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ヤンデレ彼女×サイコパス彼氏≒純愛  作者: 釧路太郎
第二部 二人だけの世界編
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温泉での出来事(女湯)

 温泉に一緒に入れないのは残念だったけど、この旅館は料理も美味しいと評判なので食事の時間がずっと楽しみだった。石屋田先生は何度も温泉と料理の話をしてくれていたのだけれど、旅館に併設されているレストランなので和食も洋食も美味しいという事を耳にタコが出来るくらい聞かされていた。ただ、石屋田先生の話では昼にだけ提供されるラーメンとチャーハンも美味しいとのことだった。


 レストランは宿泊客専用スペースが仕切られてはいるのだけれど、それ以外のスペースは集落の人達やレストラン目当てでここに来ている人達が次々とあいている席を埋めていった。ざっと見た感じではあるが、今日の宿泊客は私達を入れても三組ほどのようだった。ただ、私達以外には陽気なお姉さんたちがいるだけでもう一組の姿は見えなかった。

 私達は用意された席に通されたのだが、私の席は他の客席が見えにくい窓を向いた席だったのだ。きっと、石屋田先生から私が知らない男性に対して恐怖心を抱いてしまうという事を聞いていた旅館側の配慮なのだろう。そう言えば、チェックインの時からずっと私は男性の従業員と会った記憶が無かった。それも旅館側の配慮だとしたら、私はとんでもないおもてなしを受けているのではないだろうか。

 もちろん、そんな気配りの行き届いた旅館の料理がまずいはずが無く、どれもとても美味しかった。食べる順番も計算されているのか、最初から最後までずっと美味しいまま食事は終わりを迎えたのだった。ただ、欲を言ってしまえば、どれも美味しすぎたため食べ過ぎてしまったという事だ。旅行に向けてダイエットも頑張っていたのだけれど、この一回の食事で今までの苦労がパーになってしまったような気がしていたのだが、よくよく考えてみると今日は昼食をちゃんととっていなかったのでセーフのような気がしていた。いや、昼食をとっていないとはいえ今食べ過ぎてしまっては意味が無いのではないかとお腹をさすりながら考えてしまっていた。


 ちょっとだけ動くのが面倒になっていたのだけれど、日中もたくさん歩いて汗をかいているのでこのまま寝るわけにはいかなかった。もしも、家で一人だったのなら簡単にシャワーで済ませていたのかもしれないけれど、今日は旅行で一緒に居るのがまー君なのでそう言うわけにもいかない。むしろ、いつも以上に綺麗にしておかなくてはいけないのだ。

 私はいつものようにまー君の斜め後ろで手を握って歩いているのだけれど、街灯の少ない田舎道は虫の鳴く声も相まって少しだけ寂しい気持ちになってしまった。きっと、これから別々のお風呂に入らなくてはいけないという悲しさもあらわされているのだろう。街灯の切れ間から眺めた星空は私が思っているよりも少ない輝きだったのだが、その一つ一つはどれも綺麗に輝いて見えた。


 温泉に着くと、私とまー君は悲しいけど男湯と女湯で別々に別れていった。今日は露天風呂が使えるという事だったのだが、まー君と一緒じゃないという事で少しだけ損をした気分になっていた。

 脱衣所にはお風呂上がりの人達が何人かいたので軽く挨拶をしたのだが、その人達は皆私に笑顔で挨拶を返してくれていた。全く見ず知らずの人達ではあったのだけれど、その誰もが私と親戚なのかと思うくらいに優しく笑いかけてくれていたのだ。

 私は服を脱いでロッカーにしまいながらおばさんたちの話を聞いていたのだけれど、どうやら私の他にも旅行客が温泉に入っているらしい。先ほど食堂で見かけたお姉さんたちなのか、それとも食堂では見かけなかったもう一組の人達なのかわからないけれど、温泉に入ってしまえばわかるかと思って私は露天風呂へと向かった。

 夏とはいえ外は少し寒かった。おそらく、山に囲まれている集落なので昼夜の寒暖差は大きいのだろう。私はさっとかけ湯をしてから体を洗っていた。体が冷えそうになるのを我慢しながら洗っていたのだけれど、いつの間にか隣にいたお姉さんが私に話しかけてきた。


「こんばんは。あなたは旅館に泊まっている子だよね?」

「はい、そうですけど。お姉さんも同じ旅館に泊まってるんですよね?」

「そうなの。さっき食堂でチラッと見かけたんだけど、彼氏と旅行なのかな?」

「そうです」

「良いな。若いうちから恋人同士で旅行なんて羨ましいよ。私はね、女だけで旅行してるんだけどさ」

「女性だけの旅行って楽しそうですけど、楽しくないんですか?」

「いや、楽しいは楽しいんだけどね。私の友達は二人とも温泉よりもお酒って感じなんだよね。あ、一人は凄く弱くてすぐ寝ちゃうんだけどさ、もう一人は誰かといれば延々と飲ん出られるって感じなんだよね」

「私はお酒飲んだことが無いのでわからないですけど、なんだかた大変そうですね」

「へえ、お酒飲んだことないんだ。飲み会とかでも飲んだりしたことないの?」

「あ、私は未成年なんでお酒の飲み会とか行った事ないんですよ」

「未成年でも飲み会くらい言ったことあるでしょ。大学のサークルとかコンパとかさ」

「えっと、私は高校生なんです。なので、飲み会とかは本当に無いんですよね」

「え、高校生だったんだ。良美の言ったとおりだったか。あ、良美ってのは私の連れでずっとお酒飲んでる方ね。今も部屋で飲んでるのかもしれないな。私も飲もうって誘われたんだけどさ、寝る前にもう一回温泉に入りたいからって断っちゃった。あ、体を洗い終わったなら温泉に入ろうよ」

「あ、はい」


 横に座っている時から何となく気が付いてはいたのだけれど、このお姉さんは凄くスタイルがいい。ハッキリと見たわけではないので何とも言えないけれど、ウエストもきゅっと締まっているし出ているべきところもそれなりに出ていらっしゃる。私は自分の体をなるべく直視しないようにして温泉の中へとゆっくり入っていった。


「高校生で彼氏と旅行とか羨ましいな。私もさ、高校生の時に彼氏と旅行に行きたいなって思ったことはあったんだけどね、バイトもしてなかったし親の説得も出来なかったんで諦めちゃった」

「そうですよね。私もずっと旅行に行きたいとは思ってたんですけど、その二つの問題があったんで諦めてたんですよ。でも、ちょっとしたことがあって旅行に行けることになったんです」

「へえ、どんなことがあったか言える範囲で教えてもらってもいいかな?」


 私はちょっと前にあった出来事を掻い摘んで話してみた。お姉さん、久子さんは私の体験した話を聞いて目に涙を浮かべていた。そんなに悲しい話ではないし、男性と話せないのもまー君がいれば問題ない事なのでそんなに悲しまなくてもいいのになと私は思っていた。


「みさきちゃんの彼氏のまー君って凄いね。私は感動しちゃった。私がみさきちゃんの立場で彼氏がまー君の立場だったとして、刃物を振り回しているような危険な男に立ち向かってくれるのかって考えるとさ、こうして話している時は出来ると思うかもしれないけど、いざ目の前にしてみると動けないと思うんだよね。それって、まー君は本当に心の底からみさきちゃんを助けたいって思ってたって事なんじゃないかな」

「はい、そうだと思います。私もまー君もお互いの事を一番に考えていると思います。でも、私は自分の事よりもまー君に怪我が無くてよかったなって思ってるんですよ」

「二人とも思い合ってるってことだね。本当の意味での両想いだね。羨ましいな。いや、私も旦那とはそうだと思ってるんだけどさ、実際はどうなんだろうって考えると不安になることはあるよね。でも、ウチの旦那も守ってくれるとは思うんだよね」

「久子さんがそれだけ信頼してるって事は、旦那さんもきっとその信頼に応えてくれると思いますよ。私は結婚したことが無いんでわからないですけど、きっとそうだと思います」

「でも、相手が男だからそうやって立ち向かったのかもしれないけど、女の人から誘惑されたらどうなるんだろうね?」

「まー君なら誰に誘惑されても断ると思います。実際に私の友達がまー君に色々仕様としたことがあったけど、それは全部断られてましたから。誰がまー君を誘惑しても意味が無いと思います」

「そうなのかもしれないけどさ、みさきちゃんもそれが今もそうなのか試してみたいって思ったりしないかな?」

「思ったりはしないです。だって、確実に断ると思いますもん。やるだけ無駄だと思いますよ」

「じゃあさ、私の友達が最近失恋したばっかりで男に飢えているんだよね。もちろん、最後まではしないって約束するし、そうなりそうだって思った時は私が責任をもって止めるんで、まー君にドッキリを仕掛けてみない?」

「そんな事をしても意味ないと思うんですけど。まー君が久子さんの友達の誘惑に乗らなかったらどうするんですか?」

「そうだね。みさきちゃんは何か欲しいものあったりするかな?」

「欲しいものは無いんですけど、久子さんみたいにスタイルが良くなる秘訣を教えてください」

「それくらいならお安い御用だけど、私よりも良美に聞いた方がいいかもね。あ、良美ってのは胸の大きい方ね。みさきちゃんはまだ若いんだしこれからどんどん大きくなっていくと思うから、良美にバストアップの秘訣を聞いてみるのもいいかもね」

「あの、バストアップが目的だと思ってるみたいなんですけど、そうじゃないですからね」

「そう言う事にしておくよ。でも、私も二人の様子を食堂で見ていた時に思ってたんだけど、まー君ってみさきちゃんのこと以外全然見てなかったもんね。レストランのあの席ってまー君からは全部の客席が見えたと思うんだけど、本当にみさきちゃんと料理以外は見てなかったと思うよ。それってさ、本当に他人の誘惑に何て乗らない人の特徴なのかもね」


 なぜかわからないのだけれど、まー君がドッキリにかけられることになってしまった。私としてはそれに関しては何とも思わないのだけれど、彼氏に振られたばかりだという久子さんの友達はまー君を誘惑することに失敗しても傷が深くなったりしないのだろうか。それだけが心配だったのだが、久子さんは一足先に温泉から出て旅館に戻っていったのだった。

 私は露天風呂から見える空を眺めていたのだ。一瞬だけ流れた星をただ目で追うだけで精一杯で願い事を唱えることは出来なかった。ただ、まー君にどれくらい温泉に入っているか言うのを忘れていたし、聞くのも忘れていたのを思い出した。

 まー君が先に上がって待っていたら申し訳ないなと思いながらも、私は温泉の気持ちよさに負けてしまい、もう少しだけ浸かっていることにしたのだった。ふと見上げた星空は流れ落ちたりすることは無かったのだが、私の願い事を叶えてくれるような星空に見えていた。


「まー君と一緒に寝られるといいな」

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