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ヤンデレ彼女×サイコパス彼氏≒純愛  作者: 釧路太郎
第二部 二人だけの世界編
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その後一緒の布団で

 僕とみさきは自分たちの部屋へ戻った。あのお姉さんたちとみさきがどういった関係だったのかは聞いていないのだけれど、きっとどこかのタイミングで仲良くなってみさきがそそのかされたのだろう。そうでなければみさきが僕と離れて温泉に行くはずがないのだ。でも、そうだったとしても僕はみさきを責めたりはしない。だって、僕はみさきの事が好きだからね。


 部屋に戻ると布団が二組敷いてあった。少し離れて敷いてあったのだが、いつものみさきなら離れている布団を近付けると思うのだけれど、今日はそうすることも無く窓際に洗面道具を並べて外の景色を眺めていた。

 外を眺めるみさきの背中が寂しそうで、僕はいたたまれない気持ちになってそっと後ろから抱きしめた。一瞬みさきはびっくりしたようなのだが、僕の手を優しくなでるとそのまま僕に体を預けるように寄りかかってきた。


「今日はいつもと違ったけど何かあったのかな?」

「うん。温泉に行った時にあのお姉さんたちと仲良くなってね、私達がラブラブだって事を教えてたら、まー君の事を試してみようって言ってお部屋に行くことになっちゃったの」

「そうだったんだね。でもさ、そんな事をしなくてもみさきは僕の事をちゃんとわかってるよね?」

「うん、まー君の事を信じてるから。でも、お姉さんたちはそんな事ないって言ってまー君を誘惑してみせるって言ってきかなかったの。私はあんまり乗り気じゃなかったんだけど、あのお姉さんたちが男に捨てられたばっかりだったからってちょっと可哀想になっちゃって。まー君みたいに素敵な人がいるんだよって教えてあげたくなっちゃったの」

「それで、あの人達にちゃんと教えることが出来たと思うかな?」

「出来たと思うけど、あのお姉さんたちにはまー君みたいな素敵な人は振り向かないんじゃないかなって思うんだよね」

「なんでそう思うの?」

「だって、お話を聞いてたら、相手の事じゃなくて自分の理想を押し付けようとしているようにしか思えなかったからね。でも、久子さんだけはそんな事なかったな。最後まで私にもまー君にも謝ってたからね」

「久子さんって、みさきと一緒に温泉に行った人だよね?」

「そう。私は久子さんにどうしたら結婚生活がうまく行くのか秘訣を聞いてたりしたんだ。今はまだ早いかもだけど、まー君に負担をかけないようにするにはどうしたらいいかなって思っててね」

「僕の事を考えてくれるなんて嬉しいな。僕もみさきの幸せを一番に考えているよ。でもね、今のままでも僕は幸せだし、これからもっともっとお互いに幸せになっていけると思うんだ」

「嬉しい。私も一生懸命頑張るね」


 僕の方を向いたみさきの目はいつもよりも潤んでいた。その瞳は蛍光灯の灯りを反射させているのかいつもよりもキラキラと輝いて見えた。僕は正面を向いたみさきを抱きしめると、そのまま背中を優しく撫でていた。みさきは僕の手が動くたびに少しだけビクッと反応していたが、僕を抱きしめるその手に力が入ることは無かった。きっと、みさきなりに反省して我慢しているのだろう。

 僕はみさきからいったん離れると、窓側においてある椅子に座らせてその場を離れた。みさきは少し寂しそうに僕を見ていたけれど、旅館に戻ってきたときに買っておいたお茶を持ってくると少しほっとしたように見えた。


「ぬるくなっちゃったけど、お茶飲むかな?」

「うん。私はあんまり冷えてない方が好きだから」

「知ってるよ。みさきは冷たい飲み物あんまり好きじゃないもんね」

「まー君もでしょ」


 そう言ってみさきは笑ってくれた。先程のような思い詰めていたような顔ではなく、いつもの嬉しそうにしているみさきの顔に戻っていた。室内の灯りがあまり届いていないのでその表情をはっきりとみることは出来ないが、さっきよりも嬉しそうにしているという事だけは僕にもわかるのだった。

 ただでさえ街灯の少ないこの集落ではあったが、夜も遅くなると必要最低限の街灯以外は消えてしまっているようだった。自動販売機もほとんどないこの集落に灯される灯りはいくつかの街灯と公民館らしきところの玄関についているポーチライトだけのようだった。この集落は夜更かしする人がほとんどいないようだった。

 といっても、旅館の裏手の方が住宅が多いのでそうとも言い切れないのだが、僕達が泊っている部屋から見える集落にはほとんど人が住んでいないような印象を受けるのだった。街灯も無く、民家の灯りも無い。そんな景色はどことなく悲しいものを感じてはいたが、それと同時に僕達二人しかこの世界にいないのではないかという印象さえ与えていたのだった。

 僕は何となく室内の灯りを消してみたのだが、月明かりもそれほどないので室内に何があるのかもはっきりとはわからないくらいの闇に包まれてしまった。それでも、みさきと一瞬だけ目が合ったのだが、そのままみさきの視線は外の景色へと動いていった。僕も同じように外を見ているのだけれど、室内が暗くなったせいか少しだけ集落の様子が見えているように思えた。だが、見えていたところで何もないという事には変わりないのだった。


「今日が満月だったらもっと綺麗に景色が見れたのかな?」

「どうだろうね。今でも山の稜線は何となくわかるけれど、それでも今とそんなに変わらないような気がするな。灯りに照らされるようなものも無さそうだしね」

「そうだね。こっちの部屋は夜だとあんまり見えるもの無さそうだもんね」


 僕はうすぼんやりと照らされるみさきの姿に見とれていた。先ほどまで一緒に居たお姉さんたちも世間一般からしてみたら綺麗で魅力的なのかもしれない。でも、僕はみさき以外の人をそういう目で見ることが出来ないのだ。もしかしたら、意識の奥の方でそう思うことがあるのかもしれないけれど、僕がそう感じて何か行動するという事はないのだった。


「どんな時でもみさきは綺麗だよ。僕の目にはみさきしか映ってないのかもしれないって、あのお姉さんたちと話してわかったかもしれないな」

「ありがとう。私も」


 僕はテーブルに左手をついたまま右手を伸ばし、その右手でみさきの顔を優しく撫でた。みさきは僕のその行動を受け入れると、そのまま目を閉じて僕の右手を両手で優しく包み込むようにして頬を僕に預けるようにしていた。僕はそんなみさきがいとおしくて、みさきの頬をなでたままみさきの隣に移動した。

 一人用の椅子だったので一緒に座ることは出来なかったけど、そのまま抱きしめるとみさきは嬉しそうにしているのがわかった。僕も嬉しかったのだけれど、それ以上は何もしなかった。みさきはキスをしたそうにしていたのだけれど、僕はみさきの気持ちに応える事はしなかったのだ。

 それからどれくらい経ったのだろうか。僕は時間を確認するためにテレビをつけたのだけれど、そこに映るのは見たことも無いような風景の映像だった。スマホで時間を確認してみるともうすぐ二時になろうとしていたのがわかった。そろそろ寝ようかなと思ってみさきに布団を促すと、みさきは渋々といった様子で自分の布団へと入っていった。

 僕も自分の布団に入って目を閉じているのだけれど、色々と考え事をしているためか眠気は一向に襲ってくることは無かった。いつもの事ではあるのだけれど、僕は人並み以上に寝つきが良くない。一週間の平均睡眠時間は常人の半分くらいだと思うのだけれど、それでも体調が悪かったり調子が出ないと言ったことも無いので問題はないのだろう。それに、今日は旅行先の旅館といういつもとは違う慣れていない場所という事もあるのだから、なおさら眠れなくても仕方ないことだろう。

 隣にみさきがいるという安心感はあるのだけれど、なぜか僕はみさきに背を向ける形で横になっていた。それに関しては深い意味などないのだけれど、僕がいつもこの向きで寝ているだけという事なのだ。


「ねえ、まー君は寝ちゃったかな?」


 僕に尋ねるみさきの声は寝ている人を起こさないように抑え気味ではあったが、起きているのならばハッキリと聞こえるような程度の声量だった。その声にはみさきの気配りと寂しさが混ざってるようで、僕もそれに応えようとは思ったのだけれど、今日の僕はそのみさきの声に応えることは無かった。


「まー君が寝ちゃってるならそっちに行ってもいいかな?」


 寝ちゃってるならそっちに行ってもいいかなというのは少しおかしな表現にも思えた。普通であれば寝ている人の邪魔になるようなことはしないだろう。でも、みさきは僕が寝ているなら一緒の布団に入りたいという事なのか?


「返事がないならそっちに行っちゃうよ」


 みさきは僕に質問を投げかけてから数秒も待たずに僕の布団をめくって僕の背中にぴったりとくっついてきた。ただ、みさきは自分の体と僕の背中の間に自分の手を入れているため、体が完全に密着することは無かったのだった。それでも、みさきの顔が僕の枕のすぐ近くにあるのはわかっていた。


「みさきは枕が無くても大丈夫なの?」

「いつも使ってる枕じゃないと寝れないかも」

「そうなんだ」


 みさきは僕が起きているという事を知っていたと思うので、僕がみさきに話しかけたことに驚くことは無かった。枕が変わると眠れないというのは本当にあるのだなと思っていたのだけれど、僕はどんな枕でもそれほど寝つきが良くないのだから知らなくて当然の事だなって思ってしまった。

 僕は寝返りを打つようにみさきの方へ振り向くと、そのまま自分の右手をみさきの頭の下へと入れた。みさきはそれに驚いていたようだったが、僕の右手を触りながら嬉しそうに頭の位置を調節していた。みさきの頭の位置が落ち着くと、僕は空いている方の左手でみさきの体を包み込むようにして目を閉じた。

 みさきも僕の体に右手を乗せると、何か言っていたようだ。僕にはそれが何なのか聞き取ることは出来なかったのだけれど、少しだけ目を開けてみたみさきの顔が幸せそうだったので気にしないことにした。


「おやすみなさい」


 みさきはそう言った後に軽くキスをしてきたのだが、僕もそれに軽いキスで返すことにした。不思議な事に、僕は隣に誰かいると全く眠れないのだが、みさきがすぐ隣にいるといつの間にか眠りに落ちていた。


 修学旅行の時はいつも以上に眠れなかったというのに、隣にいる人が違うだけでこれほど安心して眠れるもんなんだなと思っていた。僕はみさきの幸せそうな寝顔を見ながらそう思った朝だった。

 いつもと睡眠時間は少ししか変わらないのに、頭も体もすっきりとした爽やかな朝を迎えることが出来たのだった。

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