昼食会 佐藤みさきの場合
それにしても、まー君のスマホを持っていた女の子は誰なんだろう?
私もまだあんまり触ったこと無いのにあんなにいじってたのは気になっちゃうよね。だから、授業中で返事が来ない事はわかっているんだけど、ついついメッセージを送ってしまう。不安な気持ちがあるから仕方ないわよね。
普通に送っても楽しくないだろうし、私がちょっと前に撮った自撮りを送ってあげようかな。まー君は中学生の私と今の私ならどっちが可愛いって言ってくれるんだろう?
お姉ちゃんが撮ってくれた写真が一番盛れてるんだけど、自分で見てもやりすぎかなって思っちゃうんだよね。まー君が盛りすぎた写真が良いって言うなら明日から盛らなきゃいけなくなっちゃうのかな。
休憩時間にメッセージが返って来たんだけど、『加工してない方が可愛いと思うよ』って書いてあったから一安心ね。
お昼まではまだ二時間もあるんだけど、ちょっと長すぎて暇を持て余してしまうわ。授業でやっているところは今のところ理解出来ているんでいいんだけど、まー君がわからなくなって教えて上げることになるかもしれないし、完璧にしておきたいんだけど、さっきから休憩時間になると中山さんが私の周りをウロウロしているのよね。
「どうかしたの?」
「いや、みさきちゃんって可愛いし勉強も出来るし彼氏もいるしで私の理想だなって思って……言っちゃった」
「中山さんも可愛いし私よりも胸が大きいからいいじゃない」
「そ、そんなこと無いよ。それよりも、中山さんて呼ばないで、千尋でいいよ」
「わかったわ。千尋は私に何か用なの?」
「用ってわけじゃないけど、みさきちゃんと彼氏さんって仲良いから羨ましいなって思ってね。今日も一緒に登校していたみたいだから、さ」
「それじゃあ、ちょっと一緒に私の彼氏を見に行こうか」
まー君の話をしていたら急に姿を見たくなったんだけど、私のせいじゃなくて千尋が悪いのよね。さっきの変な女の子も気になるし、これは仕方ない事だわ。
千尋を連れてまー君のいる教室を覗いてみると、あの変な女の子がまー君に言い寄ってるじゃない。って、なんで泣いてるわけ?
それを見てしまった私は居ても立っても居られずに、まー君の席まで詰め寄ってしまった。
「ちょっと、これはどういうことなの? 説明してよね」
まー君は私以外の女の子にはそんなに優しくしていないみたいなんだけど、なんでか変な絡まれ方をされているみたいなのよね。愛ちゃん先輩も胸を押し付けていたし、この変な女の子も泣きついているし、もしかしたら千尋もウザ絡みしてしまうかもしれないわね。そうなったら友達付き合いも考えなくちゃいけなくなるわね。
「あの、前田君の彼女さんですよね?」
「そうだけど」
何だか見たことのない女の子に何があったか聞いたんだけど、この変な女の子がまー君に意味不明な告白をしていたみたい。でも、私がいるってちゃんと断ってくれたのは偉いわ。マンガとかアニメだと断らないでなあなあな関係でやり過ごす人も多いみたいだからね。私はちょっと嬉しくなってドヤ顔になってたかもしれないけれど、ごまかすためにもまー君の肩を叩いてしまった。
「そっか、まー君はモテモテなんだね。あんまりモテ過ぎたらダメだぞ」
予鈴が鳴ったんで教室に戻る事にしたんだけど、あの変な女の行動はこれからも気を付けておかなくちゃね。でも、まー君との時間をそんな事に割きたくないしどうしたらいいのだろう。
「それにしても、みさきちゃんの彼氏ってあの状況で告白されて断るなんて凄いよね。普通はあんなに可愛い子に言われたら悩むと思うんだけど、それだけみさきちゃんの事愛してるってことだよね」
「そうなのよ。二人は愛し合っているのよね」
「とても昨日付き合ったばかりとは思えないよ」
「大事なのは期間じゃないのよ、想いなの」
そうだ、千尋は彼氏もいないし暇そうだからあの変な女の事を調べてもらおうかしら。千尋なら友達も多いし苦にもならないだろうからね。
「ねえ、私達って友達よね」
「うん、そうだけど、なんか頼み事でもあるのかな?」
「ええ、話が早くて助かるわ。まー君に絡んでいたあの変な女の子の事を調べてくれないかしら?」
「いいよ。守屋紗耶香さんの事を友達に聞いてみるね」
私は彼氏にも友達にも恵まれているとつくづく感じてしまうわ。でも、なんで千尋はあの変な女の子の事を知っているのかしら?
あんまりしつこく教室に行くのも重いって思われそうだし、手を洗いに行くついでに教室を覗くくらいなら自然よね。さっきと違ってまー君に絡んでいる人もいないみたいだし、私も安心して授業に集中できるわね。スマホのバッテリーが無くなっちゃったから連絡取れないのは不便だけど、お昼になったらお姉ちゃんにモバイルバッテリーを借りたら大丈夫よね。今日の帰りも家に誘われたりするのかな?
いよいよお昼が近付いてきたんだけど、この数分がやたらともどかしいわね。授業も一区切りついて先生の雑談になってるんだけど、こんな無駄な時間を過ごすくらいならまー君のところに行きたいのに。
授業が終わる前だけど教科書もノートも片付けてお弁当バッグを机に置いて準備をしておく。これでいつでも迎えに行けるわ。
「お、佐藤さんはもうお腹空いて我慢できないのかな?」
「お腹はそんなに空いてないんですけど、彼氏に早く食べてもらいたくて準備してます」
「そうなのか、授業はもう終わってるんで今日はいいんだけど、もう少しだけ待ってね」
「はい、先生の授業は早いのにわかりやすくて嬉しいです」
これは先生もまー君のところに行くのを認めてくれたったことだよね。チャイムが鳴ったらすぐに迎えに行かなくちゃ。でも、ほんの数秒が長く感じてしまうわ。このまま時間が過ぎなかったら私は気が変になっちゃうかも。
授業の終わりと昼休みの始まりを告げるチャイムが鳴ると、私はまー君の教室に来ていた。さっきのやり取りのお陰なのか、千尋にも話しかけられなかったし、先生には感謝しておかなきゃね。
「先輩たちを待たせるのも失礼だし、一緒に行こうか」
私は一刻も早くまー君にお弁当を食べてもらいたくって、思わず手を引いてそのまま外へ向かって駆けだしてしまった。なぜかあの変な女の子もついてきているみたいだけど、今の私はそんな事に構っているほど暇じゃないのだ。
一番に付いてまー君にハグしようと思っていたのに、なぜか愛ちゃん先輩とアリス先輩が準備万端で待っていた。三年生は忙しいと思ったのに、なんでこんなに準備を整えられるんだろうか?
「二人とも早かったね。って、一人増えてるね。ま、いっか。みんなおいでよ」
「そうだね、一人増えるのも二人増えるのもそんなに変わらないし、楽しくやろうよ」
あれ?
今日はお姉ちゃんは一緒じゃないのかな?
それでもいいんだけど、バッテリーどうしたらいいんだろう。このままじゃ家に帰るまでまー君と連絡取れないよ。
そして、今回のまー君は初対面だと思われるアリス先輩に絡まれていた。ここまでくると、次に出会った人にも絡まれると思うんだけど、千尋には絡まれてなかったわね。ちゃんと会話らしい会話をしていなかったからかな?
「なあ、一年男子。今私を見て失礼な事を考えていなかったかな?」
「いえ、噂通り近くで見ても綺麗な人だなって思ってました」
「君の視線の先は顔ではなくて、胸元だったようだけれど、綺麗に整地されているとでも言いたいのかな?」
「その辺はよくわからないですけど、愛華先輩の胸は大きすぎるし、守屋さんも愛華先輩ほどではないけど大きいと思います。でも、俺は大きいより小ぶりな方が好きなんです」
「そうか、そんなことを宣言しなくてもいいんだけど、君はなかなかの変わり者らしいな。みさきの彼氏ってくらいだから想像はしてみたのだけれど、私が思っているよりも変わっているのかもしれないな」
まー君は私とアリス先輩の間に座ってるんだけど、これは巨乳から遠ざけているわけじゃなくて、まー君は愛ちゃん先輩から離れたいみたいだし、その横には私が座るから仕方ないのよ。私が巨乳の女の子から遠ざけたいわけではないのだからね。
「ねえ、もしかしてスマホのバッテリー切れてるの?」
私に変な女の子が話しかけてきたので驚いていると、そのまま話は続いていた。
「さっきからスマホを気にしているみたいだけど、電源入ってないよね? バッテリー切れならモバイルバッテリー貸そうか? 私は上着とお弁当を取りに行ってくるけど、必要だったら持ってくるよ?」
「でも、良いの?」
「いいよいいよ。前田君の彼女さんに嫌われたくないし、仲良くできたらいいなって思ってるからさ」
「でも、まー君の事好きで告白したんじゃないの?」
「好きは好きだけど、告白してきたら誰でもいいって感じの人だったら嫌だなって思っただけなんだよ。佐藤さんの彼氏を試すような事してごめんね」
「そうだったのね。ちょっと心配しちゃっただけだから大丈夫よ。それに、バッテリーお願いできるかな?」
「いいよ。みさきちゃんと仲良くなりたいのは本当だしね」
最初は変な女かと思っていたけど、守屋さんは良い人なのかもしれないわね。でも、ここで油断したらダメな気もするし、引き続き千尋には頑張ってもらわないとね。
私とまー君のために犠牲になってくれるのは嬉しいんだけど、これからお弁当を食べるのに時間は大丈夫かしらね?
「あの子ってまー君にウザ絡みしてたけど良い人なのかもね」
「みさきタンと一緒で真っすぐすぎるだけなのかもね」
「でも、まー君の上着がどれかわかるのかな?」
まー君の上着って私もじっくり見たわけじゃないからちゃんと選べるか自信ないんだけど、他の男子も似たようなのを着ているしわかるのかしら?
そんなことを考えていると、守屋さんはすぐに戻って来たわ。お弁当と上着を持っているけど、バッテリーはどこにあるのかしら?
「先輩たちはおにぎりだけで足りるんですか?」
「こんな感じの昼食が多いから慣れているけど、少し物足りない気持ちもあるかな」
「私が自分で作った奴なんですけど、良かったらどうですか?」
守屋さんもお弁当を自分で作ったようなんだけど、私が作ったのよりも彩が綺麗ね。いかにも女子が作ったお弁当って感じだわね。
アリス先輩も愛ちゃん先輩も美味しそうに食べているけど、まー君が食べるお弁当は私のだって決まってるんだから気にしないわ。二人がどんなに美味しく食べたとしても、私には関係ないんだし、まー君も興味を持つ理由もないのよね。
「まー君の分はこっちだよ」
私が作ったお弁当はカラフルさには欠けるけれど、味と男子に好かれる弁当という点では負けていないはず。他の女子に見せるわけじゃないし、まー君が好きになってくれたらソレだけでいいのだもん。
「これってみさきが作ったの?」
「そうだよ。あんまりお弁当って作ったこと無いから失敗してたらごめんね」
出来立てではないから心配だったけれど、まー君は美味しそうに食べてくれて安心した。どれも好きみたいなんで次のメインに困ってしまうけれど、どれを選んでも全部食べてくれそうな感じなので、次からはリクエストを聞こうかな。
「みさきタンのお弁当も少し食べてみたいな」
そう来ると思っていたので、他の人用のお弁当も用意してあったのだ。私の何だけど、今は良いの。
「あの、私も食べていいんですか?」
「うん、守屋さんも食べてよ」
「ありがとうございます。わあ、どれも美味しそう」
三人とも私のお弁当を食べているんだけど、美味しそうな顔を見るのは嬉しいものね。さりげなく守屋さんが自分のお弁当を勧めてくれたのも嬉しかったわ。
「そう言えば、今日はお姉ちゃんは一緒じゃなかったんですか?」
「ああ、何でも昨日みさきに告白した男子の愚痴を聞かないといけないとかで別行動になったよ。告白した直後に彼氏を作っていたのがショックだったみたいだね」
「でも、その人と私って何の関りもないですからね」
お姉ちゃんは昨日私に告白してきた人と一緒なんだ。勝手に頼まれてその後も愚痴を聞かされるなんてかわいそうなお姉ちゃんだよね。もっとはっきり断ればよかったのかな?
「それにしても、佐藤さんって料理上手なんですね」
「ありがとう。私の事はみさきって呼んでいいよ」
「じゃあ、私の事も紗耶香って呼んでくださいね」
「うん、同じ一年生同士お互いに仲良くやっていきましょうね」
まー君に告白した女子とも仲良く出来るってのは印象悪くないよね?
怒られるような事ではないと信じているよ。
「みさきは守屋さんが俺に告白したのは知ってるよね?」
「もちろん知ってるわよ」
「それを知っていて友達になるなんて、みさきは大人だね」
「ええ、紗耶香がまー君の事を好きなのは止めることが出来ないじゃない。無理矢理気持ちを捻じ曲げるのも違うと思うしね」
「いやいや、なかなかそう言う事は思ってても出来ないと思うよ」
「大丈夫なのよ。だって、私がいる限り紗耶香はまー君と付き合うことが出来ないんですもの」
ちょっとだけ釘を刺しておくけれど、これからも安心して付き合えるよね。