館の人達からお昼ごはんにってサンドイッチをたくさん作ってもらったのよ。良かったら、二人も一緒に食べましょうよ。あっちの木陰にシートを敷いてお昼の用意をしてあるからさ、遠慮せずに三人で楽しく過ごしましょ。って、私のお弁当に犬たちが群がっているわ。いったいどうしたらいいのかしら。こんな時はどうするのが正解なのよ」


 私とまー君はレベッカが指をさしていた方を見たのだが、そこには数匹の犬が何かを食べているように見えた。私はあんまり動物も得意ではないのだけれど、まー君は持っていたお弁当を私に手渡すと、一人で犬たちがいる方へと向かっていった。

 レベッカも犬が苦手なのか私の袖を掴んでこの場から動かないのだが、まー君が犬に近付いていくと不思議な事に犬たちは畑の方へと走っていってしまった。何かを投げたわけでもないし、もちろん犬に危害を加えている様子もなかった。それなのに、犬たちはまー君を見て畑の方へと逃げていったのだった。


「凄いわ。いったいどんな魔法を使ったらあんなに狂暴そうな犬を追い払うことが出来るのかしら。きっと私のパパでもあんなに落ち着いて犬を追い払うことなんて出来ないと思うの。正樹ってもしかして、凄い人なのかもしれないわね。そうだ、私達のサンドイッチが無事かどうかも確かめなくちゃいけないわね。犬の食べかけなんて食べたくはないけど、一つでも無事なのがあることを祈るのは自由よ。それに、信じるものは救われるって日本では言うみたいだし、少しくらいは期待しても文句は言われないわよね」

「いや、無事なのがあったとしても犬があんだけ近付いていたのを食べるのは怖いと思うけど」

「大丈夫。ここは日本なのよ。日本の食品って世界一安全だって知ってるんだから、動物が多少近付いたくらいで食べられなくなることなんてないと思うわ。それに、せっかく作ってくれたサンドイッチを残すなんて申し訳ないと思うのよ」

「レベッカの言いたいことはわかるけれど、そういう問題でもないと思うのよね。あの犬が飼い犬なのか野犬なのかわからないけど、飼い犬だとしてもあんな風になったサンドイッチは食べたくないと思うよ」

「そんなものは見てみないとわからないわ。もしかしたら、正樹が先に食べちゃうかもしれないし、みさきも急いで正樹のもとへ向かうわよ」


 レベッカは私の手を引いて駆けだしていた。見た目は私達と同じくらいに見えるのだけれど、やっぱり中身はまだまだ子供なのかもしれない。それに、私の手を握るレベッカの手は何だかぷにぷにしていて赤ちゃんみたいで可愛らしかった。

 レベッカはまー君の隣で立ち止まっていたのだけれど、その表情は明らかに落胆の様子を隠すことが出来ていなかった。


「みさきの言うとおりね。あの状況でサンドイッチが無事だと思う方がどうかしてたと思うわ。犬がいるという事を知らなかったとはいえ、サンドイッチを出したまま離れた私が悪かったって事ね。美味しいサンドイッチを食べることは出来なかったけれど、その分夜までお腹を空かせておけば夕食は昨日よりも美味しく感じられるかもしれないものね。それに、よくよく考えてみたら、私は朝もいつもの倍くらい食べてたんだから夜までは耐えられると思うのよ。二人にはサンドイッチをご馳走することが出来なくて申し訳ないんだけど、そう言う事なのでお昼寝でもしましょ」

「あ、僕たちもお弁当は持ってるんで良かったら三人で食べないかな?」

「そうね。私達も朝にたくさん食べちゃってるからお弁当を食べきれるかわからないしね。良かったらレベッカも一緒に食べましょうよ?」

「ありがとう。でも、二人のために用意してもらったお弁当をいただくのは申し訳ないわ。私はもらった紅茶を飲んで空腹を満たすことにするから気にしないで二人はお弁当を食べてね」

「そっか、それなら僕は遠慮しないで食べることにするよ。朝には食べなかったおかずがたくさん入っているから楽しみだな。さ、みさきも食べちゃおうよ」

「ちょっと待ってよ。こういう時の日本人ってもっとさ、こうなんて言うか、誘うもんなんじゃないかな?」

「いや、でも、誘っても断られたら申し訳ないし、紅茶で満たせる程度の空腹だったらお弁当はいらないのかなと思ってね」

「違うの。私は二人と一緒にお弁当を食べてみたいの。だから、もっと誘ってもらえるのを期待していたの。学校でもみんな私が一緒になるまで誘ってくれたりしてたし、今回もそうなのかなって思って断ってみただけなの。ほら、日本では三回断られるまで誘えって言うでしょ?」

「ああ、そんな風習もあるかもしれないね。でも、僕はレベッカが日本人じゃないから断られた後にもう一度誘うのって悪いのかなって思ってさ」

「もう、そんなに深読みしなくていいのよ。私は見た目は外国人かも知れないけど、小さい時からずっと日本にいるから日本人みたいなものなのよ。だから、日本人と思って接してくれてもいいのよ」


 私はまー君とレベッカのやり取りを見てて、この女の子は結構面倒くさいタイプなんだなと思ってしまった。私の友達にも後輩にもこんな感じの人はいなかったと思うのだけれど、私のお姉ちゃんはレベッカと同じくらい面倒くさくなる時があるなと思って少しだけおかしかった。


「実はね、私はサンドイッチよりもお弁当の方が好きなの。中でも一番好きなのは日本のミートボールなの。ハンバーグも好きなんだけど、どっちかといえばミートボールの方が好きなのよ。理由なんてないけれど、とにかくミートボールが好きなの。でもね、時々ミートボールかと思って食べたら魚のすり身のやつだったりするのよね。それはそれで美味しいのだけれど、食べた瞬間はがっかりしちゃうのよ。おでんにミートボールが入っている時は高確率で魚のすり身で出来ている奴だから気を付けた方がいいわよ」

「おでんに入ってるのはミートボールじゃないってわかりそうだけど。レベッカはおでん好きなの?」

「おでんは好きだけど、好きなのはおでんだけじゃないわよ。和食はヘルシーだから何でも好きよ。たくさん食べても太りにくそうだしね」

「和食でも食べ過ぎたら太ると思うけどな」

「その辺は気分の問題よ。気の持ちようってやつかな。で、お弁当って中身は何なのかしら。今すぐ開けて見せてちょうだいよ」


 私達は犬の食べかけのサンドイッチをシートの端の方へと移動させてからお弁当を一つずつ広げていった。全部で大小四つあったお弁当の中身は、大きい二つが洋食と和食のおかずが詰められていた、小さいほうのお弁当箱には俵型で二口サイズのおにぎりが八個ずつ入っていた。


「わあ、凄い。こんなに豪華なお弁当って見た事ないわ。もしもこのお弁当をお店で買うとしたら、そうね、二千円は出しても惜しくは無いわね。それに、ミートボールだけじゃなくてハンバーグも入っているじゃない。本当に私も食べていいのかしら?」

「ああ、僕もみさきもこんなにたくさんは食べられないしね」

「ありがとうね。二人には心から感謝するわ」


 私はお腹は空いていたのだけれど、この量を二人で食べるのはきついんじゃないかと思っていた。まー君がどれくらい食べられるのかはわからないけれど、きっと優しいまー君の事だから残さないように無理をしてでも全部食べてしまうんだろうな。そう考えると、このレベッカに出会えたという事は良かった事なのかもしれない。ただ、あの犬たちがサンドイッチに群がっていなければ一人当たりの食べる量がもっと増えていたと思うと、ぞっとして背中に冷たいものが走ったような感触を覚えてしまった。


「本当に嬉しいわ。二人にはいくら感謝を述べても述べたりないくらいよ。本当にありがとうね」


 そう言ってからレベッカは私に抱き着いてほっぺにキスをしてくれた。自分の事を日本人と思ってくれと言っていたわりには感情表現が外国人そのものだなと思っていたのだけれど、それをまー君にもしていたのを見て私は持っていた箸を落としてしまった。

 拾い直した箸を脳天に刺してやろうかとも思ったけれど、レベッカを見るまー君の目はまー君の妹の唯ちゃんを見る時の目に似ていると思ったので私は思いとどまることが出来た。


 思いとどまることは出来たのだけれど、私はレベッカの事が好きになれないと思ってしまった。

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