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ヤンデレ彼女×サイコパス彼氏≒純愛  作者: 釧路太郎
第二部 二人だけの世界編
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最悪な結末

 いつもよりは長めにお風呂に入っていたのだけれど、さすがに限界だと思って湯船から上がった。露天風呂に設置されているベンチに座っていると集落を囲んでいる背の高い木が若干揺れているのが見えた。僕が座っているこの場所には優しい風が吹き込んでいてとても心地良かった。

 しかし、風に吹かれていると若干ではあるが肌寒く感じておりもう一度だけ湯船につかってあがろうかと思っていたのだが、せっかくなのではいっていない内風呂に浸かってから出ることにしようと思った。

 露天風呂は相変わらず多くの人で賑わってはいるのだが、内風呂に入っているのは話をしたことのないおじいさんだけであった。誰もいないというのは少し気になっていたのだが、湯船につかってみるとその理由が簡単に分かった。と言うか、足を少し付けただけでも熱すぎるのだ。明らかに適温ではなく我慢して入らなければ無理な温度である。いや、無理をしても入っているのは無理だろうという温度であった。


「お兄さん。こっちのは熱めと言うか、熱すぎるから無理に入らない方が良いよ。ワシはここに慣れているから平気だが、あんまり熱い湯に浸かりすぎてるとアソコがバカになっちまうぞ」

「そう言うもんなんですね。では、僕はもう耐えられそうにないんでお先に失礼します」

「ああ、次にここに来ることがあったら露天だけにしておきなさいよ」

「はい、いつ来られるかわからないけどそうしておきます」


 この集落に来てからずっと思っている事ではあるのだが、ここの集落の人達はやはり優しい。石屋田先生にみさきの事を色々と聞いているとは言っていたけれど、僕に対してもみんなが優しいというのは元から皆が優しいという証拠ではないかと思っていた。そんな事を考えながら着替えていると、先程のおじいさんがお風呂から出てきたのだった。僕は軽く会釈をして外へ出ようと思っていた。


「お兄さんは牛乳を飲める人か?」

「牛乳はあんまり得意じゃないですね。お腹壊しやすいんで」

「そうか。それなら、コーヒー牛乳かフルーツ牛乳は飲めるのか?」

「その二つだったらコーヒー牛乳の方が好きですね」

「よし、そのまま待ってなさい」


 おじいさんはそう言うと冷蔵ケースの中からコーヒー牛乳を取り出して僕へ手渡してくれた。おじいさんは自分の分も取り出していたのだが、そのまま蓋を開けて飲みだしてしまった。無料ではないんだろうなと思って躊躇していたのだけれど、おじいさんは僕にも飲むように催促してきた。

 勝手に飲んでいいのだろうかという考えが頭から抜けてはいないのだが、おじいさんがじっと僕を見て目を逸らさないままなので、僕はおじいさんと同じように蓋を開けて飲むことにした。


 あれ、いつも飲んでるやつよりも甘さは控えめなのにちゃんと甘さを感じている。それどころか、飲み込んだ後に感じるコーヒーの香りも凄く心地良い。僕はその美味しさにびっくりしてもう一口飲んでみたのだが、それも最初と同じようにとても美味しく感じていた。なんでこんなにおいしいんだろうと思っていると、おじいさんは嬉しそうに僕にもう一本渡してきた。


「どうだい。うまいだろ?」

「はい、こんなおいしいの今まで飲んだことないです。なんでこんなにおいしいんですか?」

「それはだな、ワシらが色々とこだわって作っているからだな。牛乳自体は他から仕入れいているのだが、それ以外の材料はこの集落で色々と育てて拘っているのさ。特に、砂糖は色々な物を試して今に至るというわけなんだよ」

「へえ、砂糖が特別なやつなんですね。でも、勝手に飲んじゃっていいんですか?」

「ああ、これは大丈夫なんだ。ここにある牛乳はワシらの私物だからな。ワシらが作ったやつの出荷できなかった分がここに回ってくるというわけだな。旅館の朝ごはんの残りがワシらに回ってくるようなもんなんだよ。この集落は色々な面で支え合って助け合って暮らしているってなもんなのさ」

「それでしたら、なおさら外から来た僕みたいなのが頂くのって悪い気がするんですが」

「なに、気にしなさんな。ワシらが作っている物もお兄さんたちみたいな集落の外の人が消費してくれなくちゃワシらも困ってしまうのでな。お兄さんに今あげたのも試供品みたいなもんだと思ってくれてかまわんよ。それに、女湯の方でもばあさんたちがお兄さんの連れの人に同じようにすすめてると思うけどな」

「でも、このコーヒー牛乳はお世辞抜きで本当においしいですよ」

「だろ。でもな、飲んでもらわなくちゃ美味しいかどうかがわからないんだ。もしよかったら、友達や知り合いにもこいつらや温泉や旅館の事を宣伝してくれよ」


 僕は外に出る前にたくさんのコーヒー牛乳を貰うことになってしまったのだが、そのうちの一本だけをいただいていくことにした。


「お兄さんの連れの分も持っていったらどうだね?」

「いえ、たぶんですけど、僕の連れも同じようにたくさんもらってると思うので一本で十分ですよ。それに、次はちゃんとお金を出して買おうって思いますから」

「お兄さんは若いのにしっかりしているな」


 僕は嬉しそうにしているおじいさんに挨拶をして外へ出た。お風呂から出て結構立っているはずなのにまだ体がポカポカしていた。ちょっとだけ湯あたりしてしまいそうな感じがしてきたので、僕は外にある東屋で涼むことにした。

 みさきたちはまだ外へは出ていないというのを受付のおばさんに確認したのだが、それから数分経ってもみさきたちは出てこなかった。そろそろ出てくるのかなと思っていたのだけれど、みさきたちが出てくるよりも先にもらったコーヒー牛乳が無くなってしまっていた。僕は瓶の底に少しだけ残っているコーヒー牛乳眺めながら、もう一本貰っておけば良かったなと少しだけ後悔していた。

 それから更に少し経って、みさきたちが出てきたのを確認することが出来た。おじいさんの言っていた通りで、みさきたちも結構な量の瓶を持っているのだが、何本かすでに空になっているようにも見えた。空なら戻してくればいいのにと思ったが、それを持っているのがレベッカだったので僕はそこまで気にはしていなかった。

 そして、レベッカは僕とみさきの間に入って手を振っていた。それに関しては痛い何の意味があるのか理解することは出来なかったのだ。


「二人とも早かったね。もう少しゆっくりしてても良かったのに、大丈夫だった?」

「うん、まー君こそずっと待ってたんじゃないの?」

「いや、そんな事ないよ。さっき出てきたばっかりだからね」


 実際はお風呂から出て結構な時間が経っていたのだけれど、熱い温泉に浸かっていた効果なのか、今でも体の芯からポカポカとしたものが感じられた。そんな僕の肌に触れるみさきの手は冷たくて気持ちよかった。


「あ、温かいって事は、ちょうど同じくらいの時間に出たって事なのかな?」

「そうだよ。だから僕はそんなに待ってないってことだよ」

「良かった。結構待たせちゃったんじゃないかと思ってたよ。でもさ、意外と手は冷たくなってるんだね」

「さっきまで冷えたジュース飲んでたからかもね。ジュースを持ってたから手は冷えちゃったのかもしれないな」

「そうそう、ジュースといえばね、レベッカはたくさん牛乳とか飲んでたんだよ。途中でやめた方がいいんじゃないかなって思ったんだけど、中にいたおばさんたちがレベッカの飲みっぷりを見てたくさん奢ってくれたんだよね。飲み切れないくらいたくさん貰ったみたいだし、しばらくは飲み物に困らなそうだよ」

「凄いね。みさきの後ろで飲んでるのがその貰ったやつなのかな?」


 先ほどから気にはなっていたのだが、みさきが見ていないタイミングを見計らってレベッカが色々な牛乳を飲んでいるのだ。その立ち姿はとても様になっているのだが、明らかに飲んでいる量は異常だった。それはまるで、お酒好きな人が飲み放題で元を取ろうと必死になっているくらいの勢いに感じていた。感じてはいるのだが、僕はお酒の飲み放題に行ったことは無いのでただの予想ではある。


「ぷはぁ。正樹にあげようと思ってとっておいたんだけど、この牛乳たちは正樹じゃなくて私に飲んで欲しいって言ってたから飲んじゃった。正樹も美味しい牛乳が飲みたかったと思うけど、牛乳たちがそう言ってたんだから仕方ないよね。ごめんね」

「あ、別に僕の事なら気にしなくていいよ。あんまり牛乳とか好きじゃないし、たくさん飲んだらお腹を壊しちゃうからね」

「そうだったならそうだと先に言ってくれれば良かったのに。でも、この牛乳が飲めないってのはかわいそうだから、旅館に戻ったら私の持ってるお菓子を一つあげるわ。日本ではなかなか買えないようなお菓子だから楽しみにしててね。あ、もちろんみさきにも別のお菓子をあげるからね」


 僕は白い牛乳が苦手なのだけれど、外国のお菓子も同じくらい苦手だったりする。レベッカの持っているお菓子がどんなものなのかわからないけれど、結構な確率で僕が好きじゃないタイプのお菓子を持っていると予想が出来る。

 ただ、さっきまで元気に歩いていたレベッカが急に無言になっていて、僕から見ても小刻みに震えているように見えた。もしかして、何か良くないモノでも大量に摂取してしまったのではないだろうか。考えられるものは、お昼にたくさん食べたお弁当と、今さっきたくさん飲んでいた牛乳なのだが、きっと答えはその両方なのだろう。レベッカの顔は今にも泣きそうな表情に見えるし、心なしか顔色ももとより青白く見えていた。


「調子が悪そうだけど大丈夫?」


 きっとみさきはまだ気が付いていないのだろうが、レベッカのお腹はもう破裂寸前になっているだろう。僕にはそんな経験はないのだけれど、逆の立場だったらその辺の草むらに逃げ込んでいたに違いない。ただ、まだまだ幼き印象を受けるレベッカも立派な女性なので人前でそんな事は出来るはずもなく、異常に口数を減らして耐えているようだった。

 今の感じだと、きっと温泉に戻ってトイレを借りるよりも旅館に向かった方が良さそうに思えた。正確な距離はわからないのだが、何となく気分的に旅館に戻った方が良いように思えたからだ。


「ねえ、まー君。レベッカが大変な感じなんだけど、旅館と温泉だったらどっちが近いかな?」

「大変って何かあったのかな。って、顔が真っ青じゃないか。このままだとマズそうだし、今からだったら旅館に向かった方がいいんじゃないかな。温泉のトイレは受付の奥にあったはずだから入口からちょっと離れてると思う。でも、旅館だったら玄関のすぐ横にもトイレがあったと思うから、そっちの方がいいんじゃないかな」

「そっか、そう言う考えもあるんだね。レベッカは旅館まで行けそう?」

「……無理かも」

「じゃあ、僕の背中に乗っていいよ。あんまり揺らさないように慎重に歩くけど、なるべく早足にするから頑張ってね。悪いんだけど、みさきはレベッカの持ってるものを持ってもらってもいいかな?」

「うん、私が持つよ。レベッカも恥ずかしがってないでまー君の背中に乗って。今だけはまー君に触れることを許してあげるからね」


 なんだかんだ言ってもみさきは優しい子なので、困っている人がいれば自分が多少嫌だと思っても我慢できるのだ。きっとこれが、ご飯を食べた後でお腹いっぱいで動きたくないという状況だったとしたら、みさきは僕がレベッカをおんぶすることを許可しなかっただろう。それどころか、レベッカは今とは違う理由で顔が真っ青になっていたのかもしれない。

 レベッカを背負って感じていたのだが、やはり見た目が小さいこともあって体重は全然ないようだった。きっと、みさきよりも唯よりも体重は軽いのだろう。僕の肩を掴むレベッカの手も弱弱しい感じであったし、僕が支えているレベッカの足もそれほど肉がついているというわけではない。あまり大きく動いてしまうと振動が直接レベッカにも伝わりそうだと思った僕は、なるべく急いではいてもレベッカの事を大きく動かさないようにバランスを取りながら歩くことにした。

 最初は遠慮しがちに僕の肩に手を置いていたレベッカではあったが、いよいよピンチになってきたと思われるタイミングで僕の肩を掴む手に一層力が入っていた。おそらくだが、全身に力を入れることによってレベッカ自身は巨大な敵と戦っているのだろう。その戦いはレベッカの価値で終わってほしいと心から願っていた。


 ただ、僕のその願いもむなしく、レベッカは旅館に着いたという一瞬の油断をつかれて負けてしまった。その証拠に、レベッカの浴衣が何者かによって引っ張られているような感触を受けたのだ。正確に言えば浴衣の中に何かを入れたような状況になっていた。

 僕の背中でレベッカは子供のように泣いているのだけれど、僕も少しだけ涙がこぼれそうにはなっていた。僕はきっと最善を尽くしてレベッカをここまで運んできたと思うし、レベッカも小さい体を一生懸命使って耐えていたと思う。

 ほんの少しだけタイミングが悪かっただけなのだ。


「そうだ、二人が良ければもう一度温泉に入りに行こうよ。晩御飯までまだ時間はあるみたいだし、もう一回くらい温泉に入っても問題ないよね」


 相変わらず号泣しているレベッカも僕もみさきのその提案を拒む理由などは無い。レベッカは泣いたままトイレへと消えていったのだが、僕もそのまま無言でトイレへと入っていった。

 トイレにある鏡もつかって確認してみたのだが、僕には直接的な被害は無いようだった。精神的な被害はこの際だから気にしない事にしょう。

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