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ヤンデレ彼女×サイコパス彼氏≒純愛  作者: 釧路太郎
第二部 二人だけの世界編
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朝から元気にやっちゃいました

 旅館に泊まって二日目の朝。いつもよりも目覚めが良かったのは隣にまー君がいたからなのかもしれない。まー君は私よりも早くに目が覚めていたみたいだったのだけれど、私が起きるまでずっと腕枕をしてくれていたのだ。私はとても嬉しくなって、生まれて初めておはようのキスをしてみた。


 いつもはしっかりと朝食はとらないのだけれど、昨日の夕食の事を思い出していたら急にお腹が空いてしまい、まー君と一緒に食堂に向かったのだけれど、そこでは私達と入れ違いになる形で久子さんたちと挨拶を交わした。

 久子さんたちは昨日の夜のことがあってなのか少し気まずそうにしていたのだけれど、私達は特に気にも留めていなかったので挨拶だけして食堂へと入っていった。朝食の時間は一般客に食堂を解放していないようで、朝食をとるのは宿泊客だけのようなのだが、久子さんたちが出ていった後なので私達の貸し切りになってしまった。

 朝からこんなに食べられるのかなと思って並べられている料理を眺めていたのだけれど、ビュッフェ形式のように好きなモノを好きなだけ自分で取り分けるスタイルだった。私とまー君はそれぞれ思い思いに料理をとって、昨日の夜と同じ席に座って美味しい料理をいただいたのだった。

 それにしても、宿泊客の数を考えるとあの量の料理を用意するのは無駄が多いのではないかと不思議に思っていたのだが、旅館の方に何となく聞いてみたところ、余った料理は従業員の朝食とお弁当に回すとのことだった。それでも余った分は数量限定のお惣菜として集落に住む人達にもふるまっているらしい。それがあるから夜の食堂開放の時に地元の人達も食べに来ているのかと思っていた。


 さて、食欲が満たされた私達が次にすることといえば、昨日は時間が無くてあまり出来なかったことをするのだ。そう、この集落をちゃんと探検してどんなところなのか確認するという事だ。

 バス停から繋がっていた道は後から造られたそうなので、今日は昔からある道に沿って探索をしてみようと思う。食事の時にまー君からそう提案されたのだが、一日中旅館に引きこもって温泉と食堂の往復だけではせっかくここに来た意味がないというものだ。いや、あの温泉と食事にはそれだけの価値もあると思うのだが、せっかくなのでここでしか出来ない事をやってみるのも悪くないという事なのだ。

 もしかしたら森の中に入るかもしれないという事もあって、私達は少し強めの虫よけスプレーで身を守るのと同時に蚊取り線香と虫が嫌がるという音を出している装置も持っていくことにした。それでも、多少は虫が寄ってくるのだけれど、まー君に変な虫が寄ってくるよりはマシだと思う。

 旅館の玄関で靴ひもを結んでいると、ちょうどチェックアウトした久子さんたちと出くわしてしまった。久子さんたちは相変わらず気まずそうにしているのだけれど、私は本当に気にしていないのであまり気にするのはやめて欲しいと少し思っていた。


「えっと、あなた達はもう一泊するんだっけ?」

「予定ではそうなんですけど、ここの料理も温泉も良かったから予定よりも長くいるかもしれないです」

「そうなんだ。私達は知り合いにここを勧められてきたんだけど、その気持ちはよくわかるな。料理はどれも美味しかったし、温泉も気持ちよかったからね」

「そうですよね。私も病院の先生に勧められてここに来たんですけど、聞いていたよりも良かったんで嬉しかったです」

「私達は帰るけど、私達の分も楽しんでね」

「はい、久子さんたちも気を付けて帰ってくださいね」


 久子さんたちと別れの挨拶をしていたのだけれど、その間も三人は私達に謝りっぱなしだった。私は昨日の事なんて全く気にしていないのだからそんなに謝られても困るのだけれど、そこまで謝られるのならという事で連絡先だけは交換しておいた。もちろん、まー君とは交換させなかったけどね。

 旅館の人達と一緒に久子さんたちを見送ってから、私達は温泉の奥にある道を目指して歩きだした。その時につないだまー君の手はとても暖かく、腕枕をしてもらっていた時とは違う幸せ感に包まれていた。


「温泉の奥に他の集落へと続く道があるみたいなんだけどさ、そこって今は誰も住んでいないみたいなんだよね。空き家があるだけで誰も住んでないって事らしいんだけど、もしかしたら野生の動物が棲みついているかもしれないから行くなら気を付けた方がいいって旅館の人が言ってたよ」

「そうなんだ。動物が相手だったら話も通じないだろうし怖いよね。熊とかだったら危ないからやめた方がいいのかな?」

「熊に出会ったらさすがに危険だと思うけど、鹿とか狐とかが多いって言ってたよ。それにさ、ここ数年は熊の目撃情報もないって言ってたし大丈夫だと思うよ」

「それなら安心だね。でも、熊が出たら私を置いて逃げてもいいからね」

「そんな事はしないって」


 そのような事を話しながら歩いていると、あっという間に集落を抜けてくねくねとした林道へ出た。車もかろうじてすれ違えるのではないかというような道幅だったのだけれど、意外な事に草木は生い茂ってはいなかった。誰もいない集落へと続く道にしてはしっかりと管理されているのだなと思ったのだが、それも最後まで続くことは無かった。

 集落から集落へと続く道はまだ先のはずなのだが、その道すがらに両側が開けている場所があって、どうやらそこは畑になっているらしかった。その畑は大きい物ではないのだが、その分きちんと手入れされているようで生き生きとした野菜がすくすくと育っているのが遠くからも見えるのだった。

 畑へと入っていく道がいくつかあったのだが、その道が途切れると同時に集落へと続く道も急に荒れた道へと変化していた。車ではいるのは大変そうなくらい道はあれているのだけれど、徒歩で歩く分にはそこまで問題は無さそうなのだが、三十分も歩いていると今いる場所が本当に道なのかと不安になるくらい荒れていた。


「このまま進むのは大変そうだけどさ、みさきは先に進みたい?」

「正直に言うと、これ以上は行きたくないかな。ちょっと疲れそうだし、帰りの事を考えると大変そうだもんね」

「じゃあさ、もうそろそろお昼も近いだろうし、来る途中にあった畑まで戻ってその近くにある湖を見ながらお弁当を食べようよ」


 私はまー君の提案に全面的に賛成し、いったん畑まで引き返すことにした。畑の近くに湖があったし、そこにベンチがあったような気がしたので休憩をするにはちょうどいいと思っていた。そして、旅館の人達が私達にもお弁当を作ってくれたのだけれど、それもこの探索の楽しみの一つなのだ。

 行きは大変な道のりだと思っていたのだけれど、帰り道になると思っていたより苦労することも無く整備された道へと戻ることが出来た。そこまで戻ってしまえば畑までもう少しだと思うのだけれど、畑へと続く道を進んでいると意外と畑は遠いという事に気付いてしまった。

 遠くから見た畑はそれほど大きくは見えなかったのだが、実際に近くを歩いてみるとどこまでも続く動物除けの柵が終わりのない道を暗示しているかのようにも思えた。ただ、そんなのは私の思い過ごしにすぎず、畑を越えた先にある丘を進むと目の前に波一つ立っていない綺麗な湖が広がっていた。

 私もまー君も時が止まった世界にあるようなその湖に見とれていたのだ。私もまー君も丘から見える湖の美しさに圧倒されていたのだ。湖面には空が映しだされているのだが、そこに雲が映っていなければ空なのか湖なのかもわからないくらい透き通っていた。その光景に私達は完全に目を奪われていたと思うのだが、私達を現実に引き戻すかのように一人の少女が私達の目の前に走ってやってきたのだ。

 麦わら帽子に白いワンピースが異様に似合っている金髪碧眼の女の子。きっと私達とそれほど年齢は変わらないと思うのだけれど、私達を見つめるその瞳は湖と同じように綺麗な色をしていた。


「こんにちは。あなた達はこの辺の人なのかな?」

「僕たちはこの辺に住んでるわけじゃなくて旅行であそこの旅館に泊まってるんだけど」

「凄いわ。私も同じ旅館に泊まっているのよ。パパとママは仕事で夜まで戻ってこないけどね。あなた達のパパとママもどこかへ行っているの?」

「いや、僕たちは二人で泊まっているよ」

「信じられないわ。私とそんなに年が離れてなさそうなのに凄いわ。私はレベッカよ」

「僕は正樹で彼女はみさきです」

「正樹にみさきね。よろしく。私の事はベッキーって呼んでね。それにしても、正樹とみさきって似たような名前なのね」

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