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ヤンデレ彼女×サイコパス彼氏≒純愛  作者: 釧路太郎
第一部 日常生活編
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二人と一人と一人 佐藤みさきの場合

 まー君が来てくれたのはいいんだけど、お互いに黙ったままになってしまって沈黙が気まずい。私はまー君を見ていることが出来るので嬉しいのだけど、操先輩は大丈夫なんだろうか?


「あの、俺は何をすればいいんでしょうか?」

「え、あ、うん。えっと、私とお話ししてくれたら、嬉しいです」

「何の話をしたらいいですかね?」

「ごめんなさい、よくわからないです」


 沈黙に耐えられなくなったのかわからないけれど、時々まー君が操先輩に話しかけてもお互いに会話を広げないのでどうしようもない。私も何か言おうかなと思っても、操先輩が大丈夫だよの視線を送ってくるので、話に加わることが出来ないでいた。話自体が成立していないので加わることが出来ないってのもあるかもしれないけれど、操先輩は私が思っていたよりも人見知りが激しいのかもしれない。


 少しだけ開けていた窓から入ってくる風が心地よいのだけれど、まー君と操先輩はお互いに見つめ合ったまま動いていない。せっかくの陽気もこの二人には関係ないみたいで、このまま時間が過ぎてしまうと、何も成果が無いまま下校時刻になってしまいそうだ。

 そんな事を思っていた時にまー君がスマホを取り出すと、誰かにメッセージを送っているようだった。相手からの返事はすぐにきたみたいで、まー君はスマホを操作し終えると再び操先輩と見つめ合っていた。もしかしたら私より見つめ合っている時間が長いんじゃないかと思っていると、二人が同時に笑い出した。


「すいません、先輩があまりにも真面目な顔してるんで、笑ってしまいました」

「私の方こそごめんなさい。お願いしてる立場なのに笑っちゃった」

「いやいや、こんなのがきっかけでも話せるもんですね」

「確かに、こんな事で会話のきっかけになるなんて信じられないです」

「そう言えば、自己紹介がまだでしたね。俺は一年生の前田正樹です。そこに居るみさきの彼氏です」

「あ、私は二年の松本操です。みさきちゃんのお姉ちゃんにお世話になってる彼氏のいない女です」

「みさきとは遊んだことあるんですか?」

「渚先輩に遊んでもらってる時に何度か遊んだことはありますけど、二人っきりってのは無いですね」

「俺はあるんですよ」

「噂だと、二人は付き合って間もないのに凄い信頼関係を築いているって聞いたんですけど、どうしたらそんなに相手に信用してもらえるんですか?」


 沈黙を打ち破ったのがにらめっこだったのは意外だったけれど、そんなことをきっかけにして意外と話が弾んでるように見えるよね。でも、何の話をしているのか全然展開が読めないよ。

 二人は私の話をするときにチラッとこっちを見ているんだけど、その後に二人で見つめ合って笑ってるのが少し気に障って来たかも。操先輩は悪い人じゃないんだけど、あの胸を揺らして笑っているのもちょっと気になるよね。まー君は田中君と話してる時みたいな感じになっているし、私の知らない話題でも盛り上がっているし、人見知りを直したい操先輩にとってはいい相手だったみたいだね。でも、まー君はあんまり感情を動かさない方がいいと思うな。


「こんにちは、前田いるか?」


 ノックもせずに男子が入って来たと思ったら、まー君の友達の田中君だった。なぜこいつがここに来たのかは想像がつくけど、放課後のこの時間に学校に残って何をしていたんだろう。気にならないけど気になるわ。

 ん、さっきまで軽快に話していた操先輩が田中君が入ってきてから明らかに警戒している。田中君の顔を見ないように背中を向けているんだけど、ちょっとまー君の腕を掴んでいるように見えるのよね。そこは私の場所だと思うんだけど、今は許してあげようかしら。


「なあ、もしかして俺って迷惑かけちゃった?」

「いや、松本先輩はこんな感じの人らしいよ」

「どうも、初めまして。俺は前田の親友の田中董次です」


 操先輩は田中君が怖いのか、男子ならもれなく怖いのかわからないけれど、田中君の顔を一切見ずに挨拶をしていた。さっきから二人の距離が近いと思うんだけど、本当に協力しないといけないのかな。


「田中はちょっと変なやつですけど、意外と普通なんで大丈夫ですよ」

「普通って何だよ、嘘だとしても良いやつって言ってくれよ」

「嘘ならダメだろ」

「そうだな、嘘はダメだな。で、俺は何で呼ばれたわけ?」

「松本先輩は男が苦手らしいんだけど、それを克服するためにお前にも協力してもらおうと思ったわけよ」

「そんな事なら協力するけど、このままだとちょっと難しいよな」


 操先輩は田中君の顔を一度も見ていないと思うんだけど、ずっとまー君の陰に隠れてこっちの方を見ているよ。ああ、こんな事なら断っちゃえばよかった感じだけど、お姉ちゃんのお願いでもあるしちゃんとしなきゃね。それにしてもくっつき過ぎじゃないかな。


 操先輩はまー君から離れると、田中君を大きく避けて私の後ろに隠れだした。なんでこっちに来たのかはわからないけれど、見た目がもっさりしている割には良い匂いがしていた。私はちゃんと良い匂いしているのか気になっていたけど、操先輩が私にくっついているので変な匂いではないのだろう。それにしても、抱き着かれている腕が柔らかくて気持ちの良いものに包まれていて、ちょっと幸せな気持ちになってしまった。


「なあ、俺って本当に必要だったのか?」

「今は必要なさそうに見えても、いつか役に立つときが来ると思うよ」

「すぐに役立ててくれよ」

「お前じゃすぐには役立てられないよ」


 まー君と田中君は相変わらず楽しそうな事を言っているけど、操先輩は全く気にしている様子もなく、どちらかといえばこの部屋から逃げ出しそうな感じになっていた。実際に扉に手をかけようとしていたけれど、私がそれを全力で止めていたのだ。


「操先輩は頑張るつもりありますか?」

「あるよ。あるんだけどさ、みさきちゃんの彼氏と違って、あの男の人は落ち着かない感じなんだよ。上手く言えないけど、みさきちゃんの彼氏は私に対して何かしようって感じがしないんだけど、あの男の人はそうじゃないと思うんだよね」

「それって、まー君は操先輩に下心が無いけれど、田中君は下心があるってことですか?」

「そんな感じだと思うけど、私が勝手に感じているだけだから違うかもしれないよ」

「でも、三年のアリス先輩とか愛ちゃん先輩と話してる時もそんな感じだったし、まー君に告白してきた人にもそんな感じで接してましたよ」

「それって凄い事だけど、みさきちゃんの彼氏みたいな人って特別だと思うんだよね。それだけみさきちゃんの事が好きだと思うんだけど、普通の人は彼女いても他の女の子の事が気になったりしそうだけどね。何となくだけど、みさきちゃんの彼氏はみさきちゃん以外の女の子に一切恋愛感情を持ってないと思うよ。私の勘だけどさ」

「多分、その勘は当たってると思いますよ。実際にまー君はそんなとこありますから」


 さっきまでまー君と話していたのはまー君に下心が無いからだった。実際に下心は無いと思うけど、どうしてそんなことがわかるのだろう。表情や口調なんかで嘘をついているかはわかる事があるけれど、心の奥まで見通しているような感じなのが気になった。


「俺が先輩と付き合っちゃえば解決するんじゃね?」


 空気を読めない田中君がよくわからない事を言ってしまったために、この場の空気が音を立てて凍り付いたのがハッキリと分かった。


「え、冗談だって、そんなに怖い顔しなくてもいいよ。なあ、ってお前も怖い顔するなってよ。……ごめんなさい」


 田中君なりに場を和ませようとしたのかもしれないけれど、完全に間違ってしまったので修正のしようもなかった。まー君はどんな気持ちなのかわからないけれど、田中君の余計な発言以降ずっと真顔だったのが笑顔に変わっていた。


「お前の冗談って本当に面白くないよな。まるで、失敗したからごまかす為に冗談だって言い張ってるみたいだぞ」


 田中君は照れているのとは違うような表情で俯いていた。

 きっと、田中君はダメもとで告白しようと思ったんだけど、成功する確率が無い勝負に挑んで最悪の結果になっただけに過ぎないのだろう。それにしても、操先輩は眼鏡を外したら瞳も大きいし、近くにいると良い匂いがしているし、見た目を変えれば凄いモテそうな気がしてるけれど、まー君が好きなタイプにならないといいな。


 私のまー君は誰にも渡さないからね。

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