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ヤンデレ彼女×サイコパス彼氏≒純愛  作者: 釧路太郎
第二部 二人だけの世界編
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再出発

 夏休みを利用してどこかへ行こうかと計画を立てていたのだが、アルバイトもしていない僕たちがその計画を実行するだけの予算を確保することなど出来るわけもなく、かと言って今からアルバイトを始めたところで夏休み中にどこかへ旅行に行けるというわけでもないのだ。

 手っ取り早くお金を稼ぐにはそれなりに悪いことでもしなければいけないと思ってみたものの、僕もみさきもそんな事をするつもりなど毛頭なかったのだ。誰にも迷惑をかけずに手早くお金を稼ぐ方法、そんなものがあるとすれば、僕たちではない他の誰かがもう実行しているはずだ。

 今年の夏休みは諦めてアルバイトに精を出して冬休みや春休みなんかに旅行に行くという計画を立てる方がよほど現実的ではないだろうか。そう思う事は多々あるのだが、僕たちは今すぐに一緒に旅行へ行きたいのだ。

 どうしてそこまでして旅行に行きたいのかと聞かれても、その答えはみさきと二人でどこかへ行きたいから。そう答えるしかない。それ以外に答えなどないのだから。


 そんな僕らが旅行に行くための大金を手に入れることが出来たのは本当に偶然だったと思う。

 みさきと一緒に下校している途中に立ち寄った神社で僕とみさきは包丁を持った男に襲われたのだ。そいつは僕を刺してみさきに暴行を働こうとしていたようなのだが、当然僕はそのような事をさせるはずもなく、背負っていたリュックを振り回して相手の顔面を何度も何度も殴り続けた。僕が傍観の相手をしている間にみさきは警察に電話をしていたので間もなく通報を受けた警察官が神社へやってきたのだが、その時にはすでに傍観は意識を失っていたのだった。僕はこの時ほど置き勉をしなくて良かったと心から思ったことは無かった。

 僕はリュックを振り回していた時はみさきを守るという気持ちでいっぱいだったのだが、警察官い制止されて冷静になって自分の状況を確認すると、これはやりすぎなのではないだろうか。所謂、過剰防衛というやつになってしまうのではないか。そう思うようになっていて、襲われた時はみさきを守らなくてはという気持ちで熱くなっていたのだが、そう考えるようになった時には一気に血の気が引いていくのを感じていた。

 しかし、相手は包丁を持っているという事と襲われた僕たち二人が未成年であるという事もあり、幸いなことに過剰防衛ではなく正当防衛という事が認定されたのだ。それならもう少し派手にやっておけば良かったなと後悔することもあったのだけれど、みさきに怪我が無かったという事が嬉しかった。

 僕たちと言うか、僕を殺してみさきを襲おうとした男はどこかの企業の役員の息子だったらしく、それなりにまとまった額の慰謝料を貰えることになったのだが、それは民事の話であって刑事罰はきちんと受けることになるようだ。僕にとってはそんな事はどうでもいいことだし、みさきの心に何か傷が残っていないかという事の方が心配だった。

 そんな事もあり、僕たち二人はこの事件で負った心の傷をいやすために二人で旅行に出かけられることとなったのだ。慰謝料を心の傷を癒すことに使うというのは悪いことではないはずだし、僕たちの両親も家族もそれに反対する事はなった。みさきのお姉さんは少しごねていたけれど、大学受験に集中してもらうためにも僕たちの旅行には着いてこないように釘を刺すことにはなったのだが。


 僕たちの旅行にそれぞれの家族は同意してくれたのには普段の行いの良さもあると思うのだが、それ以上にみさきが僕以外の男性に恐怖感を抱いていたという事も影響していたと思う。僕以外の男性、みさきのお父さんや学校の先生がみさきに近付いただけでもみさきは委縮してしまい固まってしまっている。病院の先生に診てもらってもそれは精神的な問題であり、信頼出来る相手と時間をかけて解決していくことが必要だと診断されたのだった。みさきのお父さんは自分が信頼されている相手ではなかったと落ち込んでいたのだが、その場で助けてくれた僕の存在がとても大きくなっているだけだからとフォローされていたので納得はしてくれていたようだった。


 僕たちはもらったお金で知っている人がどこにもいない場所へ行こうと計画を立てたのだが、そんな場所は意外と思いつかなかったし、なるべくなら人のあまりいない寂れた場所へ行こうということになった。テーマパークのように日常を忘れられる場所に行けばみさきの心の傷も癒えるのかもしれないのだが、それよりも移動中やテーマパーク内に他の男性が多くいるという事が何かしらの悪影響を与えるかもしれないと考えると、その提案は否定されることになるのだ。

 そんなわけで、僕たちは診察してくれた先生のお勧めである山奥にある温泉宿に向かう事となった。電車とバスを乗り継いで少し歩いた場所にあるそうなのだが、バスを降りてから一時間は歩いているのに目的地にたどり着けるような気がしていない。降りる時にバスの運転手にも確認はしたのだが、どこにも脇道のない一本道だったので間違えようも無いはずなのだが。

 みさきは僕と手を繋いでいないと不安になってしまうので最近では常に手を握っているのだが、握る力がいつもより強く感じているのはこの道があっているのか不安だからなのかもしれない。辺りは少しだけ鬱蒼としているのだが、朝早くに家を出たこともあってまだまだ日も高くて木漏れ日が気持ちよい。これが夕方になると印象は変わりそうだし、完全に陽が沈んでしまえば別の世界に迷い込んでしまったと錯覚してしまいそうだと思っていた。


「ねえ、あそこに何か書いてあるよ」


 みさきは僕の手を強く引いたと思うと立ち止まって何かを指さしていた。繋いでいない方の左手でそれを指しているのだが、そこには草むらに隠れて見えにくくなってはいるのだが看板が設置されていた。

 僕はそれを確かめるために草むらに入っていくことになるのだが、みさきは草むらに入るのが嫌なようで道路から外へは出ようとしなかった。必然的に僕らは手を離すことになるのだが、みさきは何かに捕まっていないと不安だったようで、先ほどまで左手でひいていたキャリーバッグを両手で抱きかかえるように包み込んでいた。


 僕は草むらをかき分けて看板を確認しに行ったのだが、足元は歩きにくいということも無く、意外と整備はされていたようだった。今では全く誰の手も入っていないためだとは思うのだが、草木は乱雑に生えていて、この道を歩いて使っている人は誰もいないという事を如実に物語っているのだ。

 看板に近付いてみると、薄くなってはっきりとは見えないのだが、かろうじて解読できそうな文字が書かれていた。



『コノ先、日本国憲法通用セズ』

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