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ヤンデレ彼女×サイコパス彼氏≒純愛  作者: 釧路太郎
第二部 二人だけの世界編
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私はどんな時でもまー君を信じている

 温泉はとても気持ち良かったのだけれど、私は何か変な事に巻き込まれてしまったような気になっていた。私がまー君を信じているか信じていないかといえば、完全に信じ切っているのだけれど久子さんはそう思っていないのかもしれない。でも、私もまー君以外の男の人は信じられないと思うのでその気持ちは少しだけわかる。それでも、私はまー君を信じているのだ。

 久子さんたちが何をするのかわからないけれど、私は出来ることならこのまままっすぐ部屋に戻ってまー君と二人だけの時間を楽しみたいと思っている。せっかく二人っきりの旅行なんだから誰にも邪魔されずに幸せな時間を過ごしていたいと思うのだ。

 でも、部屋に戻ったところで何もないので飲み物くらいは買っていこうと思って自動販売機コーナーに向かうことにしたのだが、これは私が今日犯した一番大きな失敗となってしまうのだった。


「ねえ、この自販機って見た事ないんだけど、まー君は見たことある?」

「いや、僕も見た事ないな。それにしても、これだけ異常に高いね。一本で千円とか高級品なのかな」

「ねえ、待って。よく見てみたら、これって全部お酒なのかもしれないよ。未成年は買えないって書いてあるからさ。それに、パッケージもよく見たらアルコールとかお酒って書いてあるもんね」

「本当だ。値段しか見てなかったから気が付かなかったけど、意外と大きくお酒って書いてあったね」


 私は純粋に飲み物を買おうと思っていたのだけれど、何を買うか迷っている時間に久子さんたちがやってきて私とまー君に存在をアピールしてきていた。まー君はあまり気にしていないようだったのだけれど、久子さんは何度か私と目を合わせては手を顔の前で合わせて謝るようなポーズをしていた。それでも、顔は少しニヤニヤとしているようで楽しんでいるようには見えたのだけれどね。

 久子さんの友達二人はわざとなのかたまたまなのか判断がつかないけれど、まー君に触れそうなくらい近付いてみたりしていた。正直に言えば、それは少し気に入らなかったけれど久子さんは申し訳なさそうにしていたので今は許すことにしておこう。何より、まー君自信が全く気にしていないようだったからね。

 それにしても、久子さんの友達二人はもう酔っているように見えるし、その行動がとても演技には見えなかった。もしかしたら、私と久子さんが温泉に入っている間にも飲み続けていたのだろうか。


「ちょっと、さっき飲んだのと同じの売ってないじゃない。あのワイン美味しかったのに別のしかないんだけど」

「あるので我慢しなさいよ。どうせ味なんてわからないんだから何飲んでも一緒よ」

「何よ。私が酔ってるからお酒の味がわからないって言うわけ」

「そうよ。良美は最終的にはアルコールが入ってなくても気にしないで飲んでるじゃない」

「それはそうだけどさ、確かにそうだよ。じゃあ、ここにあるやつでいいか」

「そうそう、それにしなさい。あんたは弱いくせにたくさん飲もうとするんだから、このぶどうジュースも買っておくからね」

「ジュースなんて嫌。こっちのワインが良いの」

「ワインがいいって、あんたはどうせ一本飲みきれないで残しちゃうんだから、安いジュースの方にしときなさい」

「飲み切れないって、実際そうだから愛ちゃんの言う通りにしとく。残したら一緒に飲んでね」

「私はワイン飲めないからジュースならいいわよ」

「ありがとう。あれ、あそこでこっちを見てるカップルって、食堂にいた若い子たちじゃない?」

「そうね。あの二人は初々しい感じがして見てて幸せな気持ちになれたわね」

「そうだ、あの二人も誘って一緒に飲もうよ。せっかくこんな田舎まで来たんだから仲良くなるしかないでしょ」

「誘ってみるか。じゃあ、久子が声かけてきなさいよ」

「なんで私なのよ。良美も愛も自分たちがしたいことを私に押し付けるのやめてよね。あんた達って人見知りのくせに他の人と話したがるのって迷惑だよ。たぶん、あの二人だって迷惑だと思うだろうし、あんたたちの思い付きでいっつも私が迷惑してるってのも自覚してよね。とりあえず、断られると思うけど聞いてくるからね」


 私は久子さんたちが何か話している間に帰ればよかったんだけれど、まー君がお酒の自販機に興味があるのかその場を離れようとはしなかった。まー君の視線を何度か追ってみてわかったのだけれど、まー君の視線の先はお姉さんではなく自販機だったがわかって私は安心していたと思う。まー君に限って他の女性を見ているなんてことは無いと知っているのだけれど、それを確認することが出来ただけでも久子さんに自信をもってまー君を信じていられると伝えることが出来ると思う。

 久子さんたちの話はこちらに丸聞こえなのでまー君が誘われるというのはわかっているのだけれど、きっとまー君はその誘いに乗らずに断ってしまうんだろうな。そうなってしまうと誘いに乗らない一途な男という証明になると思うのだけれど、どうせならまー君が本当に誘惑されてもそれに乗らないという事を見せつけてやりたくなってしまった。私は今の状況でもずっと自販機を見ていたまー君を信じることが出来るし、まー君もその期待に応えてくれると私は知っているのだ。

 だから、まー君が誘いを断ろうとしても私がその誘いに乗ることにしよう。


「いきなり話しかけてごめんね。私の友人がさ、あなた達みたいに若くてかわいいカップルとお話ししたいって言ってるんだけど少しだけ付き合ってもらってもいいかな。もちろん、お酒はこっちで買うしおつまみとかもかってあるからさ。少しだけでも付き合ってもらえないかな?」

「あ、それは」

「いいですよ。でも、部屋に男の人がいるとかってないですよね?」

「うん、私達は女三人旅なんだよね。あっちでお酒を買ってる二人が同じような時期に失恋しちゃってさ、その傷心旅行に付き合わされちゃってるってわけ。私は失恋なんてしないから純粋に温泉と料理を楽しみたかっただけなんだけどね。それなのに、あの二人がお酒飲んじゃったからまだ温泉に一回しか入ってないんだよね」


 予想通りまー君は断ろうとしていたけれど、何とか間一髪で断らずに済んで良かった。まー君は少しだけ嫌そうに見えるのだけれど、私が何とか誤魔化すことでこの場を乗り切って見せよう。

 

「大人の女性の話を聞ける体験ってあんまりないからちょっとだけ話を聞いてもいいかな?」


 実際にあの人達から学ぶことなんて何もないと思うのだけれど、まー君の凄さをあの二人と久子さんにわからせてあげようと思ってしまった。私はそう思っていたのだけれど、なぜかお姉さんたちはまー君ではなく私に積極的に絡んでくるようになっていた。もしかして、まー君が怖かったりするのかな?


「じゃあ、私達の部屋に招待するけど、何か飲みたいものあったら買うよ」

「あ、僕たちは自分の分を買ってあるんで大丈夫です」

「大丈夫って、それお酒じゃないけど?」

「僕たちは未成年なんでお酒飲めないんですよ」

「え、そうなの?」

「はい、未成年です」

「そうだったんだ。それは若く見えるはずだわ」


 久子さんもそうなのだけれど、久子さんの友達二人も実年齢よりは若く見えていた。お姉ちゃんと同じ年ってほどではないけれど、浴衣姿を見ているととても三十近い女性には見えなかった。そう考えると、私よりも干支が一回りくらい違うんだと思えてなんだかわからない優越感に浸ってしまっていた。もちろん、そんな事は口に出すことは出来ないけれど、そう感じるのは自由だろう。

 そんな事を考えているうちに久子さんたちの部屋へと案内されたのだが、正直に言って意外だった。もっと散らかっているのかと思っていたのだけれど、部屋は物凄く綺麗に使われているようだった。さすがに布団の上には座れないので空いているスペースに座ろうと思ったのだけれど、なぜかまー君の両隣は久子さんの友達が座っていた。そうか、もう久子さんが言っていた作戦は始まっているという事ね。そんな事をぼんやりと考えていると各自の自己紹介が始まっていた。


「あなた達の部屋にお邪魔するわけにもいかないから私達の部屋って事でごめんね。じゃあ、自己紹介をしないというのも何なので先に私達から自己紹介をします。私は山下愛です。苫小牧で事務員をしてます。最近婚約者に浮気をされて婚約破棄されました。今は彼氏募集してないけど、この傷が癒えたら紹介お願いします」

「じゃあ、次は私ね。私は川辺良美。苫小牧でアパレル関係の仕事をしています。私も彼氏に浮気されて振られました。しばらく恋愛はいいかなって思ってるんだけど、出来ることなら三十路になる前に結婚したいとは思ってます」

「二人とも重いって。初対面の相手にそんな重いこと言わないでよね。じゃあ、私は佐藤久子です。住んでるのは苫小牧なんだけど職場は千歳空港だね。あんまり表に出る仕事じゃないんで出会いとかは無いんだけど、この二人と違って結婚してます」

「ちょっと久子、結婚マウントやめてよね」

「そうよ。あんたは家事も出来て気配りも凄いし素敵な旦那さんがいるのも当然だと思うけど、今だけはそれを忘れなさいよ。私達は久子がいい子だって事は忘れないけどね」

「はいはい、酔っ払いの戯言はききたくないんで、二人も軽く自己紹介してもらっていいかな?」

「はい、私は佐藤みさきです。こっちは彼氏の前田正樹君です。高校生です」

「高校生なんだ。大学生かと思ってたわ。いや、大学生にしては若すぎるなと思ってたんだけど、高校生だったなんて気が付かなかったわ。それじゃあ、お酒は飲めないね」

「はい、飲めないです。飲んだことないんでわからないけど、私はきっと飲まない方がいいと思ってます」

「え、なんで?」

「お酒って、飲むと抑えてる自分の本性が出てくるって言うじゃないですか。そうなっちゃうと、私は自分の気持ちが抑えられなくなっちゃうと思うんですよね」

「へえ、抑えてる本性って何?」

「えっとですね。私がまー君を大好きだっていう気持ちですね。今よりももっと積極的になっちゃうんじゃないかなって思うと、恐くて飲めないです」

「そっか、ラブラブな二人なんだね。でもさ、ここの旅館って結構高いじゃない。そんな高い旅館に二人で泊まれるなんて、もしかして、二人の家ってお金持ちだったりするの?」

「全然そんな事ないですよ。たぶん普通だと思います。みさきがとある事件に巻き込まれてしまいまして、それで負った心の傷を癒すことが出来るんじゃないかって病院の先生が勧めてくれたのがここだったんですよ」

「勧めてくれたにしてもさ、そんなに気軽に来られるような場所じゃないと思うんだけどな」

「確かに、バスを降りてからあんなに歩くとは思ってなかったですよ。歩いても五分くらいかなって思ってましたもん」

「いや、そういう意味じゃなくてね。金銭的な面でさ」

「あ、それなら大丈夫なんですよ。僕もみさきも巻き込まれた事件でもらった慰謝料がありまして、それを使ってみさきの心のケアをしてますので」

「もしかして、事件って比喩表現ではなくてガチのやつなの?」

「割と重い感じですね。みさきが男に襲われそうになったんですけど、それを僕が阻止したって話なんですけどね」

「そうなんです。私はあの時に恐くて何も出来なかったんですけど、まー君が私を守ってくれて助かりました。でも、その時の恐怖が頭から離れなくて、知らない男性を見るとちょっと怖くなっちゃうんですよね」

「そうだったんだ。怖い事思い出させてごめんね。それにしてもさ、体を張って守ってくれるなんていい彼氏だよね。私の旦那も守ってはくれると思うけど、どっちかって言うと一緒に逃げ出しちゃう感じかもな」

「私も逃げられるなら逃げた方がまー君に危害が及ばなかったと思うんですけど、相手の人が持ってた包丁が怖くて動けなかったんですよ」

「え、包丁を持ってたやつと戦ったってこと?」

「それってガチでヤバいやつじゃん」

「君って凄いね。私の旦那だったら包丁を持ってる相手に立ち向かったりしないわ。絶対に逃げてるね」

「僕も最初は何が起こったのかわからなかったんですけど、みさきが動けないみたいだったんでやるしかないなって思ったんだと思います。正直に言っちゃうと、その時の記憶ってあんまりないですよね。たぶん、みさきを守ろうって気持ちだけで一杯だったんだと思います」

「いや、それにしても凄いわ。お姉さんは感心しちゃったよ。よし、お姉さんのおっぱいを揉んでもいいよ」

「そうね。愛ちゃんのだけじゃなくて私のも揉んでいいわよ」

「ちょっと、愛も良美もやめなさいって。二人とも困ってるじゃない」

「いえ、そう言うのは大丈夫ですから。僕にはみさきがいるんで、申し訳ないですけど二人の胸を揉むことは出来ないです」


 やっぱりね。まー君はそう言って断ってくれると信じていたよ。

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