宿題 前田正樹の場合
散歩をしているとみさきとばったり会うことが出来た。みさきも散歩中だったらしく、いつもとは違うラフな格好だった。せっかくだからという事で、一緒に散歩をしていたのだけれど、みさきは人通りの少ないところへ誘導しようとしていた。
俺はその誘導を無視して人通りの多い商店街へと誘う事にした。
「いつも行かない店を見てみないかな?」
「まー君は何か欲しいものでもあるのかな?」
「みさきに似合いそうなものがあればいいなって思ってさ」
「それなら、お揃いでつけられる物がいいな」
人前で仲良くするのは平気なんだけど、一緒にいない時に同じものを持つことは照れ臭かった。それでも、みさきが喜んでくれるなら試してみようかなと思って、いろいろな店に行ってみたのだけれど、みさきのお眼鏡にかなうようなものはなかった。
「どれも魅力的なんだけど、イマイチ日常生活で使いにくそうなのよね。まー君と同じものなら普段使いもしたいし、学校でも自慢したくなるよね」
「学校はアクセサリーとか大丈夫なのかな?」
「そうね、アクセサリーじゃなくて文房具とかでもいいと思うな」
それならという事で、俺はたまに行く大型書店の文具コーナーに行く事を提案してみた。みさきはそこから近くにある大型複合施設のファンシーなショップを提案してきたのだけれど、俺がそこの商品を日常使いできるかと考えてみると、答えは出来ないだった。みさきも提案した後で気付いたようで、俺の勧める文具コーナーで妥協してくれた。
二人で色々見ていたのだけれど、ペンや消しゴムなんかは他にも同じものを使っている人がいたような気がするので、どれがいいのかと色々見ていると、メッセージを入れられるキーホルダーが目に入った。
このキーホルダーに何か書いて入れたら二人だけのモノになると思うのだけれど、みさきはどう思うのかな?
俺がそのキーホルダーに手を伸ばそうとすると、みさきも同時に手を伸ばしていた。二人同時に手を伸ばしたことがおかしくもあり照れ臭くもあったので、俺達は顔を見合わせて笑ってしまった。
「こんなにたくさんあるのに、同じものを取ろうとするなんて面白いね」
「ああ、俺はこれがみさきに合うと思ってたんだけど、みさきも自分に合うと思ったのかな?」
「え、私はまー君に似合うかもって思ったんだよね。お互いに似合いそうっていいかも」
「じゃあ、これにしておくかい?」
俺はそれを二つ手に取るとそのままレジに向かって清算を済ませた。みさきはカラフルなペンを何本か買っていた。一緒に店を出ると、そのままそこから近くにある公園のベンチに向かう事にした。
公園はそれほど人も多くなく、風もそれほど強くないので快適な感じで休憩することが出来た。しばらくの間はなんでもない話をしていたのだけれど、公園で遊んでいる子供たちを見ていると、みさきが先ほど購入したペンを取り出して僕が買ったキーホルダーに何か書こうと言ってきた。
「ねえ、何を書こうか?」
「こういうのって何を書くのが正解なんだろうね?」
「とりあえず、生年月日と血液型でも書いておく?」
「それがいいかもね」
「でもね、裏に愛のあるコメントを書いて欲しいって思うんだけど。ダメかな?」
「全然いいよ。俺にも書いてもらえるかな?」
「うん、でも、たくさん言葉がありすぎてこの紙には入りきらないかも」
「俺もそうかもしれないな。じゃあ、とりあえず家に持ち帰って明日の朝に交換する?」
「わかった。じゃあ、明日の朝も迎えに行くね」
「それなんだけどさ、明日は迎えに来なくてもいいよ」
いつも迎えに来てもらってるのが申し訳なくて、明日は俺がみさきを迎えに行く事にしよう。そうすれば愛華先輩とみさきが一緒にいる時間も短くなりそうだし。
「それって、朝は一緒に居たくないって事かな?」
「ちがうよ」
「私って何か悪いことした?」
「そうじゃなくって」
「じゃあ、朝じゃなくて夜から迎えに行っていいのかな?」
俺はみさきの肩をしっかりと掴んで目を見ると、みさきの目の焦点が俺に合ったような気がした。みさきは我に戻って落ち着きが無くなってしまったけれど、俺はそのまま目を見続けた。
「あのね、いつも迎えにきてくれて感謝しているんだけど、毎朝だと大変じゃないかなって思っていたんだよ。だから、これからは順番に迎えに行った方がいいんじゃないかなって思ったんだよ。みさきは大変じゃないのかな?」
「え、あ、う、え、あ、うん。私は大変だって思った事無いよ。まー君を家の前で待っているのが好きだし、待っている間に色々考えられて嬉しいんだよ」
「それならいいんだけど、俺が迎えに行けばもう少しゆっくりできるんじゃないかな?」
「朝の準備なら寝る前に大体やってるから大丈夫なんだけど、少し眠い時があるのは事実かも。朝はそんなに弱くないんだけど、少しゆっくり出来たらいいかも」
「じゃあ、明日は俺が迎えに行く事にするよ」
「ありがとう。でも、愛ちゃん先輩にバッタリ会っちゃうかもしれないけど、変な事しちゃだめだよ」
「変な事はしないけど、攻撃されないように近付かないようにはするよ」
お互いに生年月日と血液型を書いたメモを交換して、キーホルダーをそのままポケットにしまった。今見返してみると、これは唯も好きそうな感じなので、気付かれないようにしばらくは隠しておかなくちゃ。
「ねえ、この前言った事だけどさ」
「何かな?」
「まー君とキスしたいって言った事だけど」
俺は思わず身構えてしまったけれど、みさきは俺の手を握るとそのまま歩き出した。いつもみたいに楽しそうに笑っているのが印象に残った。
「まー君が私の事を大切に思っていてくれるのはわかっているんだよ。だからね、キスしたいなって思ったんだけど、今すぐじゃなくてもいいかなって思ったの」
「俺もみさきとキスしたいなって思うけど、もっと大切にしたいって思っているし、こうして二人でいるだけでも楽しいって思うんだよね」
「私もだよ。だからね、今日は二人だけのキーホルダーを作れるのが嬉しいんだ。こうした幸せを積み重ねていった先に、二人の幸せが待っているのかもしれないしね」
少しだけゆっくり歩いた帰り道はいつもより明るく感じていた。みさきを送った後は家までの時間を計算しておこう。朝と夕方でそんなに時間は変わらないと思うけど、一応の目安にはなるはずだ。
家に帰ったらメッセージを考えなくちゃ。