密談 前田正樹の場合
「あの、妹が迷惑をかけたみたいでごめんなさい。それじゃ、私はここで失礼します」
「ちょっとお姉ちゃん。私が迷惑をかけたってどういう意味よ。それに、挨拶だけして帰るなんて失礼だと思わないの?」
「そんなこと言ったって、ここまで前田君たちを連れてきた撫子ちゃんの方が失礼だと思うけど」
「何言っているのよ。私のどこが失礼だっていうのよ。お姉ちゃんだって先輩に会いたいって言ってたじゃない。私はそんなお姉ちゃんのために先輩を家まで連れてきたんだからね。お姉ちゃんは私にとやかく言う前にお礼を言うべきなんじゃないのかな?」
「そんな、私は前田君に迷惑かけたくないって言ってるじゃない。それに、今は前田君も女の子と一緒にいるみたいだし、私にかまっている時間なんて無いんじゃないかな」
「もう、お姉ちゃんってどうしてそんな感じなのかな?」
「撫子ちゃんも私の話を聞いてくれないじゃない」
「わかったわよ。私は先輩の彼女さんとちょっと話があるからお姉ちゃんは先輩と昔話でもしてなよ。昔話って言っても桃太郎とかそういうのはやめてよね。先輩の自称彼女さんちょっといいですか?」
久しぶりに会った花咲さんはそこまで変わっている様子は無いようだった。僕も変わったところはないと思うし、久しぶりと言ってもそれほど時間が経っているわけでもないのだから当然と言えば当然だった。
みさきと少女が何か話した後に庭の方へと移動していったのだけれど、こうして玄関前に立って話すのも少し気まずい空気になってしまった。かと言って、家の中にお邪魔する気にもなれないし、どうしたらいいものかと悩んでいたところ、ちょっと歩いたところに公園があるからと言ってそこに移動することになった。
僕の少し前を歩く花咲さんの後について行ったのだけれど、公園というには何もなく、ただベンチが数基あるだけの小さな空間だった。
ベンチの端に花咲さんが腰を下ろしたので、僕もその反対端に腰を下ろした。沈黙が少しだけ気まずい。
「あの、今日も妹が迷惑をかけたみたいでごめんなさい。私が何を言ってもあの子は昔から聞いてくれなくて、この前もそんな感じだったし、ごめんなさい」
「いや、それは良いんだけど。花咲さんは元気そうでよかったよ。あれから変わったことは無かったかな?」
「私は特に。前田君は?」
「僕もそんなには、彼女が出来たくらいかな」
「一緒に来た人だよね?」
「うん、そうだよ」
「よかった。前田君にお似合いな彼女だと思うよ。話したことは無いけど、なんとなくそう思うよ」
「そう言ってもらえてよかった。花咲さんはどうなの?」
「私は全然だよ。男の子とこうして話すことも無いし、最後にちゃんとこうして話したのも前田君だったような気がしてるくらいだしね。でも、彼氏は欲しいなって思うこともあるんだけど、私にはあの妹がいるからそれは難しいかもしれないな」
「花咲さんは大変だね。ちょっと言いにくいけれど、僕は花咲さんの妹さんって少し苦手なんだよね。ちょっと、強引っていうか思い込みが激しい感じがね」
「他の人から見てもやっぱりそう見えるよね。撫子は良い子なんだけど、一つの事に執着すると周りが見えなくなってしまうというか、他の事を気にしなくなっちゃうんだよね。それで前田君にもたくさん迷惑をかけてしまったし、ごめんなさいね」
「済んだことだし気にしなくていいよ。僕もあの時はちょっと困ったけど、今となっては済んだ話だからね。それに、花咲さんの意外な面も見れて良かったと思うよ」
「そう、それならよかった。実はね、前田君に会いたいなって時々思ってたんだよね。あ、でも、付き合いたいとかそういうのじゃないからさ。前田君ならわかってくれると思うけど、私って友達が少ないんだよね。それで、ちゃんと話が出来る前田君に会いたいなって思いが口から出ちゃってたみたいで、それを聞いた撫子が無理やり前田君を連れてきちゃったのかもしれないんだ。私のせいで迷惑をかけてしまってごめんなさい」
「いや、別に会いたいんだったらそう言ってくれたらいいんだけど、僕で良いんだったら喜んで来るからさ。でも、彼女を優先させてもらうから毎回ってわけにはいかないと思うけどね」
「うん、それは大丈夫。前田君が優しい人だって知っているし、撫子だって本当は良い子なんだよ。ちょっと強引すぎたところもあるけど、こうして私を前田君に会わせてくれたしね。よかったらなんだけど、彼女さんも一緒に遊びに行けたりしたら嬉しいな」
「そうだね。そのあたりもみさきに聞いてみるよ。たぶん、みさきも嫌な顔はしないと思うからさ」
「ありがと。でもね、本当に空いている時でいいんだからね。私も前田君に迷惑かけたくないからさ」
「気にしなくていいんだよ。花咲さんは他の女子となんか違うし、妹さんもアレが無ければいい子だと思うからね」
「そうなのよね。撫子はちょっとアレなだけで良い子なんだよね」